Waymoは2026年8月20日、第6世代Waymo Driverの車載計算機と、5nmプロセスのカスタムASICを初めて詳しく公開した。目を引くのは「1,000 TOPS超」という数字だが、これは単一チップの演算性能ではない。複数のASICが、カメラやLiDAR、レーダーから来る生データを融合し、ニューラルネットワークを走らせるために分担する公称性能である。
今回見えたのは、Waymoが自動運転用の計算を一枚の高性能SoCへ集約するのではなく、センサーのすぐ後ろに専用処理を置き、CPU、GPU、他のアクセラレーターと組み合わせていることだ。第6世代Driverを載せた新型車両「Ojai」は6月10日に最初の乗客を迎えた。Waymoは当初の提供先をフェニックス、ロサンゼルス、サンフランシスコとした。研究車両向けの構想ではなく、乗客運用に入った世代の計算設計が公開されたことになる。
Waymoによれば、車載計算機の要件は完全自動運転で積み上げた2億マイル超の経験を基に定めた。8年間で生の計算能力を20倍にしてきたという。しかし、今回の新しさをTOPSだけで測ると、センサーから制御までの仕事の割り振りを見失う。どのデータを専用回路で先に整え、どこから汎用計算へ渡すかが、このASICの役割を決めている。
1,000 TOPS超が担う前段処理・センサー融合・モデル実行
最新のシステムは13台の高解像度カメラのデータを同時にリアルタイム処理する。第6世代Driver全体では、13台のカメラに4基のLiDAR、6基のレーダーを組み合わせる。2月の発表でWaymoは、17メガピクセルの次世代イメージャーにより、5メガピクセルまたは8メガピクセルのカメラより少ない台数で車両周囲をカバーできると説明していた。8月の公開は、解像度が上がった画像を車内でどう扱うかという計算側の答えを補った。
ASICはセンサーデータの前段処理、融合、機械学習モデルの実行に特化する。低照度時には、前後の時刻に得た情報を使うtemporal denoisingを専用アクセラレーターで処理する。Waymoは、sparse convolutionからdense transformerまで異なるモデルを走らせるとしており、センサー、アルゴリズム、ASICを一緒に設計したという。
ここでいう前段処理は、画像を中核AIへ丸ごと渡す前に、走行判断へ使える状態へ整える仕事だ。決まったセンサーパイプラインを小さいバッチで扱うなら、データ移動や量子化も含めて専用回路へ寄せやすい。これはWaymoの共同設計の説明から導ける含意であり、同社は電力削減率や個別工程の遅延を公表していない。
13台のカメラを同時に扱うという条件では、各フレームを速く処理するだけでは足りない。低照度で前後の時刻を参照するノイズ低減、異なるセンサーの情報を合わせる処理、後段の認識モデルが使う表現への変換は、入力から制御まで連続している。Waymoが「pixels-to-actuation」の遅延を縮めたと述べるのは、この一連の受け渡しを含む。ただし、どの段階で何ミリ秒短縮したかは明らかにしていない。
走行判断はすべて車内で完結し、Waymoは数ミリ秒単位で処理すると説明する。「pixels-to-actuation」、すなわちカメラなどの入力から車両を作動させるまでの全スタックの遅延も縮めたという。ただし、改善前後の遅延や絶対値は示されていない。1,000 TOPS超を低遅延と読み替えることもできない。
自社ASICでもCPUとGPUを外さない
Waymoの車載計算機は、専用ASICだけで構成されない。CPU、GPU、アクセラレーターを使い分け、機械学習以外のオーケストレーション、データ移動、ログ記録も処理する異種混載システムである。ASICはそのなかで、センサーの入力を受け取り、融合とモデル実行を受け持つ部品として置かれる。
この分担は、自社チップの採用を「外部ベンダーからの全面移行」とみなせない理由でもある。WaymoはAMD、Micron、NVIDIAを協業先に挙げ、SamsungやTSMCなどとも協業している。ただし、Waymoは5nm ASICの製造委託先や派生プロセス、各社の分担を開示していない。TSMC N5Aの採用、あるいはNVIDIA製品を置き換えたという記述は、今回の情報からは導けない。
