TrendForceは9月28日、サーバー向けCPUの納期が25〜30週に達していると公表した。需給が均衡した状態での16〜20週を大きく上回り、CPUの調達に時間がかかる状況が続いている。同社はMetaの個人向けAIエージェント「Muse」にも触れ、AIエージェントの普及によってCPU需要がどこまで増えるのかという議論が再び活発になっていると指摘した。

ただし、比較対象となる16〜20週は、Muse公開直前の納期を同じ条件で測定した数字ではない。TrendForceは4月の時点ですでに、一般サーバー向けCPUなどの供給制約を報告していた。

25〜30週という新しい数字から分かるのは、現在のCPU市場が逼迫しているということだ。Museによって納期が何週間延びたのかを示す数字ではない。

また、Museはユーザーごとに専用の仮想マシン(VM)を用意する設計だが、そこからMetaが実際に何個の物理CPUを調達するのかを直接推計することもできない。

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「25〜30週」は何を測った数字なのか

TrendForceの9月28日の投稿では、サーバーCPUを同社の週次調査「Weekly Radar」の対象に追加したと説明している。

そこで示された現在の納期が25〜30週で、比較対象として「需給が均衡した市場」における16〜20週という水準が挙げられた。サーバー導入を計画する企業にとっては、発注から納品までに半年近くかかる可能性があることを示す重要な数字だ。

一方、公開された投稿本文には、対象となったCPUの型番、地域、調査した取引先の数、調査期間などは記載されていない。

そのため、IntelやAMDのすべてのサーバーCPUに一律で25〜30週の納期が適用されるとは言えない。当然ながら、PC向けCPUの納期を示した数字でもない。

企業が実際に導入計画を立てる場合には、必要とする型番と数量について、取引先から提示される納期を個別に確認する必要がある。

また、CPUの納期と、CPUを搭載したサーバーが実際に稼働するまでの期間も同じではない。

メモリー、基板、電源、ラックなど他の部材の準備が遅れれば、CPUを確保できてもサーバーの導入時期は後ろへずれる。反対に、すでにCPU在庫を確保している企業の案件へ、今回示された25〜30週という数字をそのまま当てはめることもできない。

「16〜20週から25〜30週へ」という数字の読み方にも注意が必要だ。

16〜20週は需給が均衡した市場を想定した基準値であり、9月8日のMuse公開直前に、同じ条件で測定した実測値とは説明されていない。

したがって、二つの数字の差をそのまま「Muse登場後に納期が延びた分」として計算することはできない。

TrendForceも投稿では、MuseのようなAIエージェントによってサーバーCPU需要への関心が高まっていると述べているだけで、Museからの発注によって納期が延びたと実測したわけではない。

CPU不足はMuse登場前から続いていた

CPUの供給制約は、Museが登場する前から表面化していた。

TrendForceの4月15日の発表では、一般サーバー向けのプリント基板(PCB)やCPUなど、主要部材の納期が最長で約1年に達していると報告している。

AIサーバー向けの部材が優先的に生産されることで、一般的なサーバーの供給にしわ寄せが及んでいるという説明だった。

7月9日の発表では、サーバーCPUの不足によってシステムの組み立てが遅れ、米国のクラウド事業者では、先に調達したDRAMの在庫が積み上がっていると報告した。

TrendForceは、CPU供給が2026年後半から2027年にかけて徐々に改善すると予測していたが、これは将来の見通しであり、供給不足がすでに解消されたという意味ではない。

公表時点 TrendForceが扱った対象 公表された内容 比較するときの注意
2026年4月15日 一般サーバー向けCPU、PCBなど 主要部材の納期が最長で約1年 複数の部材を含む最大値で、9月のCPU指標とは条件が異なる
2026年7月9日 サーバーCPUとシステム組み立て CPU不足で組み立てが遅れ、米クラウド事業者のDRAM在庫が増加 CPUの具体的な納期は示していない
2026年9月28日 Weekly RadarのCPU調査 現在25〜30週、需給均衡時16〜20週 型番、地域、調査期間などは投稿本文に記載なし

4月の「最長約1年」と9月の「25〜30週」は、対象となる部材や調査条件が異なる。この二つを比較して、Muse公開後に納期が改善した、あるいは悪化したと判断することはできない。

一方、この3時点の記録からは、CPUを含むサーバー部材の供給不足が9月に突然始まったわけではないことが分かる。4月には部材調達に影響が出ており、7月にはCPU不足によってサーバーの組み立てにも遅れが生じていた。

