General Motorsは近年、電気自動車(EV)事業で厳しい試練を経験してきた。Biden政権が後押しした最大7,500ドルのEV税控除は、Trump政権の下で廃止された。それに伴い、EV販売は伸び悩み、GMはFord、Stellantis、Hondaとともに電池投資から数十億ドル規模の損失を計上することを余儀なくされた。
同社は高い目標を掲げていたEV生産量を削減する一方で、すでに確保した電池製造インフラや研究開発能力を別の市場へ振り向ける動きに出た。その矛先として定めたのが、AIデータセンターの建設ラッシュによって急膨張しつつある大規模グリッドストレージ(電力貯蔵システム)市場である。
2026年6月10日にサンフランシスコで開催したブリーフィングでGMが発表した内容は多岐にわたるが、最大の注目点はPeak Energyとの提携によるナトリウムイオン(Na-ion)電池セルの開発計画だ。
ナトリウムイオン電池とは何か:LFP超越を狙う新素材戦略
現在、グリッドスケールの定置型蓄電市場で主流となっているのはLFP(リン酸鉄リチウム)電池である。ただし、LFP製造は中国企業が圧倒的シェアを握っており、Fordは中国最大手CATLと提携してLFP量産を進める方針を打ち出している。
GMは異なる化学的アプローチを選択した。ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池と同じくイオンの移動によって電力を蓄放電する仕組みだが、主要活物質がリチウムからナトリウムに置き換わる。元素周期表の同族に属するため化学的な類似性は高いが、電気化学的な挙動には重要な差異があり、定置型用途においてそれが大きなアドバンテージになるとGMは主張する。
最も重要な利点はアクティブ冷却システムの不要性だ。リチウムイオン系電池は発熱や熱暴走リスクへの対応として、大規模なシステムになればなるほど精緻な冷却・消火機構を必要とする。その結果として生じるシステム全体のコスト増大や保守負荷の複雑化が、従来のグリッドストレージ導入を阻む要因となってきた。
「ナトリウムイオンはその特性上、より広い温度域でより多くのサイクル数にわたって動作できる。大型の蓄電システムでは、これが決定的に重要だ」とGMのバッテリー・サステナビリティ担当バイスプレジデントKurt Keltyは述べた。Peak Energyのデータによれば、パッシブ冷却型Na-ionシステムは従来のリチウムイオン比で導入コストを少なくとも20%削減できるという。Keltyはまた、GMのプロトタイプが摂氏55度(華氏131度)という過酷な環境下でも良好な性能を示していると明かした。
さらに、ナトリウムは地球上で最も豊富な元素のひとつであり、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)などから比較的安価に精製できる。リチウムに依存した地政学的リスクが高まる中、米国内調達可能な素材で電池を構成できる点は、安全保障の観点からも評価されうる。
Peak Energyとの提携:「部品をなくせば、問題もなくなる」
Peak Energyは2023年設立のスタートアップで、Tesla、Lockheed Martin、バッテリー開発企業Northvoltの元社員を中心に構成されている。同社はすでに、パッシブ冷却型のNa-ionグリッドストレージシステムを開発・実証しており、Jupiter Powerをはじめとする顧客でのコスト低減と高い信頼性を実証している。
GMとの役割分担は明確だ。GMがナトリウムイオン電池セルを開発・製造し、Peak Energyはそれを自社のプロプライエタリな蓄電システムに組み込んでグリッド事業者や大規模電力消費者に提供する。
GM Energy部門の蓄電商業化ディレクターPaul Mensonは、このアプローチをひと言で表現した。「エンジニアリングの最高の答えは、部品をなくすことだ。部品を排除すれば、問題も排除される(This is the manifestation of the hardest part to engineer is no part at all)」。
GMは今回の提携でPeak Energyへの戦略的投資も実施するが、金額は非公表となっている。また、GMが次世代ナトリウムイオン電池を含む新化学品の商用化に向けてコミットした総投資額は9億ドルに上り、新しい電池開発センターの建設もその一環に含まれている。
2028年商用化へ:開発ロードマップと現在地
ただし、ナトリウムイオン電池の大量生産には時間がかかる。GMが示したロードマップでは、最初のセルが同社のBattery Cell Development Centerでトライアル生産に入るのは2028年の見通しであり、量産規模への移行には「少なくとも2年はかかる」とGMは説明した。TechCrunchはこの施設に独占的に招待されており、同センターの設立がナトリウムイオン電池の商用化プロセスを約1年短縮し、コスト削減にも寄与すると見込まれている。
商用化までの移行期間を埋める役割を担うのが、GMとLG Energy Solutionとの合弁企業Ultium Cellsが今月(2026年6月)中に開始予定のLFP電池製造だ。テネシー州の工場に対して3月に7,000万ドルの追加投資を決定しており、LG Energy Solutionの商業用蓄電事業向けにセルの供給を開始する。
長期的にはナトリウムイオン電池がEV向け用途に転用される可能性もあるとKeltyは示唆した。ただし現在の重量・エネルギー密度上の制約からすれば、それには4〜5年の技術成熟が必要だとの見方も示している。「我々はナトリウムイオンのごく初期段階にいる。コスト低減がどこまで進むのか、性能がどれほど向上するのか——その可能性はまだ大きい」と同氏は述べた。
LFP支配に挑む米国発の製造エコシステム