第6世代Driverでは、センサーと処理の複雑さの一部をカスタムシリコンへ移す方針が2月に示されていた。今回の公開で、そのカスタムシリコンが車載計算全体を担う単一の頭脳ではなく、複数の計算資源の間に置かれることが分かった。汎用の計算資源を残すのは、モデル以外の制御や記録まで含む車載処理を、同じ回路へ押し込まないためでもある。
役割ごとに計算を分ける設計は、モデルが変わる余地も残す。Waymoが挙げたsparse convolutionとdense transformerは、計算量の偏り方も必要なデータの扱い方も同じではない。前段ASICにすべての走行ソフトウェアを固定するのではなく、専用化しやすい入力処理を担わせ、CPUやGPUを含む残りの計算資源と組み合わせる。その分担が実際にどのモデルへ割り当てられているかは、まだ公表されていない。
二つの独立エンジンが支える故障時の継続
車両はデータセンターと違い、故障した部品を止めて交換するまで待てない。Waymoの車載計算機は二つの独立エンジンのように設計され、通常時は完全な並列ワークロードを実行する。一方が故障すると、もう一方が引き継ぐという。演算性能を増やすための並列化ではなく、走行を続けるための冗長設計である。
ただし、これはASICが2個あるという開示ではない。二つという数は計算システムの独立したエンジンを指し、各エンジンにどのチップが何個入るかは明らかにされていない。ASICの正式名称やダイサイズ、トランジスタ数は未公表であり、メモリー容量・帯域と消費電力も分からない。回路の冗長性と部品数を同じものとして数えることはできない。
Waymoは計算機を車両の液冷システムへ直接つなぎ、振動、衝撃、極端な温度でも性能を維持する設計だとする。バッテリー効率、トランク容量、静音性も乗客向け車両の条件に含めた。いずれも改善量は示していないが、車内完結の低遅延と冗長計算を両立させるには、チップの演算性能以外に冷却と実装が同時に問われる。
二系統を通常時から並列で動かすなら、非常時だけに起動する待機系とは異なり、両方が走行に使える状態を保たなければならない。冷却、振動、温度への対策が同じ発表に含まれるのは、その計算機が性能値を出すベンチマーク用ではなく、車両の限られた空間で連続稼働する前提だからだ。Waymoは乗客向けの条件を挙げたが、各条件とASICの電力・発熱の関係は数値で示していない。
NVIDIA Thorと数字だけを並べられない理由
NVIDIAのDRIVE AGX Thorは、単一SoCで最大1,000 INT8 TOPS、2,000 FP4を掲げる。64GBのLPDDR5X、最大273GB/sのメモリー帯域、16系統のGMSL2と2系統のGMSL3によるカメラ入力も仕様として公表されている。一見するとWaymoの「1,000 TOPS超」と近い数字に見える。
しかし、Waymoの数字は複数ASICの前段処理と機械学習モデルに関する公称性能で、演算精度もASICの個数も示されていない。メモリー、電力、実効性能も不明である。Thorは単一SoCの公称値であり、役割と開示粒度が違う。数字だけを横に置いて優劣を結論づける比較にはならない。
特に、ThorはINT8とFP4を分けて性能値を示すのに対し、Waymoは「これらのASIC」で1,000 TOPS超と記す。精度が異なれば同じTOPSという表記でも前提が変わる。センサーフュージョン専用のASIC群と、カメラ入出力やメモリー仕様まで開示された単一SoCを比べるには、少なくとも各処理の精度、ASICの個数、搭載メモリー、消費電力をそろえる必要がある。
Hot Chips 2026は8月23日から25日に開催され、Waymoは24日14時15分(太平洋夏時間)にDaniel Rosenband氏の基調講演、15時15分からsensor fusion processorの講演を予定している。チップの個数と演算精度、メモリー構成や電力、入力から作動までの実効遅延が示されれば、1,000 TOPS超が車両のどの処理をどこまで担うのかを初めて同じ物差しで検証できるようになる。



