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NVIDIA、米規制下で中国向け廉価版Blackwell AIチップ「B40」投入か? H20の半額以下、GDDR7採用で性能はかなり抑え気味

Y Kobayashi

2025年5月26日

米国の厳格な輸出規制という逆風の中、半導体大手NVIDIAが中国市場向けに新たなAIチップを投入する計画であると、Reutersが報じている。最新のBlackwellアーキテクチャをベースとしつつも、性能と機能を大幅に絞り込み、価格を抑えた廉価版となる見込みだ。この動きは、巨大市場である中国でのビジネス継続と、急速にシェアを拡大する国内勢への対抗策と見られるが、米中技術デカップリングの現実を改めて浮き彫りにするものでもある。

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米輸出規制の壁、NVIDIAが中国市場に投じる次の一手「B40」(仮称)

Reutersが報じたところによると、NVIDIAは中国市場向けに特別設計された新しいAIチップセットを計画しており、早ければ2025年6月にも量産を開始するという。この新チップは、NVIDIAの最新世代「Blackwell」アーキテクチャを基盤としながらも、先に輸出が制限された「H20」チップよりも大幅に安価な価格設定になるとされている。

関係者の話では、新チップの価格帯は6,500ドルから8,000ドル程度と見込まれており、10,000ドルから12,000ドルで販売されていたH20と比較して大幅な値下げとなる。この価格差は、性能の抑制と製造プロセスの簡素化を反映したものだ。

Blackwellアーキテクチャ採用、しかし大幅なスペックダウン

新チップは、NVIDIAのプロフェッショナル向けグラフィックスカード「RTX Pro 6000D」をベースにすると報じられており、中国の証券会社GF Securitiesは、このチップの名称を「6000D」あるいは「B40」と予測している。

しかし、その中身はBlackwellアーキテクチャのフルスペックからは程遠いものとなりそうだ。特筆すべき変更点はメモリとパッケージング技術にある。

HBMからGDDR7へ、CoWoS不採用の背景と影響

最大の変更点は、高性能AIチップに不可欠とされる広帯域メモリ(HBM)の不採用だ。代わりに、より一般的なGDDR7メモリが搭載される。これは、米国の輸出規制がGPUのメモリ帯域幅に厳しい制限(Jefferiesの分析では1.7~1.8TB/s)を課しているためであり、H20(4TB/s)のような高性能は望めない。GF Securitiesは、新チップがGDDR7メモリで規制上限に近い約1.7TB/sの帯域幅を実現すると予測している。

さらに、TSMCが提供する高度なチップ積層技術「CoWoS (Chip-on-Wafer-on-Substrate)」も使用されないという。CoWoSは複数のチップレットを高密度に接続し性能を引き出す技術だが、コストが高く、また輸出規制の対象となる可能性もある。これらを回避することで、コスト削減と製造の簡素化を図る狙いがあると見られる。CoWoS不採用はチップがモノリシックな設計であることを示唆するものであり、データセンターグレードのGB1XXではなく、コンシューマー向けBlackwellシリコン(GB2XX、RTX 5090などで使用)の派生である可能性に繋がる。その場合、NVIDIA独自の高速インターコネクト技術「NVLink」も非対応となる可能性があり、マルチGPU構成時の性能スケーラビリティに影響が出るかもしれない。

H20の半額以下? 衝撃の価格設定とその狙い

6,500ドルから8,000ドルという価格帯は、H20の半額以下に迫る水準だ。この破格値は、中国国内の顧客にとっては魅力的な選択肢となりうる。この低価格戦略の背景には、米国の規制強化によって失いつつある市場シェアを何としても食い止めたいNVIDIAの強い意志が透けて見える。

NVIDIAの広報担当者はReutersに対し、「限られた選択肢を評価中」であり、「新製品の設計と米国政府の承認が得られるまでは、中国の500億ドル規模のデータセンター市場から事実上締め出されている」とコメントしており、依然として不確定要素が多い状況を認めている。

なぜNVIDIAは妥協を重ねてまで中国市場にこだわるのか

NVIDIAにとって、中国市場は過去会計年度の売上高の13%を占める重要な拠点だ。しかし、米国の輸出規制は段階的に強化され、NVIDIAは主力AIチップであるH100やA100の直接輸出が不可能になった後、中国市場向けに性能を調整したH800を投入。しかし、これも2023年10月には規制対象となり、さらにスペックを落としたH20を開発したが、2025年4月にはこれも事実上禁止されるという、まさに「いたちごっこ」の状態が続いてきた。

失われた市場シェアと巨額損失:Huaweiの猛追

この間、NVIDIAの中国におけるAIチップ市場シェアは、2022年以前の95%から現在は50%にまで急落したと、Jensen Huang CEO自身が認めている。その間隙を縫って急速に台頭しているのが、中国の通信機器大手Huaweiだ。同社のAIチップ「Ascend 910B」は、NVIDIA製チップの代替として中国国内企業からの採用が拡大している。

