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イスラエルが世界初のレーザー兵器「ライトビーム」を実戦投入し、ヒズボラのドローン撃墜に成功

Y Kobayashi

2025年5月30日

イスラエル国防省、同国空軍、そして防衛大手RAFAEL Advanced Defense Systems社は2025年5月28日、開発中の高出力レーザー兵器システムが、初めて実戦投入され、多数の敵性ドローンなどの脅威を迎撃することに成功したと発表した。これは、SFの世界で描かれてきた指向性エネルギー兵器が、現実の戦場で明確な戦果を挙げた世界初の事例となり、軍事技術における新たな時代の到来を告げるものと言えるだろう。特に、ヒズボラが運用するドローンを撃墜した事実は、この技術の具体的な有効性を示すものとして注目される。

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歴史的転換点:レーザーが空を護る日

長年にわたり研究開発が進められてきたレーザー兵器だが、その実戦での「破壊」を伴う運用は、技術的なハードルから長らく実現が困難とされてきた。過去には、目標指示や測距、あるいは敵パイロットの目を眩ませる「ダズラー」としての限定的な使用例はあったものの、飛来する脅威を物理的に無力化する高エネルギーレーザーの実戦使用は、今回が紛れもなく史上初となる。

IMODの研究開発部門(Directorate of Defense Research & Development, DDR&D)責任者であるDaniel Gold博士は、「イスラエルは、大規模な運用可能なレーザー迎撃能力を世界で初めて実証した国となりました。我々のレーザー兵器配備のビジョンは、戦争中に多大な技術的・作戦的成功をもって実現されたのです」と、その歴史的意義を強調している。

今回使用されたのは、RAFAEL社が開発する「ライトビーム(Lite Beam)」と呼ばれる10kW級の高出力レーザー迎撃システムのプロトタイプであると報じられている。これは、同社が開発を進める、より強力な100kW級レーザー迎撃システム「アイアンビーム(Iron Beam)」のポートフォリオの一部であり、アイアンビーム本体は2025年後半にイスラエル国防軍への納入が予定されているという。

RAFAEL社が公開した映像には、レーザーがドローンの翼を焼き切り、墜落させる様子が捉えられており、その脅威除去能力の高さを視覚的に示している。同社のChairmanであるYuval Steinitz博士は、「RAFAEL独自の適応光学技術に基づくアイアンビームシステムは、間違いなく現代の戦場に前例のない影響を与えるゲームチェンジャーとなるでしょう」と自信を覗かせた。

「アイアンビーム」への布石:ライトビームの戦果とその意味

今回の戦果は、あくまでプロトタイプによるものだが、その意義は極めて大きい。IAFの航空防衛部隊の兵士たちが、戦時下という極限の状況でこれらのシステムを運用し、貴重な実戦データと運用ノウハウを蓄積したことは、本命である「アイアンビーム」の本格配備に向けた重要なステップとなる。

DDR&Dの研究開発部門長であるYehuda Elmakayes氏は、「戦時下に複数の高出力レーザーシステムプロトタイプを展開し、戦場での世界初の高出力レーザー迎撃成功という大きな成果を得ました。現在、これらの知見を開発中のシステムに統合しています」と述べており、実戦での経験が迅速にフィードバックされていることが伺える。

アイアンビームは、射程10kmに達するとされ、ロケット弾、迫撃砲弾、ドローンといった比較的小型で低速な目標に対する迎撃を主眼に置いている。イスラエルは既に「アイアンドーム」というミサイル迎撃システムを運用しているが、アイアンビームはこれに加わる新たな防空レイヤーとして期待されている。

特筆すべきは、そのコスト効率の高さだ。RAFAEL社のCEOであるYoav Tourgeman氏は、「アイアンビームは、既存のどのシステムにも匹敵しない、高速、精密、そして費用対効果の高い迎撃を可能にすることで、防衛の方程式を根本から変えるだろう」と語る。従来の迎撃ミサイルが1発あたり数万ドルから数十万ドルのコストを要するのに対し、レーザー照射のコストは電力代程度と、桁違いに低い。これにより、多数の安価なドローンやロケット弾による飽和攻撃に対しても、持続的かつ経済的に対処できる可能性が開ける。これは、国家の防衛予算を圧迫することなく防空能力を維持・向上させる上で、極めて重要な意味を持つ。

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なぜイスラエルが世界初たり得たのか?

イスラエルがこの分野で世界をリードできた背景には、数十年にわたるRAFAEL社とIMOD DDR&Dの緊密な協力関係、そして巨額の研究開発投資がある。特に、大気中の揺らぎによるレーザー光の拡散を防ぎ、エネルギーを目標に集中させるための「アダプティブオプティクス(補償光学)」技術のブレークスルーが、今回の成功の鍵を握っていると見られる。

IAF航空防衛部隊長であるG准将は、「今回の紛争における多数の空中脅威に対する我々のレーザーシステムの初期の作戦成功は、イスラエルにとって重要な成果である。これは、我が国の防衛産業の革新的な能力と、空軍兵士、特にこれらの最先端システムを戦闘中に統合・展開した航空防衛部隊兵士の並外れた適応能力を示すものだ」と、現場の能力と技術開発の融合を称賛した。

また、常に現実的な脅威に晒されてきたイスラエル特有の安全保障環境が、こうした革新的技術の実用化を加速させた側面も見逃せない。国家の存立に関わる喫緊の課題に対し、大胆な発想と迅速な実証・配備を優先する姿勢が、今回の歴史的成果に繋がったと言えるのではないだろうか。

レーザー兵器の夜明け:課題と未来への展望

レーザー兵器の実戦投入は、まさに軍事史における新たな章の始まりを意味する。しかし、その万能性が証明されたわけではない。高出力レーザー兵器は、依然として天候(雨、霧、砂嵐など)による影響を受けやすく、また、長距離での威力減衰や、鏡面処理された目標への効果低減といった課題も指摘されている。

それでもなお、今回のイスラエルの成功は、世界各国の軍事研究に大きな影響を与えることは間違いない。ドローン技術の急速な進化と拡散により、安価で非対称な脅威が増大する現代において、レーザー兵器はこれに対抗する有効な手段として、ますますその重要性を増していくと考えられる。

イスラエルは今後、アイアンビームの本格配備を進めるとともに、今回の実戦で得られた教訓を元に、さらなる改良や、海上・陸上プラットフォームへの展開など、レーザー技術の応用範囲を拡大していくことだろう。かつてSFの産物であった光線兵器が、現実の戦場で空を護る主要な役割を担う日は、もはや遠い未来の話ではないのかもしれない。


Sources

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