AIを巡る支出は、2026年に2.59兆ドルへ達する見通しだ。Gartnerの予測では、その55%を超える1.43兆ドルがAIインフラへ向かう。Lovelock氏がThe Registerに説明した約1兆ドルは、テック企業自身のIT支出であり、AI専用の支出額ではない。投資の大きさを読むには、世界のIT購入額とAI市場を分け、インフラと各社の設備投資も別に見る必要がある。

費用の回収も一つの請求書にはまとまらない。法人向けソフトではAI機能が基本プランへ入り、クラウドでは利用量に応じて課金される。PCやスマートフォンにはメモリ価格が波及する。一方、ITサービスの買い手はAIによる生産性向上を理由に値下げを求めている。ソフトと端末では価格が上がり、受託サービスでは買い手が値下げを迫る。

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1.43兆ドルが買うもの、約1兆ドルとの違い

2026年のAI投資を読む際には、四つの異なる大きな数字が使われている。Gartnerが公開したAI支出予測にあるのは2.59兆ドルと1.43兆ドルで、6.37兆ドルと約1兆ドルはLovelock氏がThe Registerの取材で示した最新値だ。定義をそろえずに比較すると、建設費とソフト利用料、半導体購入額を同じ設備投資として数えることになる。

数字 対象 性質
6.37兆ドル 世界IT支出 ハード、ソフト、ITサービス、通信を含む最新予測
2.59兆ドル 世界AI支出 AIサービス、ソフト、モデル、インフラなどの市場予測
1.43兆ドル AIインフラ AI向けIaaS、サーバー、ネットワーク、半導体、デバイス
1兆ドル テック企業自身のIT支出 The RegisterがGartnerへの独自取材で得た推計

1.43兆ドルのAIインフラは、AI支出2.59兆ドルの55.15%に当たる。2025年の9,755億8,100万ドルから46.7%増える計算だ。クラウド事業者が買うAIサーバーに加え、AI向けIaaSやネットワーク、半導体、利用者側のデバイスまで含む。データセンター建屋の工事費と同義ではない。

1兆ドルという別の数字は、テック企業自身が使うITへの支出で、2026年に34.7%増えるとGartnerのJohn-David Lovelock氏はThe Registerに説明した。AI専用の設備投資額ではない。さらに同氏によると、GartnerのIT支出統計は建屋と冷却システムを除く。巨額であることは確かだが、AIインフラの物理的な総工費を示す数字でもない。

9カ月で2,859億ドル上振れした世界IT支出

2026年の世界IT支出予測は、2025年10月の6.084兆ドルから2026年7月の6.37兆ドルへ上がった。この9カ月の増加額は2,859億ドルで、当初予測の4.7%に相当する。前年比成長率も9.8%から14.2%へ切り上がった。

上方修正の中心はデータセンターである。Gartnerは2025年10月、2026年のデータセンターシステム支出を5,824億4,600万ドル、前年比19%増と見込んでいた。2026年4月には7,879億9,000万ドル、55.8%増へ改めた。半年で2,055億4,400万ドル、35.3%増えたことになる。

直近の取材では、IaaSだけでも2026年に2,870億ドル、29.3%増へ達する見通しだ。2025年の25.3%増からさらに加速する。AIモデルの支出も前年比110%増へ上方修正され、Gartnerは従来予測へ60億ドルを追加した。サーバーを設置する投資と、その上でモデルを使う支出が同時に膨らんでいる。

ただし、支出増の全額が販売数量の増加ではない。Gartnerの4月予測は、HBMが需要と供給制約によって記録的に値上がりし、一般のメモリ価格も端末の平均販売価格を押し上げるとした。7月時点の端末支出は9.8%増が見込まれるが、Lovelock氏は増加の相当部分を価格上昇が占めると説明している。AIインフラ需要と供給制約がHBMを値上げし、一般メモリの価格上昇は企業や消費者が買う端末にも表れる。

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AIを基本料金へ織り込むMicrosoftとGoogle

Microsoftは2026年7月1日、商用Microsoft 365の複数プランを値上げした。Teams込みのMicrosoft 365 E3は1ユーザー当たり月36ドルから39ドル8%上がり、Business Standardは12.50ドルから14ドル12%上がった。TeamsなしのFrontline向けF1は1.75ドルから2.50ドル43%上昇した一方、据え置いたプランもある。

