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Qualcomm、NVIDIA連携のAIデータセンターCPUでIntel・AMDに再び挑む

Y Kobayashi

2025年5月19日6:04PM

台北で開催されたテクノロジー見本市「Computex」にて、Qualcomm CEOのCristiano Amon氏は、NVIDIAのチップやソフトウェアと連携可能なカスタムCPU(中央処理装置)をデータセンター向けに投入する計画を明らかにした。長らくスマートフォン向け半導体で市場を牽引してきたQualcommだが、この一手はAIインフラの覇権争いが激化する中、同社の多角化戦略を加速させる重要な布石と言えるだろう。果たして、Qualcommの新たな挑戦は何を意味し、成功の公算はどこにあるのだろうか?

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AI時代の心臓部を狙え:Qualcommが投じた次の一手、NVIDIAとの「連携」が鍵

現代のAI技術、特に大規模言語モデル(LLM)に代表される生成AIの進化は、膨大な計算処理能力を要求する。その処理の多くを担っているのが、NVIDIA製のGPU(グラフィックス処理ユニット)であることは論を俟たない。しかし、GPUはその能力を最大限に発揮するために、常にCPUと協調して動作する。このCPU市場は、長らくIntelとAMDという二大巨頭が牙城を築いてきた領域だ。

QualcommのCEO、Christiano Amon氏は、台湾で開催された「Computex」の基調講演で、データセンター向け製品に取り組んでいることを明らかにし、「ユニークで破壊的なものがあれば、Qualcommの出る幕はある」と市場再参入への意欲を示した。 同社は過去にもArmベースのサーバー用CPU開発に挑戦したが、2018年に市場から撤退。しかし、2021年にAppleの元チップ設計者が設立したNuviaを買収して以来、水面下で開発を再開していた。

今回発表された計画では、QualcommのカスタムCPUがNVIDIAのGPUやソフトウェアと連携することを明確にしている。 これは、AI処理において圧倒的なシェアを誇るNVIDIAのGPUとの高い親和性を確保することで、競争優位性を築こうという戦略の表れと言えるだろう。アモン氏は、「我々のカスタムプロセッサをNVIDIAのラックスケールアーキテクチャに接続する能力により、高性能でエネルギー効率の高いコンピューティングをデータセンターにもたらすという共通のビジョンを前進させる」と述べている。

NVIDIAの新兵器「NVLink Fusion」とは?開かれるセミカスタムAIインフラの道

奇しくも同日、NVIDIAは「NVLink Fusion」という新たな技術を発表した。これは、業界で広く採用されているNVIDIAのコンピューティングファブリック「NVLink」を基盤に、パートナー企業がセミカスタムのAIインフラを構築できるようにするものだ。 NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏は、「AIはあらゆるコンピューティングプラットフォームに融合されつつあり、データセンターは根本的に再設計されなければならない。NVLink Fusionは、パートナーが特化したAIインフラを構築するために、NVIDIAのAIプラットフォームと豊富なエコシステムを開放する」と、その意義を強調している。

NVLink Fusionは、MediaTek、Marvell、Alchip Technologies、Astera Labs、Synopsys、Cadenceといった名だたる半導体関連企業が採用を表明しており、まさにエコシステム形成を重視した戦略と言える。そして注目すべきは、このエコシステムの中に、富士通と共にQualcomm Technologiesの名前も挙げられている点だ。 これにより、QualcommのカスタムCPUは、NVIDIAのGPUとNVLink Fusionを介して緊密に連携し、AIモデルのトレーニングや推論処理において高いパフォーマンスを発揮することが期待される。

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Qualcomm、データセンター市場への「再挑戦」:過去の教訓とNuvia買収の意義

実は、Qualcommにとってデータセンター向けCPU市場への挑戦は今回が初めてではない。2010年代にもArmベースのCPU開発を進め、Meta Platforms(旧Facebook)などとテストを行っていたが、コスト削減や法的な課題などから、当時は大きな成果を上げるには至らなかった。

しかし、今回の再挑戦は、過去の経験と大きな環境変化を踏まえたものと言える。その最大の転換点となったのが、2021年のNuvia買収だ。Nuviaは、AppleでiPhone向け高性能チップ開発を主導したエンジニアたちが設立したスタートアップであり、ArmベースのカスタムCPU設計において高い技術力を持つ。この買収により、Qualcommは高性能かつ電力効率に優れたCPUコアを自社開発する能力を大幅に強化した。実際、Nuvia買収後、Qualcommは再びMeta PlatformsとデータセンターCPUに関する協議を進めていると報じられている。

