2025年12月、半導体業界に地殻変動の予兆とも言える重要なレポートがもたらされた。長らくTSMCの独走が続いていた最先端プロセス技術とパッケージング分野において、Intel Foundry(以下、IFS)が強力な対抗馬として浮上していることが、GF Securities Hong Kong(広発証券香港)の最新分析によって明らかになったのである。

本稿では、NVIDIAAMDといった業界の巨人がIntelの次世代プロセス「14A」に関心を寄せる背景、そしてAppleBroadcomがなぜIntelのパッケージング技術「EMIB」に熱視線を送るのか、その構造的な要因と技術的な勝算を見ていきたい。

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TSMC「CoWoS」の限界とサプライチェーンの再編

なぜ今、競合他社であるはずのNVIDIAやAMDがIntelに接近しているのか。その最大の理由は、AIブームによって引き起こされた「パッケージング容量の危機」にある。

ボトルネックは「前工程」ではなく「後工程」

現在、生成AI向けのGPUやアクセラレータの製造において最大のボトルネックとなっているのは、シリコンウェハーそのものを作る「前工程」ではなく、複数のチップを繋ぎ合わせて一つのパッケージにする「後工程」、特にTSMCの「CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)」技術のキャパシティ不足である。

GF Securitiesのレポートによると、TSMCのCoWoS容量は限界に達しており、大手チップ設計企業(ファブレス)は代替案の確保に奔走している。ここで白羽の矢が立ったのが、Intelが数十年にわたり投資を続けてきた高度なパッケージング技術と、米国本土での製造能力だった。

NVIDIAとAMD:サーバーCPUに向けた「Intel 14A」の評価

業界を驚かせたのは、NVIDIAとAMDがIntelの最先端プロセスノード「14A」を、次世代サーバー製品(CPUおよびアクセラレータ)向けに評価しているという報道である。

「14A」が持つ技術的優位性

Intel 14Aは、単なる微細化の延長ではない。これはIntelが「ムーアの法則」を継続させるための社運を賭けたノードであり、以下の革新的な技術が投入されている。

  • High-NA EUVリソグラフィ: ASMLの最新露光装置をいち早く導入し、回路パターンの解像度を劇的に向上。
  • RibbonFET 2: 従来のFinFETに代わる「Gate-All-Around(GAA)」トランジスタ構造の第二世代。電力効率と性能を飛躍的に高める。
  • PowerDirect: 裏面電源供給技術(PowerViaの進化版)により、信号配線と電源配線を分離し、高密度化とノイズ低減を実現。

Intelによれば、14Aは前世代の18Aと比較して、ワット当たりの性能で15〜20%の向上、チップ密度で1.3倍の改善が見込まれているという。

サーバー市場での戦略的採用

NVIDIAの「Grace」CPUやAMDの「EPYC」シリーズは、これまでTSMCのプロセスに大きく依存してきた。しかし、GF Securitiesの分析は、両社がリスク分散とさらなる性能向上を求めて、Intel 14Aを次世代サーバーSKUの有力な候補として検討していることを示唆している。特にNVIDIAは、次世代HPCアーキテクチャのために常に最先端の技術を求めており、14Aがその要件を満たす可能性が高いと判断したと見られる。

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AppleとBroadcom:Intel「EMIB」への傾倒

プロセスノードへの関心と並行して、あるいはそれ以上に現実味を帯びているのが、Intelの先進パッケージング技術「EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)」の採用だ。

AppleのAIサーバー戦略と「Baltra」

特筆すべきは、Appleの動向である。AppleはBroadcomと共同開発しているとされるAIサーバー向けカスタムアクセラレータ(コードネーム:Baltra)において、IntelのEMIBパッケージングの採用を検討している。

当初、このチップはTSMCの3nmプロセスとCoWoSパッケージングで製造される計画であったが、CoWoSの容量不足により、Appleは代替策としてIntelの技術に目を向けた。EMIBは、シリコンブリッジを使用して複数のダイを平面上で接続する技術であり、TSMCのCoWoSに対する強力な対抗技術である。

プロセス評価も進行中:Mシリーズの行方

さらに、Appleはパッケージングだけでなく、チップ製造そのもの(前工程)においてもIntelと接触している。サプライチェーンからの情報では、AppleはすでにIntelの「18A-P」プロセスのPDK(プロセス設計キット)バージョン0.9.1を用いて評価を行っており、2026年第1四半期に予定されているPDK 1.0または1.1のリリースを待って、より大規模なテストに移行する可能性がある。

順調に進めば、2027年にはローエンドのMシリーズチップ、あるいは2028年のAIサーバーパーツにおいて、Intel製シリコンを搭載したApple製品が登場する可能性がある。これは、「iPhoneの頭脳がIntel製になる」という、数年前には想像もできなかったシナリオだ。

Googleとその他のプレイヤー:広がる「Intelエコシステム」

Intel Foundryに関心を示しているのは上記の企業だけではない。Googleもまた、自社のAIチップ「TPU(Tensor Processing Unit)」の将来のイテレーションにおいて、Intelの製造およびパッケージング技術を採用する可能性があるとされている。

これは、特定のベンダー(TSMC)への過度な依存が「安定性と競争にとって良くない」という認識が、シリコンバレー全体で共有され始めたことを意味する。DRAM市場の混乱などが示すように、単一の供給源に頼るリスク(Single Point of Failure)を回避しようとする動きは、巨大テック企業にとって必然の経営判断と言える。

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Intel、崖っぷちからの起死回生

このニュースは、Intel、特に前CEOのPat Gelsinger氏が推進してきたIDM 2.0(Integrated Device Manufacturer 2.0)戦略にとって、極めて重要な意味を持つ。

「ムーアの法則」維持への条件

Intelは過去の決算資料(10-Q filing)において、「外部顧客からの関心が得られなければ、ムーアの法則の追求(最先端プロセスの開発競争)から撤退する」旨の厳しい見通しを示唆していた。つまり、14Aノードの成功は、Intelが最先端半導体メーカーとして存続できるか否かの生命線だったのである。

財務健全化への道

現在、Intelのファウンドリ部門は巨額の赤字を計上している。しかし、Apple、NVIDIA、AMDといった「ハイボリューム」な顧客を獲得できれば、設備投資の回収サイクルは劇的に加速する。これら外部顧客の獲得は、技術的な勝利であるだけでなく、Intelの財務構造を根本から立て直すトリガーとなるだろう。

半導体地図の再描画

GF Securitiesのレポートが示唆するこれら一連の動きは、2020年代後半の半導体産業における勢力図が、現在とは大きく異なるものになる可能性を示している。

これまでは「設計は米国、製造は台湾」という分業体制が絶対的であったが、Intel 14AとEMIB技術の成熟により、「設計も製造も(あるいはパッケージングも)米国」という選択肢が現実味を帯びてきた。NVIDIAやAMDがIntelの工場でチップを作り、AppleがIntelの技術でパッケージングを行う未来──それは、TSMC一強時代の終わりと、多極化した新たなサプライチェーンの始まりを告げるものとなるかもしれない。

投資家や業界関係者は、Intelが提示するロードマップ(特に2026年のPDK 1.0の完成度と2027年の量産開始)が計画通りに進むか、固唾を飲んで見守る必要がある。


Sources