同社は価格改定と並行して、受信箱とカレンダーを認識するCopilot Chatを追加した。Word、Excel、PowerPointのエージェントも使えるようになる。セキュリティやIT管理、メール容量もプランごとに増える。このため値上げ分をAI計算費だけに帰属させることはできない。それでも、AI機能を独立した追加契約にせず、広く使われる基本プランの更新価格へ入れる仕組みは明確である。Standalone Copilotは今回の値上げ対象外だ。

Google Workspaceは、AIを基本プランに組み込む方式を2025年に採用した。Business Standardは、AIなしの月12ドルからGemini込みの14ドルへ変わった。従来のGemini Businessアドオンを付けていた顧客は月32ドルを払っていたため、その契約から移る顧客の合計額は18ドル下がる。一方、アドオンを買っていなかった顧客の基本料金は2ドル16.7%上がった。

この同梱方式では、旧アドオン契約者の合計額は下がる。アドオンを契約していなかった企業にも新しい基本料金が適用される。ベンダーはAIを利用できる顧客数を一気に増やせるが、買い手は必要な機能だけを外して支出を抑えにくい。Gartnerが2025年10月に予測した「既存ソフトへAIが入り、機能とソフトの価格が上がる」という変化は、2026年の更新請求に現れている。

ハードとクラウドは投資回収の時間がずれる

Alphabetは2026年の設備投資を1,950億2,050億ドルと見込む。2025年実績914億4,700万ドルの2.1〜2.2倍である。ただし、この設備投資はGoogle Cloud専用でもAI専用でもなく、基盤モデルの開発、検索、YouTubeなど全社の計算需要を支える。

2026年第2四半期には449億2,400万ドルを設備へ投じた。同じ四半期のGoogle Cloud売上は247億6,800万ドル、営業利益は88億1,400万ドルだった。Cloud売上は前年同期比82%増え、企業需要を収益へ変えている。それでもAlphabet定義のフリーキャッシュフローは58億5,500万ドルの赤字となった。Cloudの利益率と、全社で先に支払う設備費は別の時間軸で動く。

Alphabet経営陣は、長期契約と更新需要に加え、投入コストを価格へ反映できるかを複数年の投下資本利益率で判断すると説明した。これは、設備を増やせば直ちに料金が同じ比率で上がるという話ではない。クラウドの利用量、TPUなどの製品販売、契約期間、更新時の価格を組み合わせて回収する。IaaSの29.3%成長を数量と単価に分けるには、各社が開示する利用量と実効単価を確かめ、利益率と現金収支への反映も追う必要がある。

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値上げ圧力と、ITサービスの値下げ要求

企業のCIOは、ソフトからハードまで各ベンダーが提示する値上げに抵抗している。Lovelock氏がThe Registerに語ったところでは、買い手が実際に値下げを引き出せているのはITサービス分野である。サービス事業者がAIを加えると、顧客は作業の効率化を見込み、より低い価格を求める。AIの導入が供給者の価格決定力を強めるとは限らない。

統計の外にも費用は残る。The Registerの取材でLovelock氏が説明したGartnerのIT支出統計は建屋と冷却設備を除き、電力需要は別に増える。米エネルギー省が紹介するLBNLの2025年更新推計では、米国のデータセンターは2030年に全米電力使用量の11.8%を占め、シナリオ幅は9.5〜15.3%に達する。これは米国の電力需要予測であり、AI企業の投資額や現在の実績ではない。だが、サーバー購入額だけでは設備拡張の全体像を測れないことは示している。

Gartnerは2026年を一般企業のAI支出が増える転換点とみるが、足元で企業が選んでいるのは効率と生産性を狙う漸進的な施策である。ソフトの更新価格が上がっても利用が増えるのか、IaaSとAIモデルの従量収入が設備費を吸収するのか、ITサービスでは生産性向上分が顧客へ戻るのか。三つの価格の動きを追えば、一般企業の利用が先行投資へ追いつき、2.59兆ドルの支出を持続的な需要へ変えられるかを判定できる。