SamsungがAI向けNANDフラッシュを用途別に広げようとしている。韓国ZDNet Koreaは2026年10月12日、公開済みのzNAND-Oに加え、帯域幅を重視するzNAND-Tと、細かなデータを頻繁に読み書きする性能を狙うzNAND-Iを初期開発中だと報じた。後者2種は正式発表されておらず、製品化の時期も明らかになっていない。だが、端末内で動くAIと大規模な推論システムでは、NANDに求める「速さ」が違う。今回の報道は、保存容量を増やす競争に、データの使い方に合わせた設計競争が重なってきたことを示唆する。
zNAND-Oに加わる、帯域重視のTとIOPS重視のI
Samsungが8月のFMS 2026で公開したzNAND-Oは、エッジAI向けのコンセプトだ。8月5日の公式発表では、V-NANDを基に、省スペース化と入出力性能の向上、低遅延を目指し、4層版と8層版を開発していると説明している。完成した製品の発売発表ではなく、AIに適したメモリ構造の提案という段階にある。
ここでいう4層、8層は、半導体チップであるダイを重ねる数を指す。Samsungの技術解説は、4枚または8枚のダイに3Dパッケージングを適用すると明記した。同じ会場で紹介されたV10 BV-NANDの「400層超」はメモリセルの積層であり、数えている構造が異なる。セルを縦に増やすことと、できあがったダイを重ねて接続することは、別の設計上の工夫だ。
ZDNet Koreaによると、zNAND-Tは大容量・高性能なAIデータセンターを想定し、単位時間に運べるデータ量、つまり帯域幅を広げる設計という。NANDを垂直に重ね、ダイを貫くシリコン貫通電極(TSV)で接続する方式とされる。業界では、高帯域幅フラッシュを意味するHBFに位置付けられている。
一方、zNAND-Iが狙うのはIOPS、すなわち1秒間に完了できる入出力処理の回数だ。同紙は、KVキャッシュなど少量の一時データを頻繁に扱うAI推論を用途として挙げる。ただし、TとIの具体的な容量や性能値は示されておらず、名称から性能差の大きさまで読み取ることはできない。
KVキャッシュには転送量とアクセス回数の両方が効く
帯域幅が表すのはデータの量、IOPSが表すのは処理の回数である。まとまったデータを連続して運ぶ場面と、小さなデータへ何度もアクセスする場面では、性能を制限する場所が変わる。転送するデータの大きさをそろえずにIOPSの数字だけを比べても、どちらが大量のデータを運べるかは判断できない。逆に、転送速度が高いだけで細かな要求へ素早く応じられるとも限らない。
AI推論では、その違いがKVキャッシュの扱いに関わる。KVキャッシュは、大規模言語モデルが文章を生成するときに再利用する、注意機構の中間データだ。以前の計算結果を保持することで、同じ処理をやり直す負担を減らせる。その半面、入力する文脈が長くなると保持するデータも増え、GPUメモリを圧迫する。
NVIDIAは2025年9月のDynamo解説で、KVキャッシュをGPUメモリからCPUメモリやSSD、ネットワーク越しのストレージへ移す仕組みを説明している。長い会話のデータをすべてGPU内に置き続ける代わりに、必要に応じて外へ移し、再利用する考え方だ。NANDがこの移動先を担うなら、保存できる量に加え、必要なデータを取り出す時間が問われる。
ただし、移せば必ず速くなるわけではない。NVIDIAが挙げる有効な条件は、KVキャッシュがGPUメモリを超え、再利用の利益がデータ転送の負担を上回ることだ。キャッシュを読み戻す時間が長ければ、計算を省いた利益を相殺しかねない。この条件から考えると、帯域を広げる設計と入出力回数を増やす設計は、推論で生じる異なる負担への対応と読める。Dynamoの説明はデータ配置の考え方を示すもので、zNAND-T/Iへの対応や高速化を実証したものではない。
SK hynixと同じ3分類でも、対応は一対一ではない
SK hynixは2025年10月27日、AI向けNANDの「AIN Family」を公式に説明した。性能を重視するAIN P、帯域幅を広げるAIN B、高密度化を狙うAIN Dという構成である。AI向けにNANDを用途別に設計する動きは、Samsungの今回の報道に先行している。
Samsungの3分類は端末向け・帯域・IOPS、SK hynixの3分類は性能・帯域・容量であり、同じ「3種類」でも分類軸は一致しない。
| 系列 | 資料が示す重点 | 公表時点と状態 |
|---|---|---|
| Samsung zNAND-O | 端末側のAI、省スペース、低遅延 | 2026年8月5日の公式発表。コンセプト公開・開発中 |
| Samsung zNAND-T | AIデータセンター向けの帯域幅 | 2026年10月12日のZDNet Korea報道。未発表・初期開発 |
| Samsung zNAND-I | 推論での高IOPS | 同日の同紙報道。未発表・初期開発 |
| SK hynix AIN P | 推論の入出力処理性能 | 2025年10月27日の公式戦略説明 |
| SK hynix AIN B | NANDの垂直積層による帯域拡大 | 同日の公式戦略説明 |
| SK hynix AIN D | 高密度・大容量の保存 | 同日の公式戦略説明 |
表はSamsungの発表、ZDNet Koreaの開発報道、SK hynixの戦略説明から、最適化する対象と公表状態を抜き出したものだ。2026年10月14日までに確認できた用途の比較であり、世代や測定条件をそろえた性能比較ではない。
帯域を重視するzNAND-TとAIN Bには、用途上の近さが見える。入出力処理を重視するzNAND-IとAIN Pも比較対象になり得るが、名称だけで同等の性能や互換性があるとは言えない。そしてzNAND-Oの端末向けという区分は、AIN Dの容量重視とは対応しない。両社が解こうとする問題を追うには、系列の数より、どこへ置いて何を読み書きさせる設計なのかを見る必要がある。
次の評価軸は、GPUへ戻すまでの時間
Samsung自身もFMSの技術解説で、メモリとストレージそれぞれの特性に応じてデータを配置する重要性を示している。処理装置へ近づける設計、省スペースで低遅延を狙う設計、大容量の保存を受け持つ設計は、システム内で担う仕事が違う。NANDの新しい系列が増えても、その使い分けまで自動的に決まるわけではない。
TとIが今後正式に発表されれば、まず確認したいのは、どの大きさのデータをどの条件で読み書きしたときの性能なのかだ。推論向けの評価では、キャッシュの再利用によって省ける計算と、GPUへデータを戻す時間を合わせて見る必要がある。端末向けなら、電力や搭載面積も用途に直結する。異なる条件の最高値を並べるだけでは、AIの応答が速くなるかどうかは分からない。
今回の報道に、TとIの出荷日程や価格を判断できる材料はまだない。それでも、用途別NANDの開発を評価する方向は具体的だ。必要なデータを必要な場所へ戻す負担を抑え、キャッシュを再利用する利益が上回るなら、限られたGPUメモリでより長い文脈を扱う選択肢が広がる。



