ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)は2026年11月6日、長時間蓄電(LDES)と先進電池の製品開発・実証を支援するため、15件のプロジェクトに総額1,300万ドル弱を授与したと発表した。最大の採択案件はInlyte Energyの240万ドル超で、10時間以上の連続放電に対応する鉄ナトリウム電池を変電所に設置し、負荷増加への対応に活用する。ニューヨーク州は9月、初の大型蓄電公募で合計950MWの設備を契約したばかりだが、採択された8件はいずれもリチウムイオン電池を使用し、放電時間は4〜8時間だった。商用の大型蓄電設備ではリチウムイオン電池が選ばれる一方、研究開発資金はどのような電池化学や蓄電方式に配分されたのだろうか。
採択件数ではリチウム系が過半数、資金配分はほぼ3等分
今回の資金は、NYSERDAの「Power Generation and Storage Innovation Program」を通じて提供される。NYSERDAは採択にあたり、設計段階から安全性を高めた技術、電池セルの長寿命化と高効率化につながる材料、材料の調達先を多様化して安全性と州内のサプライチェーンを強化する取り組みの3点を重視した。採択対象は、ニューヨーク州内の企業、州内企業と協力する企業、または州内で開発・実証を行うプロジェクトに限られる。
公表された15件の助成額を合計すると、約1,285万ドルになる。個別の金額には「超」「弱」などの概数が含まれるため正確な合計ではないものの、NYSERDAが発表した総額と整合する。1ドル約157円(2026年10月26日の市場終値)で換算すると、約20億円に相当する。
XenoSpectrumでは、15件を主要な電池化学と蓄電方式に基づいて3つに分類した。リチウムを使用する電池の材料・部品を改良する「リチウム系」、ナトリウムを使用する「ナトリウム系」、それ以外の「その他」である。「その他」には亜鉛、バナジウム、金属空気電池に加え、電池ではない圧縮空気蓄電も含めている。
| 系統 | 採択企業 | 助成額 | 開発・実証内容 |
|---|---|---|---|
| リチウム系 | Daqus Energy | 100万ドル弱 | リチウムイオン電池向けの金属を含まない有機正極を開発。Binghamton大学の研究拠点NECCESと共同 |
| リチウム系 | IBEX Materials | 75万ドル | 黒鉛を使用しないシリコンリッチ負極と固体電解質を組み合わせる |
| リチウム系 | LiNova Energy | 72万ドル弱 | 重要鉱物を使用しないポリマー正極を備えたリチウムイオン電池を開発 |
| リチウム系 | Graphenix Development | 70万ドル超 | シリコン100%の負極と硫黄正極を組み合わせる |
| リチウム系 | LiBAMA Power | 40万ドル超 | 不燃性電解液を開発するElementiumと共同で、リチウム金属電池向けの金属負極を試験 |
| リチウム系 | AlphaEn | 35万ドル超 | 使用済み設備から回収したリチウムを利用できるリチウム金属電極の製造基盤を開発 |
| リチウム系 | InfinitEnergy | 25万ドル | 外部から機械的な圧力を加えずに動作する全固体電池を開発。電池化学の詳細は記載なし |
| リチウム系 | Orion Polymer | 25万ドル | リチウム硫黄電池向けの独自膜をパウチセルで実証 |
| ナトリウム系 | Inlyte Energy | 240万ドル超 | 10時間超の放電に対応する鉄ナトリウム電池を設置し、変電所のピーク負荷増加や配電網の強靭化に対応 |
| ナトリウム系 | Standard Potential | 180万ドル | 都市部のデマンドレスポンス向けに、ナトリウムイオン電池を用いた可搬型電源を設計・試作し、認証を取得 |
| ナトリウム系 | Alsym Energy | 29万ドル超 | 10kWhの不燃性ナトリウムイオン蓄電システムを試作。RIT Battery Development Centerと共同 |
| その他 | Urban Electric Power | 150万ドル弱 | 亜鉛・二酸化マンガン蓄電システムを長時間蓄電向けに開発・検証 |
| その他 | Sprocket Power | 100万ドル超 | 地下設置型のバナジウムレドックスフロー電池から給電するDC急速充電所を実証 |
