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Micron、HBM4サンプル出荷開始:帯域2TB/s・容量36GBで次世代AIの性能限界を突破へ

Y Kobayashi

2025年6月11日

2025年6月10日(米国時間)、半導体大手のMicron Technologyは、次世代広帯域幅メモリ(HBM)である「HBM4」のサンプル出荷を複数の主要顧客に向けて開始したと発表した。1スタックあたり2.0TB/sを超える圧倒的な帯域幅と36GBの大容量を実現するこの「怪物メモリ」は、NVIDIAやAMDの次世代AIアクセラレータへの搭載が見込まれており、生成AIの進化を根底から支える重要な一歩となる。

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AIの“渇望”に応える「怪物メモリ」HBM4、ついに始動

Micronが今回サンプル出荷を開始したのは、12個のDRAMダイを積層した「12-Hi」構成のHBM4メモリだ。 容量は1パッケージあたり36GBに達し、その帯域幅は毎秒2.0テラバイト(TB/s)以上という驚異的な数値を誇る。

この性能は、現行のHBM3Eと比較して60%以上の性能向上と、20%以上の電力効率改善を両立している。 AI、特に大規模言語モデル(LLM)の学習や推論においては、膨大なデータをいかに速く、効率的にプロセッサに供給できるかが性能を左右する。 HBM4は、まさにその「メモリの壁」と呼ばれるボトルネックを解消するために生まれてきた技術と言えるだろう。

Micronによれば、量産は2026年暦年中に開始される計画で、これは顧客の次世代AIプラットフォームの市場投入スケジュールに合わせたものだ。本格生産は2026年初頭になる物と見られる。

HBM4は何が凄いのか?驚異のスペックを徹底解剖

HBM4が実現する性能は、いくつかの技術的ブレークスルーによって支えられている。ここではその核心部分を掘り下げてみたい。

帯域幅2.0TB/s超え:データ渋滞を解消する「超高速道路」

HBM4の最も際立った特徴は、その圧倒的な帯域幅だ。これは、メモリとプロセッサを結ぶデータの通り道であるインターフェース幅を、HBM3Eの1,024-bitから2,048-bitへと倍増させたことによって実現された。

2.0TB/sという帯域幅は、4K映画(約50GBと仮定)を40本、わずか1秒で転送できる速度に相当する。AIアクセラレータが膨大なパラメータを持つモデルを処理する際、この広大なデータハイウェイが、計算ユニットを待たせることなく、常にデータを供給し続けることを可能にする。 これにより、AIモデルの応答速度や、より複雑な問題を段階的に解く「思考の連鎖(chain-of-thought)」能力の向上が期待される。

12層スタックで実現する36GBの大容量

今回のサンプルは、Micronが実績を持つ1β(ワンベータ)DRAMプロセスと、12層のDRAMダイを垂直に積み重ねる高度なパッケージング技術によって製造されている。 この多層化により、1つのパッケージで36GBという大容量を達成した。

AIモデルの巨大化はとどまるところを知らない。より多くのパラメータを持つモデル全体を高速なHBM上に保持できれば、低速なストレージへのアクセスを減らし、処理速度を劇的に向上させることができる。HBM4の大容量化は、次世代のさらに巨大で高性能なAIモデルの実現に不可欠な要素だ。

電力効率20%向上:性能と持続可能性の両立

AIデータセンターの爆発的な増加は、その膨大な消費電力という課題も浮き彫りにしている。HBM4は、前世代のHBM3Eと比較して電力効率を20%以上も改善しており、データセンター全体の運用コストと環境負荷の低減に貢献する。 性能を最大限に引き出しつつ、消費電力を抑えるという、いわばアクセルとブレーキを両立させる技術であり、持続可能なAIインフラの構築において極めて重要な進歩と言えるだろう。

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NVIDIAとAMDが採用へ、次世代AIチップ競争の主戦場に

この革新的なHBM4を、業界の巨人たちが見逃すはずはない。既にこれまでの報道から、NVIDIAとAMDが早期採用者になると目されている。

  • NVIDIA: 2026年後半に投入が計画されている次世代AIアクセラレータ「Rubin-Vera」プラットフォームでの採用が見込まれる。
  • AMD: 次世代の「Instinct MI400」シリーズへの搭載が期待されており、詳細は同社のイベント「Advancing AI 2025」で明らかになる可能性がある。

2026年以降のAIチップ競争は、このHBM4の性能をいかに最大限に引き出すかにかかっていると言っても過言ではない。プロセッサの計算能力だけでなく、それを支えるメモリ技術が、AIの進化の鍵を握っているのだ。

残された課題と未来への展望

HBM4の登場はAIの未来を明るく照らすものだが、その道のりは平坦ではない。特に量産に向けた主要な障害として発熱がついて回るからだ。

12層ものDRAMダイを積層することは、必然的に発熱の問題を引き起こす。熱性能の最適化と、実際のAIワークロードにおけるベンチマーク性能の検証は、今後の主要な克服すべき障壁となるだろう。高性能化が進むにつれて発熱も増大するため、効率的な冷却ソリューションの開発は不可欠だ。また、理論上のスペックが、現実世界での最も要求の厳しいAIワークロードをいかに効果的にサポートできるか、その実証が求められる。

今日のAIの進化は、まさにメモリ技術の進化と表裏一体の関係にある。特に生成AIのような大規模モデルの登場は、データ処理能力のボトルネックをCPUやGPUからメモリへとシフトさせてきた。HBMのような高帯域幅メモリは、このボトルネックを解消し、AIアクセラレータがその真のポテンシャルを発揮するための生命線となっている。

MicronがHBM4のサンプル出荷を開始したというニュースは、単に新しい製品が出たという以上の意味を持つ。これは、AIの次の段階へ進むための、まさにインフラの礎が築かれつつあることを示唆している。36GBという大容量と2TB/sを超える帯域幅は、より複雑なAIモデルの実行、より大規模なデータセットの処理、そしてより迅速な推論を可能にし、AIの応用範囲をさらに広げるだろう。医療診断、金融分析、自動運転といった分野でのブレークスルーは、こうしたメモリ技術の進化に支えられているのだ。


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