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「専用VM」は物理CPUの専有を意味しない

Metaの9月8日の発表によると、Museはユーザーごとの専用仮想マシン「Muse Secure VM」で動作し、アプリを閉じた後も作業を続けられる。

このVMにはブラウザーなどの作業環境があり、ユーザーのデータや接続先サービスの認証情報も他の利用者から隔離される。

AIエージェントがWebサイトを操作したり、ファイルを処理したりするには、AIモデルそのものを動かすGPUなどとは別に、ブラウザー、OS、ツールなどを動作させるCPU資源が必要になる。

しかし、ユーザーごとの専用VMがあるからといって、ユーザー1人につき物理CPUのコアを専有するという意味ではない。

1台の物理サーバー上で複数のVMを動かし、CPUの処理能力を共有することは一般的に可能だ。

実際に必要となるCPUの量を左右するのは、登録ユーザーの総数だけではない。同時に動いているVMの数、VMが待機中に消費するCPU資源、短時間の負荷上昇に備えて確保する予備容量などが重要になる。

Metaの発表では、こうした運用上の数値やCPUの調達数は公開されていない。

「ユーザー専用」という表現が示しているのは、少なくともMetaの説明では、ユーザーごとに作業環境やデータを分離する設計である。物理的な計算資源を常に1人で専有できるという性能保証とは分けて考える必要がある。

38万のサンドボックスを動かすDeepSeekの事例

仮想環境と物理CPUの数が単純な1対1にならないことを示す別の事例もある。

DeepSeekが9月にarXivへ公開したプレプリント「DeepSeek Elastic Compute(DSec)」は、AIエージェントの訓練・評価に使う大規模なサンドボックス基盤について報告している。

同論文によると、コンテナーと小型VMの約9割では、平均CPU使用量が割り当てを要求したCPU資源の5%以下だった。

AIモデルが次の行動を生成するのを待っている間など、作業環境側のCPUがほとんど動いていない時間が長いためだ。

DSecでは、こうした負荷の特徴を利用して、物理的に存在する以上の仮想CPU資源を割り当てる「オーバーコミット」を行っている。

論文が示した一つの大規模構成は約160ノード、約3万CPUコアで、ピーク時には38万を超えるサンドボックスを同時に稼働させたという。

ただし、DSecはMuseの商用サービスを測定した研究ではない。

DSecが扱うのは主にAIエージェントの訓練や評価に使う一時的な実行環境だ。一方、MuseのVMは利用者のデータを保持し、継続して作業できることを前提としている。

必要なメモリー量、隔離方式、VMの稼働時間、負荷の発生パターンなどは異なる可能性がある。

そのため、DSecで「要求したCPU資源の5%以下」という数字を、そのままMuseの設備計画に当てはめることはできない。38万という同時サンドボックス数を、そのままMuseの利用者数へ置き換えることもできない。

この事例から読み取れるのは、仮想CPUやVMの数だけを見ても、必要な物理CPUの数は分からないという点だ。

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企業がCPUを調達するときに確認すべき数字

TrendForceは5月の分析で、AIエージェントの普及によって、タスクのスケジューリング、データの前処理、メモリー管理などを担うCPUの需要が増えると説明している。

AIモデルの大規模な計算をGPUが担っていても、その周囲ではCPUが仕事の割り振りやデータ処理、エージェントの実行環境の管理などを続ける。

AIインフラを考えるうえでCPUを無視できない理由はここにある。

ただし、こうした市場全体の傾向から、特定のCPU製品の納期や、Metaのような企業が実際に発注するCPUの数量まで推定することはできない。

サーバーを調達する企業は、必要なCPUの型番ごとの納期だけでなく、メモリーや基板など他の部材を同じ時期に確保できるかも確認する必要がある。

7月にTrendForceが報告したDRAM在庫の例では、メモリーを先に確保しても、CPUが不足すればサーバーを組み立てられなかった。

つまり、CPUの納期だけを見ても、完成したサーバーがいつ稼働できるかは分からない。

複数の部材を異なる時期に発注する場合には、最も遅く到着する部材が実際の組み立て開始時期を左右する。

また、TrendForceが4月に指摘したように、半導体メーカーや部材メーカーがAIサーバー向け製品を優先すれば、一般サーバー向けの部材はさらに確保しにくくなる可能性がある。

Museのような個人向けAIエージェントがCPU市場にどれだけ新たな需要を生むのかを判断するには、継続的に利用するユーザー数、同時稼働するVMの数、1台の物理サーバーにどの程度VMを集約できるのか、そしてMetaが採用するCPUや実際の調達数量などが必要になる。

現時点でTrendForceの25〜30週という数字が示しているのは、サーバーCPUの調達環境が厳しいということだ。AIエージェントがCPU需要を押し上げる構造的な要因はあるが、Museが今回の納期長期化をどこまで引き起こしたのかを、この数字だけから切り分けることはできない。