| その他 | Respire Energy | 85万ドル超 | 独自の金属空気電池に使用する部材を試作・試験 |
| その他 | Aestus Energy Storage | 59万ドル超 | 先進圧縮空気蓄電(A-CAES)向けのセラミック蓄熱材2種類を、約35kWhの縮小規模で試験 |
※出典:NYSERDAの2026年11月6日付発表。系統はXenoSpectrum編集部による分類。
この分類では、リチウム系が8件で約442万ドル、ナトリウム系が3件で約449万ドル、その他が4件で約394万ドルとなる。件数ではリチウム系が過半数を占めるものの、助成額の構成比はそれぞれ約34%、約35%、約31%と、ほぼ3等分されている。つまり、リチウム以外の電池化学や蓄電方式に、研究開発資金の約66%が配分された計算だ。
ただし、この割合は分類方法によって変わる。Inlyteの鉄ナトリウム電池はナトリウム金属塩化物電池の一種であり、一般的なナトリウムイオン電池とは化学系が異なる。仮にInlyteを「その他」に分類すれば、ナトリウム系の助成額は約209万ドルとなり、3系統の資金配分は均等ではなくなる。また、InfinitEnergyの全固体電池については、NYSERDAの発表に使用する電池化学が記載されていない。今回リチウム系に含めたのは編集部の推定であり、リチウムの使用が明記されている案件に限れば7件となる。
NYSERDAは、このプログラムを商用化前の長時間蓄電技術や、従来型リチウムイオン電池に代わる技術を支援する枠組みと位置付けている。リチウム系の採択案件を詳しく見ると、中心となっているのは電池の構成材料を変更する開発だ。負極ではGraphenixとIBEXがシリコン系材料、AlphaEnとLiBAMAがリチウム金属を扱う一方、正極ではDaqusが金属を含まない有機材料、LiNovaが重要鉱物を使用しないポリマー材料を開発する。Orion Polymerは、リチウム硫黄電池向けの膜の開発を進めている。
州が契約した950MWはすべてリチウムイオン、研究資金は商用化前の技術へ
ニューヨーク州公益事業委員会(PSC)は2024年6月20日の命令で、2030年までの蓄電設備の導入目標を、州の気候法(Climate Act)が定めた3GWから6GW(6,000MW)へ引き上げた。計画では、調達中または契約済みの約1.3GWに加え、新たに4,700MWを導入する。その内訳は、系統規模の大型蓄電設備(bulk)が3,000MW、小売市場向け(retail)が1,500MW、住宅用が200MWだ。大型蓄電設備は年次の競争公募で調達し、各回で放電時間8時間級の設備を20%とする調達目標を設けた。ただし、これは目標値であり、採択結果に一定の比率を義務付けるものではない。
NYSERDAは2026年9月23日、初回の大型蓄電公募の結果を発表した。46件、合計約6GWの応募から8件、計950MWを契約し、すべてにリチウムイオン電池が採用された。放電時間は4〜8時間で、各設備は2030年末までに運転を開始する予定だ。NYSERDAのDoreen M. Harris総裁兼CEOは、この契約によって州内の系統規模蓄電設備の容量が既存水準の2倍以上になると説明している。
一方、今回の研究開発資金は、商用化前の長時間蓄電や、従来型リチウムイオン電池に代わる技術を対象としている。NYSERDAによれば、採択案件には定格出力で10時間を超える放電が可能な新しい蓄電方式も含まれ、送配電網の混雑、接続可能容量(hosting capacity)の制約、リチウムイオン電池の設置場所に関する制約などへの対応を目指す。財源は州のClean Energy Fundで、PSCのRory Christian委員長は、同委員会が監督する研究開発資金から支出されると説明した。
蓄電設備の「放電時間」とは、定格出力で電力を供給し続けられる時間を指し、蓄えられる電力量(MWh)を定格出力(MW)で割って求める。例えば、同じ100MWの設備でも、4時間型なら400MWh、10時間型なら1,000MWhの電力量が必要となる。また、接続可能容量は、配電網が新たな発電設備や蓄電設備を受け入れられる容量の上限を意味する。今回の発表で10時間超の放電を明記しているのはInlyteの1件だけで、残る14件には放電時間の記載がない。リチウム系の8件も、主に電池セルの材料や部品の開発を対象としている。