Huang CEOは、H20の禁止措置により、NVIDIAが55億ドル相当の在庫評価損を計上し、さらに150億ドル規模の売上機会を失ったことも明らかにしている。この巨額の損失を取り戻し、さらなるシェア低下を防ぐことが、今回の廉価版Blackwellチップ投入の大きな動機となっていることは間違いないだろう。

「500億ドル市場」への再挑戦とCUDAエコシステムの強み

Huang CEOは中国市場を「500億ドルの機会」と度々言及しており、規制の範囲内で最大限のビジネス機会を追求する姿勢を崩していない。この新チップが年末までに100万ユニット以上販売されれば、数十億ドル規模の収益をもたらす可能性もあるだろう。

性能面ではHuaweiのAscendシリーズ(最新は910Cとも噂される)に劣る可能性が指摘される中、NVIDIAが頼るのは長年培ってきた強力なソフトウェアエコシステム「CUDA」だ。多くのAI開発者やアプリケーションがCUDAプラットフォーム上で構築されており、この牙城がNVIDIAにとって大きな競争優位性となっている。

Jensen Huang CEOの危機感と米政府との「綱渡り」

Huang CEOは、「米国の輸出規制が続けば、より多くの中国の顧客がHuaweiのチップを購入するようになるだろう」と警告しており、現状に対する強い危機感を表明している。NVIDIAは、米政府の規制を遵守しつつ、中国市場でのプレゼンスを維持するという困難な「綱渡り」を強いられている状況だ。今回の新チップ開発も、そのギリギリのバランスの上で進められていると言えるだろう。

Huang CEOは先日のポッドキャストで、H20が採用していたHopperアーキテクチャでは、現行の米輸出規制下ではこれ以上の変更は不可能であるとも述べており、Blackwellアーキテクチャへの移行は必然的な流れだった。

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新チップ「B40」は中国AI市場のゲームチェンジャーとなるか?

この新たな廉価版Blackwellチップ「B40」(仮称)が、中国のAI市場にどのような影響を与えるのだろうか。

性能と価格のバランス:中国テック企業の選択は

最も注目されるのは、中国のテクノロジー企業がこのチップをどう評価するかだ。確かに価格は魅力的だが、性能は大幅に抑制されている。自国製のHuawei Ascendシリーズが性能面でキャッチアップしつつある中、CUDAエコシステムの利便性と、性能・価格のバランスを天秤にかけることになるだろう。特に、最先端のAIモデル開発を目指す企業にとっては、性能の制約が大きな足かせとなる可能性も否定できない。

米中技術デカップリングは加速するのか

今回の動きは、米中間の技術デカップリング(切り離し)がさらに進んでいることを示している。米国政府はAI分野における中国の技術的進歩を抑制しようと規制を強化し、NVIDIAのような企業はそれに従わざるを得ない。結果として、中国市場には最先端から数世代遅れた、あるいは機能が大幅に制限された製品しか供給されなくなる。これは、中国独自のAI技術開発を加速させる一方で、グローバルな技術標準からの乖離を招く可能性もある。

未だ残る不確定要素と、もう一つのBlackwellチップの影

この新チップ「B40」の正式な製品名や詳細なスペックはまだ明らかになっていない。また、NVIDIA広報が示唆するように、最終的に米国政府の承認が得られるかどうかも不透明だ。

さらにReutersは、NVIDIAがもう一つ、別のBlackwellアーキテクチャベースの中国向けチップを開発しており、早ければ2025年9月にも生産を開始する予定であるとも報じている。こちらのチップの詳細は現時点では全く不明であり、今後の情報開示が待たれる。

NVIDIAの中国戦略の行方

NVIDIAによる中国市場向けの廉価版Blackwell AIチップ「B40」(仮称)の計画は、米国の厳しい輸出規制という制約の中で、巨大市場との関わりを維持しようとする同社の苦心惨憺たる戦略の一端を示している。性能を大幅に妥協し、価格を引き下げることで、Huaweiなどの国内勢に対抗し、市場シェアのさらなる低下を防ぐ狙いがある。

しかし、この動きは同時に、AIという最先端技術分野における米中間のデカップリングが、より具体的かつ不可逆的な形で進行していることの証左でもある。新チップが中国のAI開発にどのような影響を与え、NVIDIA自身の収益にどう貢献するのか、そして米政府の規制が今後どのように変化していくのか、多くの不確定要素を抱えながら、NVIDIAの中国戦略は重大な岐路に立たされていると言えるだろう。


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「NVIDIA、米規制下で中国向け廉価版Blackwell AIチップ「B40」投入か? H20の半額以下、GDDR7採用で性能はかなり抑え気味」への1件のフィードバック

  1. 1スロットロープロファイルのビデオカードで4070程度の生成AIの性能が出て、お値段10万円ぐらいだったら欲しい。

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