現在のデータセンター市場は、Intel、AMDの既存勢力に加え、Amazon (Graviton)、Microsoft (Azure Cobalt/Maia)、Google (TPU/Axion) といった大手クラウドプロバイダーが自社設計のArmベースCPUを積極的に導入・展開するなど、競争環境は複雑化している。このような状況下で、QualcommがNuviaの技術を活かしたカスタムCPUでどのような差別化を図り、市場に食い込んでいくのか、その戦略が注目される。

スマホ依存からの脱却:Qualcommの多角化戦略とAIへの賭け

Qualcommの今回の発表は、同社が進める事業多角化戦略の文脈で理解する必要がある。伝統的にスマートフォン向けのプロセッサやモデムチップの売上が収益の柱であったQualcommだが、スマートフォン市場の成熟化や競争激化を受け、新たな成長ドライバーの確立が急務となっていた。

その一環として近年注力しているのが、PC向けチップ市場だ。Intelが長年支配してきたこの市場に対し、QualcommはArmベースの「Snapdragon X」シリーズを投入。高い電力効率とAI処理能力を武器に、Windows PCの新たな選択肢として存在感を高めつつある。Amon CEOはComputexのプレゼンテーションで、Snapdragon Xシリーズを搭載したPCのデザインが既に85機種以上販売または開発中であると述べ、さらに今年9月の年次サミットで新たなPC向けチップを発表する計画も示唆した。こうしたPC市場での手応えが、より大規模なデータセンター市場への再挑戦を後押しした可能性は否定できない。

Qualcommは、クラウド上ではなくデバイス上でAI処理を行う「オンデバイスAI」の推進にも積極的だ。オンデバイスAIは、処理の高速化、プライバシーやセキュリティの向上といったメリットが期待されており、PCやスマートフォンにおけるユーザー体験を大きく変える可能性を秘めている。データセンター向けCPUへの参入は、クラウドからエッジ、そしてデバイスまで、AI処理のあらゆるレイヤーでQualcommの技術が存在感を示すための、包括的な戦略の一翼を担っていると見ることができるだろう。

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サウジアラビアAI企業Humainとの連携

Qualcommのデータセンター戦略は、グローバルな視点も持っている。先週、同社はサウジアラビアを拠点とするAI企業Humainと、データセンター向けカスタムCPUを共同開発するための覚書を締結したことを認めている。Humainは、サウジアラビアの政府系ファンドであるPublic Investment Fund(PIF)傘下で活動する企業であり、この提携は、オイルマネーを背景にAI分野への投資を加速させる中東地域の動向とも連動している。

世界各国でAI開発競争が激化する中、それを支えるデータセンターインフラの重要性はますます高まっている。Qualcommのようなグローバル企業が、特定の地域や企業と連携してカスタムCPUを開発する動きは、AIインフラ構築における新たな潮流となるかもしれない。

Qualcommの新CPUは何をもたらすのか?

Qualcommの新たなデータセンターCPUが、具体的にどのような性能や特徴を持つのか、詳細は今後の発表を待つ必要がある。しかし、Amon CEOが「高性能かつエネルギー効率の高いコンピューティング」という言葉を繰り返していることから、特に電力効率の高さが大きな訴求ポイントになることは間違いないだろう。データセンターの消費電力増大は世界的な課題であり、Armベースアーキテクチャの強みである電力効率は、この課題に対する有効な解決策の一つとして期待される。

NVIDIAのラックスケールアーキテクチャとの連携は、大規模なAIクラスタ構築における展開の容易さや、既存のNVIDIAソフトウェアスタックとの互換性といったメリットをもたらすと考えられる。これにより、AIモデルの開発や運用を行う企業にとって、新たなハードウェア選択肢が増えることになる。

しかし、前途は平坦ではない。IntelとAMDは依然として強力な市場シェアと技術力を有しており、大手クラウドプロバイダーも自社製チップへの投資を拡大している。Qualcommがこの競争の激しい市場で確固たる地位を築くためには、NVIDIAとの連携を最大限に活かしつつ、独自の付加価値を明確に示していく必要がある。それは、卓越した電力効率なのか、特定のAIワークロードにおける圧倒的なパフォーマンスなのか、あるいは価格競争力なのか。今後の具体的な製品発表と市場の評価が待たれるところだ。


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