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Huaweiが「HBM搭載スマホ」でAppleに先行?AIが求める新技術「LLW DRAM」とは

Y Kobayashi

2025年7月2日6:50AM

ChatGPT等の生成AIを駆動させているAIデータセンターでは、高性能メモリ「HBM(High Bandwidth Memory)」が用いられているが、このHBMがスマートフォンに搭載される可能性が浮上した。プロセッサの性能向上競争が頭打ちとなる中、次なる主戦場は「メモリ」へと移りつつあるのだ。そして、このHBM搭載スマートフォンを世界に先駆けて発売する可能性があるのが、なんと米国の制裁下にあるはずのHuaweiだという。果たして、制裁によって孤立を余儀なくされた企業が、いかにして最先端技術の先駆者となり得るのだろうか?

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なぜ今、スマホに「HBM」が必要なのか?

現在のハイエンドスマートフォンが直面する課題は、極めてシンプルだ。AIは、より速く、より大量のデータを欲している。しかし、それを供給するメモリの性能が追いついていないのである。

AI時代の到来とLPDDR5Xの限界:現在のスマホが直面する「メモリの壁」

現在、最高峰のスマートフォンには「LPDDR5X」という規格のメモリが搭載されている。このメモリは、最大で毎秒約68ギガバイト(68GB/s)のデータを転送する能力を持つ。数年前までは十分すぎる性能だったが、大規模言語モデル(LLM)のような生成AIをスマートフォン上で快適に動作させるには、この帯域幅ではボトルネックとなりつつある。

AIの処理、特に推論プロセスは、膨大なパラメータをメモリからプロセッサへと絶えず読み込む必要がある。このデータの通り道が狭ければ、いくらプロセッサが高性能でも宝の持ち腐れとなってしまう。これが、専門家たちが指摘する「メモリの壁(Memory Wall)」だ。スマートフォンの体験が、プロセッサの計算速度ではなく、メモリの転送速度によって律速される時代が到来したのである。

データセンターから手のひらへ:HBMがもたらす圧倒的帯域幅

この「メモリの壁」を打ち破る切り札として期待されているのが、「HBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)」だ。もともとは、NVIDIAやAMDのAIアクセラレータやスーパーコンピュータなど、データセンター向けに開発された技術である。

HBMの最大の特徴は、複数のDRAMチップを垂直に積み重ね、シリコン貫通電極(TSV)と呼ばれる微細な電極で接続する3D構造にある。これにより、チップ間の物理的な距離が劇的に短縮され、従来のメモリとは比較にならないほどの広い帯域幅(高速なデータ転送)と低消費電力を両立できる。まさに、AI時代の申し子とも言えるメモリ技術だ。このデータセンター級の技術が、いよいよ我々の手のひらに収まるスマートフォンに搭載されようとしている。

覇権争いの最前線:HuaweiがAppleをリードする可能性

この次世代メモリのスマートフォンへの初搭載競争において、誰もが本命視するAppleを、意外な挑戦者が追い抜く可能性がリーク情報から浮かび上がってきた。その名は、Huaweiだ。

リーク情報が示す「2026年」というマイルストーン

著名リーカーであるデジタルチャットステーション氏らの情報によると、HuaweiはAppleに先駆けてHBM(あるいはそれに類する技術)を搭載したスマートフォンを市場に投入する可能性があるという。一部の報道では、HuaweiによるHBMチップの開発が2026年末までに完了する可能性も示唆されている。

一方でAppleは、iPhoneの20周年にあたる2027年モデルでのHBM導入が噂されている。もしこの情報が正しければ、Huaweiは最大で1年近くAppleに先行することになる。AI機能で差別化を図る上で、この1年という時間は決定的な差を生む可能性がある。

逆境が生んだイノベーション:制裁下でHuaweiがメモリ技術に活路を見出す理由

なぜ、米国の厳しい輸出規制により、TSMCのような最先端半導体ファウンドリへのアクセスを絶たれているはずのHuaweiが、このような先進技術で先行できるのだろうか。

答えは、その逆境そのものにあると考えられる。プロセッサの微細化競争というメインストリートから締め出されたHuaweiは、生き残りをかけて別の技術領域でのブレークスルーを模索せざるを得なかった。それが、半導体の性能を向上させるもう一つの道、「アドバンスト・パッケージング」であり、その中核をなすメモリ技術だったのだ。