このように、ニューヨーク州の大型蓄電調達と研究開発支援では、対象となる技術の成熟度が異なる。950MWの契約は商用設備の導入に向けたものであるのに対し、約1,300万ドルの助成金は商用化前の技術開発や実証を支援するものだ。前者は設備の出力容量、後者は研究開発への投資額であり、単純に比較できる数字ではない。
10時間超の鉄ナトリウム電池と、タンクで蓄電容量を増やせるフロー電池
15件の中で最大となる240万ドル超の助成を受けたのが、Inlyte Energyだ。同社は10時間を超える放電に対応する鉄ナトリウム電池を変電所に設置し、ピーク負荷の増加への対応と配電網のレジリエンス(停電などからの回復力)向上を目指す。ただし、具体的な設置場所や実証時期はNYSERDAの発表に記載されていない。
Inlyteが開発する電池は、ナトリウム金属塩化物電池を基盤としている。2024年12月10日付のpv magazine USAの報道によると、この電池技術は1980〜1990年代に電気自動車向けに開発され、従来型ではナトリウムとニッケルの塩化物を使用していた。Inlyteは正極に使われるニッケルを鉄に置き換え、性能を維持しながら製造コストを引き下げようとしている。同社は、鉄やナトリウム、食塩など、豊富に存在する材料を利用できる点を利点として挙げる。ナトリウムを使用する点は共通しているものの、Alsym EnergyやStandard Potentialが扱うナトリウムイオン電池とは反応の仕組みが異なる。
Inlyteは2024年12月、電池の試験結果も公表している。商用生産されているナトリウム金属塩化物電池と同じセル形式を用い、1年以上にわたる試験で700回以上の充放電を繰り返しても容量低下は見られず、往復効率は90%だったという。往復効率とは、充電時に投入した電力量のうち、放電時に取り出せる割合を示す指標だ。一方、7,000サイクル以上の充放電寿命と20年間の使用寿命は、同社が試験結果に基づいて予測した値であり、実際にその期間の運用を検証した結果ではない。
Sprocket Powerには100万ドル超が授与され、地下に設置したバナジウムレドックスフロー電池からDC急速充電所に電力を供給する実証を行う。フロー電池は、エネルギーを蓄える電解液をセルの外部にあるタンクに貯蔵し、ポンプでセルに循環させて充放電する方式だ。出力は主にセルの規模、蓄えられる電力量は電解液の量によって決まるため、出力と蓄電容量を比較的独立して設計できる。長時間の放電が必要な場合は、タンクを大型化して電解液の量を増やすことで対応できる。
Aestus Energy Storageが受け取る59万ドル超は、電池ではなく先進圧縮空気蓄電(A-CAES)の開発に充てられる。空気を圧縮すると熱が発生するが、A-CAESではその熱を蓄熱材に貯め、放電時に圧縮空気を膨張させる際に再利用する。Aestusは、蓄熱材となるアルミナ・シリカ系セラミック2種類を約35kWhの縮小規模で試験し、得られた結果を20MWh規模のシステム設計に活用する計画だ。
この3件は、エネルギーの貯蔵方法が根本的に異なる。Inlyteの鉄ナトリウム電池はセル内部の電極材料を利用し、フロー電池は外部タンク内の電解液にエネルギーを蓄える。一方、A-CAESは圧縮空気と蓄熱材を組み合わせる方式であり、化学電池とは異なる仕組みで長時間蓄電を目指している。
亜鉛・二酸化マンガン電池の研究開発、2017年の論文から2026年の採択まで
Urban Electric Power(UEP)は150万ドル弱の助成を受け、亜鉛・二酸化マンガン蓄電システムを長時間蓄電用途向けに開発・検証する。蓄電システムには監視・制御技術も組み合わせる計画だ。この分野では、充電式電池としての性能を高めるための研究が以前から進められており、関連する技術的な進展を査読論文から確認できる。
二酸化マンガン(MnO₂)は安価な材料で、理論上は電子2個が関与する反応によって、1g当たり617mAhの容量を持つ。亜鉛を負極とする一次電池(使い捨て電池)の正極として広く利用されてきた一方、充電式のアルカリ系電池では、従来は理論容量の約10%しか利用できないという課題があった。
