2026年1月29日、Samsung Electronicsが発表した2025年第4四半期および通期決算と、それに伴うカンファレンスコールは、長らくTSMCの後塵を拝していた同社のファウンドリ事業における「明確な転換点」を示唆するものとなった。
市場関係者の間で囁かれていた歩留まりへの懸念を一掃するように、Samsungは最先端プロセスの順調な進捗を強調している。特に注目すべきは、AI(人工知能)およびHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)向けの「2nmプロセス」における受注拡大と、次世代「1.4nm」への具体的なタイムラインだ。
2nmプロセス:2026年下半期の量産に向けた「自信」
Samsung Electronicsのファウンドリ事業部が今回の発表で最も強く打ち出したメッセージは、次世代主力プロセスである「2nm(SF2)」の順調な進捗である。
「SF2P」プロセスの量産スケジュール
Samsung Electronicsは2025年第4四半期の決算説明会において、「2nmプロセスの歩留まりと性能目標をすでに達成しており、2026年下半期の量産開始に向けた準備は順調である」と明言した。
ここで重要なのは、Samsungが言及しているのが単なる初期2nmではなく、パフォーマンスを強化した「2nm第2世代(SF2P)」プロセスの量産を含んでいる点だ。Samsung公式ニュースルームの発表によれば、同社はすでに2025年第4四半期時点で「第1世代2nm製品の量産を開始」しているという。これは、リスク生産あるいは特定の戦略的顧客向けの先行生産と見られ、2026年下半期に予定されているのは、より広範な顧客、特にモバイルやHPC向けの本格的なボリュームゾーンへの展開であると解釈できる。
受注残高の急増と顧客基盤
技術的な達成以上に市場を驚かせたのは、具体的な受注見通しである。
Samsungは、2026年の2nm関連の受注規模が「前年比で30%以上増加する」との見通しを示した。
この成長を牽引するのは、以下の領域である。
- AIアクセラレータ: 生成AIブームにより爆発的に需要が増加しているNPU/GPU。
- HPC (High Performance Computing): データセンター向けの高性能プロセッサ。
- モバイル: フラッグシップスマートフォン向けSoC。
特筆すべきは、顧客との具体的な進捗状況だ。Samsungは現在、主要顧客とBPA(Benchmark Performance Assessment)評価を実施中であり、量産前の技術検証(Test Chipの製造など)が進んでいる。具体的な社名は公式には伏せられているものの、業界ソースはTeslaに加え、米国および中国の主要ビッグテック企業との協議が進行中であると伝えている。
1.4nmへの道筋:2029年量産とPDK配布計画
ムーアの法則の限界が叫ばれる中、Samsungは2nmのさらに先、「1.4nm(SF1.4)」のロードマップも明確に提示した。
開発タイムラインの全容
Samsungが明らかにした1.4nmプロセスのスケジュールは以下の通りである。
- 2027年下半期: PDK(Process Design Kit)Ver 1.0 を顧客に配布。
- 2029年: 量産開始(Mass Production)。
このスケジュールは極めて戦略的だ。PDKとは、ファブレス企業がチップを設計するために必要な製造プロセスのデータベースやルールのセットである。通常、最先端プロセスのチップ設計には1年半から2年を要する。2027年後半にPDKを提供開始するということは、顧客が2028年から設計に入り、2029年の量産開始に合わせて製品を投入できるエコシステムを構築することを意味する。
TSMC「A14」への対抗
この動きは、競合であるTSMCの「A14」(1.4nm相当)プロセスを強く意識したものである。TSMCも2027年から2028年にかけての1.4nm投入を視野に入れており、Samsungはここで遅れを取らない、あるいは先行して顧客の設計環境に入り込むことで、シェア奪還を狙っている。
「ターンキー」戦略:サムスン独自の勝ち筋
技術ノードの微細化競争と並行して、Samsungが強調しているのが「ターンキー(Turnkey)戦略」である。これは、IDM(垂直統合型デバイスメーカー)としてのSamsungの特性を最大限に活かしたアプローチだ。
HBM、ロジック、パッケージングの融合
AI半導体の製造において、ボトルネックは単なるロジックチップの製造だけでなく、高帯域幅メモリ(HBM)との統合や、それらをまとめる高度なパッケージング技術(2.5D/3Dパッケージング)にある。
Samsungは以下の3要素をワンストップで提供できる世界で唯一の企業である。
- Foundry: 最先端ロジック(GAA技術を用いた2nm/3nmチップ)。
- Memory: AIに不可欠なHBM4(2026年Q1に出荷予定の11.7Gbpsモデル含む)。
- Advanced Packaging: I-Cubeなどの異種チップ統合技術。
顧客にとって、これらを別々のベンダーに発注して調整するコストとリスクは甚大だ。Samsungはこの「統合ソリューション」を武器に、TSMC(CoWoSキャパシティが逼迫している)からの需要の受け皿となるだけでなく、AIチップ開発のプラットフォームとしての地位を確立しようとしている。
米国テイラー工場の稼働と地政学的リスクへの対応
米国テキサス州テイラー(Taylor)に建設中の新ファウンドリ工場についても、「2026年内の稼働開始に向けて計画通り進行中」であることが確認された。
この工場の稼働は、単なるキャパシティの拡大以上の意味を持つ。
米中対立や台湾海峡のリスクを懸念する北米の顧客(特にApple、NVIDIA、AMDなど)にとって、米国内に最先端プロセスの供給源を持つことは、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)において必須条件となりつつある。テイラー工場が2nmや4nmの製造拠点として機能し始めれば、サムスンは「地政学的な保険」としての価値を顧客に提供できることになる。
財務状況と市場の反応:底打ちは確認されたか
2025年第4四半期の決算数値は、半導体市況の回復を如実に示している。
- 全社売上高: 93.8兆ウォン(過去最高)。
- 全社営業利益: 20.1兆ウォン(過去最高)。
- DS(半導体)部門: メモリ事業の価格上昇とHBM需要が牽引し、大幅な増収。
ファウンドリ事業単体では、季節的な需要減や一時的なコストにより利益改善は限定的だったものの、モバイルおよびHPC顧客からの需要により売上は増加傾向にある。同社は2026年のファウンドリ事業について、「先端ノード技術に支えられ、二桁の売上成長と収益性の改善を目指す」と強気の姿勢を崩していない。
AI時代の「第2の選択肢」からの脱却
Samsungの今回の発表から読み取れるのは、「TSMCの代替」という受動的なポジションから、「AI時代の主要プレイヤー」への能動的な進化である。
2nmでの歩留まり確保と1.4nmへの明確なロードマップは、技術的な信頼性を取り戻すための必須条件であった。それに加え、HBM4やパッケージングを含めたターンキーソリューションの提供は、NVIDIAやAMDといった巨大ファブレス企業だけでなく、自社専用AIチップ(Custom Silicon)を開発しようとするGoogle、Meta、Amazonといったハイパースケーラーにとって極めて魅力的な提案となる。
2026年は、Samsungが技術的な約束(プロミス)を実際の製品(デリバリー)に変え、圧倒的な王者TSMCによる市場の寡占構造に風穴を開けることができるかどうかの、真の正念場となるだろう。
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