マクセルは2026年8月25日、1/2AA形の塩化チオニルリチウム電池(ER電池)と外形・出力電圧を合わせた、ワイヤレス充電対応の全固体電池モジュールを発表した。直径14.5mm、高さ25.2mmの筐体に全固体電池と昇圧回路、受電回路を収め、3.6Vを出力する。最高125℃と150℃に対応する2種類を用意した。ただし、いずれも開発品であり、既存ER電池との「互換」が意味するのは寸法と電圧までだ。容量や稼働時間を含め、どの機器でもそのまま置き換えられるわけではない。

AD

1/2AA形に電池と2つの回路を収めた

今回のモジュールは、量産品の全固体電池「PSB401010H」を使う125℃対応品と、開発品「PSB401010T」を使う150℃対応品に分かれる。両方とも出力は3.6V、外形は直径14.5mm、高さ25.2mmだ。負荷電流1mAで測った標準容量は、125℃品が3.6mAh、150℃品が2.7mAhである。

公開仕様 125℃対応品 150℃対応品
搭載セル PSB401010H(量産品) PSB401010T(開発品)
出力電圧 3.6V 3.6V
標準容量(負荷1mA) 3.6mAh 2.7mAh
作動温度範囲(負荷1mA) 0〜125℃ 0〜150℃
充電時間(25℃) 5.0時間 5.0時間
外形 直径14.5×高さ25.2mm 直径14.5×高さ25.2mm

この表から分かるのは、高温対応と容量に明確な交換条件があることだ。上限温度を125℃から150℃へ25℃引き上げた一方、容量は3.6mAhから2.7mAhへ0.9mAh、割合にして25%小さくなった。3.6Vという電圧が一致しても、センサーの待機電流、測定間隔、無線送信時のピーク電流が変われば、1回の充電で動く時間も変わってくる。マクセルは負荷1mA以外の容量特性、最大出力、充放電サイクル寿命を公表していない。採用判断には、実際の負荷波形を使った評価が要る。

前段に当たる2026年1月のER電池互換モジュールは、直径17.9mm、高さ50mmで、35mAhの容量を持ち、USB Micro-B端子から5Vで充電する設計だった。8月発表品は容量を小さくしながら筐体を1/2AA形へ縮め、受電回路まで内蔵した。変化の中心は、全固体電池そのものより、小型センサーへ非接触充電を組み込むモジュール設計にある。

密閉した温度ロガーをレトルト殺菌工程へ

マクセルが最初の用途として挙げたのは、レトルト食品の殺菌工程で使う温度ロガーだ。高温の食品製造工程では、温度を記録する電子機器にも耐熱性が必要になる。さらに水分の侵入を抑えるには、電池交換や有線充電のための開口部を減らしたい。筐体の外から給電できれば、密閉構造を維持しやすくなる。

同社はハウス食品と食品用温度ロガーの実用性を共同検証している。日本食品工学会第27回年次大会の公式プログラムには、2026年8月31日のインダストリアルプラザで「温度ロガー用全固体電池モジュールの開発」と題するマクセルの発表が掲載された。登壇者は荒木敏洋氏と本田裕二氏である。

現時点で公開されているのは、共同検証中という事実と発表予定までだ。使用したロガーの台数、殺菌温度と保持時間、温度測定の誤差は明らかになっていない。通信方式と筐体の耐水性能も未公表だ。したがって、食品工程での測定精度や耐久性について因果効果を論じられるデータはまだない。学会プログラムへの掲載は査読済み論文の公刊とも異なり、企業展示・発表の段階である。

AD

150℃対応と「約5倍」を同じ性能と見なさない

150℃対応品の背景には、マクセルが2024年に公表した電極設計の変更がある。同社は、正極活物質と固体電解質の界面で起きる副反応を高温劣化の主因と分析し、電極材料と配合を見直した。PSB401010Hの筐体を使った社内試験では、150℃で充電8mA・2.6VのCCCV方式、放電8mA・3%DOD cutの定電流という条件を設定した。DODは放電深度を指し、この試験は1サイクルごとに容量の3%だけを放電する条件である。

公開グラフを読むと、放電終止電圧が1.0V近傍へ下がる地点は、従来電極仕様がおよそ250回、新電極仕様がおよそ1,300回だった。マクセルはこの差を「約5倍」と表現している。約250回から約1,300回への変化は、150℃、8mA、3%DOD cutという限定したセル試験で得られた実験結果だ。今回発表した受電回路・昇圧回路入りモジュールを、実際の食品工程で5倍長く使えると示す数字ではない。

シミュレーション値との混同も避ける必要がある。2024年の比較は実験データであり、理論上の予測ではない。一方、試験セル数、独立した反復回数、誤差範囲、第三者による追試は公表資料から確認できない。再現性を評価する材料は不足している。

査読論文が説明した劣化機構、製品寿命データは未公表

全固体電池の劣化機構については、マクセルのKazuki Furukawa氏、Masayuki Yamada氏と大阪公立大学のKingo Ariyoshi氏が2025年、査読誌『Journal of Power Sources』に論文を発表した。論文名は「Quantitative analysis of side-reaction rates and capacity fading mechanisms in all-solid-state Li-ion batteries」、掲載巻は643、論文番号は237001、DOIは10.1016/j.jpowsour.2025.237001である。

実験対象は、コバルト酸リチウム(LCO)正極とチタン酸リチウム(LTO)負極、アルジロダイト型の硫化物系固体電解質を組み合わせた試験セルだった。電極径は9mm、固体電解質層は16mm、電極面に加えた圧力は4MPa、主な試験温度は105℃である。長期試験では、最初の2サイクルを0.25mA、続く100サイクルを1.5mA、最後の3サイクルを0.25mAで測った。確認できる実験方法には、独立セルの反復数が明記されていない。

研究チームは、評価した全固体セルでは材料自体の劣化より、正極と負極の充電状態(SOC)のずれが容量低下を支配したと報告した。対称セルの実験から各電極の副反応電流を求め、SOCの不均衡と容量低下を結ぶ理論モデルも提示している。実験とモデルを組み合わせたこの査読済み研究は、高温時の寿命予測を改善できる可能性を示す。ただし、1/2AAモジュール、ワイヤレス受電、レトルト殺菌工程を試した研究ではない。基礎セルで得た機構と、製品全体の寿命保証は分けて読むべきだ。

AD

実用化を決めるのは負荷と筐体材だ

専用充電器は入力5.0VのUSB給電で、5時間後に自動停止する。作動温度は0〜40℃、外形は縦65mm、横52mm、高さ38mmである。モジュールが150℃で動いても、充電器まで150℃に対応するわけではない。公表仕様に従えば、高温工程の外で充電し、工程中は蓄えた電力で測定する使い方になる。

「ワイヤレス充電」という表現にも条件が付く。マクセルは筐体材料によって給電できない場合があると注意し、充電器には搭載機器ごとの専用設計が必要だとしている。Qiなどの汎用規格への適合、送電距離、効率は発表していない。既存機器へ無条件で後付けできる部品ではない。

発売時期、価格、量産計画も未公表である。電池廃棄量をどれだけ減らせるかは、1個のモジュールを何回充電できるか、現場で何年使えるか、専用充電器を含む運用負荷がどれほどかで決まる。8月31日の発表で実工程の条件と結果が示され、さらに負荷別の稼働時間とモジュール全体のサイクル寿命が公開されれば、1/2AA形の利点を食品工場やIoT機器の設計へ結びつけられる。