Huaweiは、海外サプライヤーに頼れない状況下で、中国国内のパートナー企業と連携し、独自のHBM開発を進めているとされる。これは、不利な状況を覆すための、極めて合理的な戦略的選択と言えるだろう。逆境が、皮肉にも技術革新を加速させているのである。

慎重な巨人Apple:2027年導入説の背景

対するAppleは、常に安定性とエコシステム全体のバランスを重視する企業だ。新技術の採用には比較的慎重で、コスト、消費電力、供給安定性などを徹底的に検証した上で、満を持して導入する傾向がある。2027年という導入時期の噂も、こうしたAppleの企業文化を反映しているのかもしれない。しかし、もしHuaweiの先行が現実となれば、AI競争で後れを取るリスクに直面することになる。

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「モバイルHBM」とは何か?その技術的実態

ここで一つ、重要な点を明確にしておく必要がある。スマートフォンに搭載されると噂の「HBM」は、データセンターで使われるものと全く同じではない可能性が高い。

真のHBMではない?「LLW DRAM」というもう一つの可能性

リーカーの固定焦点デジタル氏は、スマートフォンに搭載されるのは、よりモバイル向けに最適化された「LLW DRAM(Low-Latency Wide I/O DRAM)」のような技術ではないかと指摘している。これはSamsungなどが開発を進める次世代メモリで、HBMと同様に広帯域幅を実現しつつ、スマートフォンに求められる低消費電力や実装面積の制約に対応したものだ。

呼称が「モバイルHBM」になるか「LLW DRAM」になるかは定かではないが、本質は同じだ。3Dスタック技術を活用し、従来のLPDDR系メモリの限界を超える帯域幅をスマートフォンにもたらすこと。それが、この技術革新の核心である。

128GB/sの世界:オンデバイスAI体験はどう変わるか

Samsungの技術資料によれば、LLW DRAMは現行技術で最大128GB/sの処理速度を達成可能だという。これは、現在のLPDDR5X(約68GB/s)のほぼ2倍に相当する。

この帯域幅が実現すれば、スマートフォンのAI体験は劇的に変わるだろう。

  • より複雑なLLMの実行: より大規模で高機能な言語モデルを、クラウドに頼らずデバイス上で直接、高速に実行できるようになる。
  • リアルタイムAI処理: カメラ映像の高度なリアルタイム解析や、複雑なAR(拡張現実)の描画などが、よりスムーズになる。
  • 応答性の向上: AIアシスタントの応答が瞬時になり、より自然な対話が可能になる。

まさに、スマートフォンが真の「AIデバイス」へと進化する瞬間を、我々は目の当たりにすることになるかもしれない。

第三のプレイヤー、Samsungの動向

この競争において、決して忘れてはならないのがSamsungの存在だ。彼らは、HBMおよびLLW DRAMの主要な開発・製造メーカーであり、Appleへの重要なサプライヤーであり、そして自社のGalaxyスマートフォンでHuaweiやAppleと競合する、という三つの顔を持つ。

自社で最先端メモリを開発している以上、Samsungが世界に先駆けて自社のGalaxyシリーズに搭載する可能性も十分に考えられる。このメモリ革命の鍵を握るプレイヤーとして、Samsungの動向からも目が離せない。

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単なるスペック競争ではない、技術覇権の未来

HuaweiがHBM搭載スマートフォンでAppleに先行するという観測は、単なる一企業の成功物語ではない。それは、スマートフォンがAIを核とするデバイスへと進化する、大きな地殻変動の予兆である。

そして、米国の制裁という地政学的な圧力が、結果として中国企業の技術的自立と、特定分野におけるイノベーションを加速させているという、複雑な現実を浮き彫りにしている。プロセッサの微細化という一本道だけでなく、メモリ技術やパッケージング技術といった多様なアプローチが、今後の技術覇権を左右する重要な要素となるだろう。

2026年から2027年にかけて、我々の手にするスマートフォンは、内部のメモリ技術によって根底から再定義される可能性がある。その先陣を切るのがHuaweiなのか、Appleなのか、あるいはSamsungなのか。いずれにせよ、AIとメモリが織りなす次世代の競争は、すでに静かに始まっているのである。


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