この課題に対し、CUNY Energy Instituteの研究グループは2017年、学術誌『Nature Communications』で大きな進展を報告した。研究チームは、層状の二酸化マンガン(バーネサイト)に酸化ビスマスを加え、層間に銅イオン(Cu²⁺)を挿入した正極を開発した。その結果、電子2個が関与する反応に近い容量を、6,000サイクル以上にわたって繰り返し取り出せたという。論文では、充放電に伴って溶解と析出を繰り返す層状構造に銅が出入りすることで、構造が安定化し、繰り返し充電できるようになったと説明している。ただし、これらは研究段階で得られた実験結果であり、UEPの製品や今回採択されたプロジェクトの性能を示すものではない。
NYSERDAによる長時間蓄電への研究開発支援は、今回が初めてではない。2023年8月には4件の実証プロジェクトに約1,500万ドルを授与し、2025年5月には550万ドル超の支援枠を設けた公募を実施している。2023年と2026年の両方で採択された企業の一つがUrban Electric Powerだ。ただし、2026年11月の15件が具体的にどの公募回で採択されたものかは、今回の発表からは確認できない。
| 時期 | NYSERDAの取り組み | 長時間蓄電に関する主な内容 |
|---|---|---|
| 2023年8月17日 | 実証4件に約1,500万ドルを授与 | Form Energyに1,200万ドル(鉄空気電池、10MW/1,000MWh)、UEPに703,965ドル(亜鉛アルカリ電池、100kW/1MWh) |
| 2025年5月22日 | 550万ドル超の公募(PON 5984)を発表 | 長時間蓄電(10〜100時間超)と先進・次世代電池が対象。応募締切は2025年7月24日 |
| 2026年11月6日 | 15件に約1,300万ドルを授与 | UEPに150万ドル弱、Inlyteに240万ドル超など |
2023年の採択案件を放電時間で比較すると、Form Energyの鉄空気電池は1,000MWhを10MWで割って100時間、UEPの亜鉛アルカリ電池は1MWhを100kWで割って10時間となる。2025年の公募が対象としていた10〜100時間超という放電時間は、これらの実証案件とほぼ重なる。なお、前身の「Renewable Optimization and Energy Storage Innovation Program」は、2025年5月時点で水素、亜鉛ハイブリッド電池、バナジウムフロー電池、鉄空気電池など20件以上に総額3,000万ドル超を授与していた。したがって、上の表は州による蓄電技術支援の全体を網羅したものではない。
2030年の6GW目標に向けた大型調達と、15件の開発・実証の行方
ニューヨーク州が新たに調達する系統規模の大型蓄電設備3,000MWのうち、初回公募で契約したのは950MWであり、残る約2,050MWは今後の年次公募で調達する計画だ。PSCの命令では、各回の調達に放電時間8時間級の設備を20%とする目標が設けられている。初回公募で採択された8件はすべてリチウムイオン電池を採用し、放電時間は4〜8時間だった。今後の公募でも同様の構成が続くのか、それとも長時間蓄電技術の採用が広がるのかが注目される。
一方、今回研究開発資金を受け取る15件については、各プロジェクトの設置場所や実証時期、どの公募回で採択されたかが明らかになっていない。最大の助成額を受け取るInlyteの鉄ナトリウム電池についても、具体的な設置先やスケジュールは公表されていない。なお、2023年にForm Energyの1,000MWh実証が発表された際も、実施場所は未定とされていた。
今回の発表で、NYSERDAのDoreen M. Harris総裁兼CEOは、次世代蓄電技術への投資が、多様なエネルギー資源を活用できる柔軟で強靭な電力網の構築に不可欠だと述べた。PSCのRory Christian委員長も、再生可能エネルギーの導入が進むにつれて蓄電の重要性が増し、既存のエネルギー資源をより効率的に利用できるようになると説明している。また、州の蓄電業界団体NY-BESTのWilliam Acker事務局長は、次世代蓄電技術の開発と商用化を加速するための重要な投資だと評価した。
ニューヨーク州の蓄電政策では、商用設備の導入と次世代技術の育成が並行して進められている。 初回の大型調達950MWはすべてリチウムイオン電池だった一方、今回の研究開発資金では、編集部の分類によると約66%がリチウム以外の電池化学や蓄電方式に向けられ、最大の助成額は10時間超の鉄ナトリウム電池に割り当てられた。今後は、残る大型蓄電調達で放電時間8時間級の20%目標がどう反映されるかに加え、採択された15件が具体的な設置計画や実証結果を示し、商用化へ進めるかが焦点となる。