GMのナトリウムイオン戦略で注目すべきもうひとつの側面は、製造拠点を米国に置く点だ。中国はナトリウムイオン電池工場の大半を保有しており、CATLをはじめとするメーカーが技術開発でも先行している。GMはこれに対し、ミシガン州ウォーレンに構えるバッテリーR&D拠点とWallace Battery Cell Innovation Centerを活用し、米国内での開発・試作を進める。
「GMのアドバンテージはLMRや他の先進化学品を通じて積み上げてきた電池開発ノウハウにある。セル設計、試作、量産化という開発スタックを、EVからグリッドへそのまま横展開できる」とKeltyは強調した。
また、米国内での安定調達という観点からも、ナトリウム系素材はリチウムより地政学的リスクが低い。コスト圧力とエネルギー需要の急増が同時進行し、地政学的緊張が供給網を揺さぶる現在の市場環境において、これは実質的な差別化要因になり得ると同社は主張している。
使用済みEV電池の再活用:Redwood Materialsとの循環連鎖
GMが同日発表したもうひとつの取り組みは、電池リサイクル・蓄電スタートアップのRedwood Materials(元Tesla幹部J.B. Straubelが設立)との協業拡大だ。
GMはすでにRedwoodへ製造スクラップや使用済みEV電池パックを供給しており、現在約1万個の電池パックをパイプラインに入れている。Redwoodはそれをネバダ州SparksのCrusoe AIデータセンターに隣接した12MW/63MWhのマイクログリッドとして稼働させている。
さらにGMは来年(2027年)から、自社のミシガン州工場のひとつにRedwood製の7.2MWhシステムを導入する計画を発表した。約100パックの電池がディスパッチャブルな電力を供給し、施設の電気代をライフタイムで300万ドル超削減する見込みだ。「工場側はこれで信頼性の高い製造拠点になれる、と非常に喜んでいる。最終的には全工場に同様のシステムを導入するつもりだ」とKeltyは語った。
データセンターと工場では蓄電システムの使われ方が根本的に異なるとRedwoodのChief Commercial Officer、Cal Lanktonは指摘する。データセンターはGPUの電力変動を吸収するためにほぼ継続的に電池を使用するが、工場の場合はピーク需要のカットや停電時のバックアップ用途が中心となる。いずれにせよ、使用済みEVバッテリーをエネルギーインフラへ転用するという発想は、自動車メーカーにとって新たな収益化の経路を開くものだ。
車両の双方向充電:V2Gサービスと電力料金削減の可能性
GMが同日発表した取り組みはナトリウムイオン電池やリサイクルにとどまらない。EV充電インフラとグリッドの関係を再定義する二つの追加施策も示され、自動車メーカーとしての役割をエネルギー事業者に近づける意図が鮮明になった。
一つは、すでに約25万台が搭載している双方向充電機能(Vehicle-to-Grid、V2G)の積極的な活用推進だ。Chevrolet Silverado、Equinox、Blazer、複数のCadillacモデルが対象で、EV所有者がホームチャージャーに接続した状態で電力会社がピーク時に車両から電力を引き出せるようにする仕組みだ。GMは既にカリフォルニア州のPG&Eとの実証実験を進めており、PG&EはGMのEVオーナーがスマート充電機器を設置した際に4,500ドルのリベートを提供している。
「電力グリッドはEV、特に双方向充電対応EVを必要としている。EVは史上初の柔軟な電力需要源だ——最適なタイミングで充電し、グリッドに電力を戻すことができる」とPG&E CEOのPatti Poppeはイベントで述べた。将来的には「電力会社が電池を実質的に所有またはリース」し、消費者がEVをより安く購入できるモデルも検討されているという。
もう一つはEVユーザーの利便性向上策だ。GMは「Energy Pass」と名付けた新機能により、Tesla Superchargerを含む多くの公共充電ステーションでアプリ不要の充電開始を可能にした。また2027年モデル以降に生産する全EVにNorth American Charging Standard(NACS)ポートを標準搭載すると明言した。
米国の家庭用電力料金は2020年1月の12.76セント/kWhから2026年3月時点で18.83セント/kWhへと約48%上昇しており、2027年3月には約19セント/kWhへのさらなる上昇が米国エネルギー情報局(EIA)の予測で示されている。V2G機能のユーザー普及は、この電力コスト上昇への実質的な対抗手段になり得るとGMは訴える。
産業構造の変化と、残された課題
GM以外の自動車メーカーも同様の動きを見せている点は注目に値する。Fordはケンタッキー州の工場をグリッド向け電池製造に転換する計画を発表済みだ。電池リサイクルのRedwood Materialsも昨年、エネルギーストレージ部門を立ち上げ、自動車産業全体でEV製造投資の「出口」としてグリッドストレージが注目を集めている構図が浮かび上がる。
ナトリウムイオン技術には未解決の課題も残る。エネルギー密度はリチウムイオン電池に比べてなお低く、GMが目標とするLFP超越を実現するには技術的なブレークスルーが必要だ。製造エコシステムも中国に大きく偏っており、米国内でのスケールアップが製造コスト面でどこまで競争力を持てるかは未知数だ。
2028年という商用化目標も依然として仮置き状態であり、「少なくとも2年後」という慎重な表現が示すとおり、実際のタイムラインは延びる可能性を排除できない。Keltyが「ナトリウムイオンのごく初期段階」と自認している以上、開発段階でのリスクは相応に存在する。
Jupiter Powerとの協業成果をはじめとするPeak Energyの実績、そしてGMが9億ドルの投資をどの程度着実に技術進化へ転換できるか——2028年に向けた各マイルストーンの達成度が、この戦略の正否を決定づける。