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Galaxy S26搭載のSnapdragonはSamsungの2nmプロセス製?TSMC独占に挑む逆襲の狼煙

Y Kobayashi

2025年6月26日

スマートフォンの頭脳であるSoC(System on a Chip)を巡る地政学が、今、大きく動こうとしている。韓国メディアが報じた内容によれば、半導体設計の巨人Qualcommが、次期フラッグシップチップ「Snapdragon 8 Elite 2」の製造において、Samsung Foundryと3年ぶりとなる本格的な協業を再開する可能性が浮上した。これは、かつて協業関係にあったQualcommとSamsung Foundryの“因縁の再会”であり、世界の半導体製造業界におけるパワーバランスに静かなる地殻変動をもたらす、画期的な転換点となるかもしれない。

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「Kaanapali」と「Kaanapali S」:2つの顔を持つ次世代Snapdragon

今回の報道の核心は、Qualcommが「Snapdragon 8 Elite 2」において、2つの異なるバージョンを準備しているという点にある。

  • 標準版(コードネーム:Kaanapali): 従来通り、業界の盟主である台湾TSMCが、その最新鋭3nmプロセスで製造する。これは、Samsung以外の多くのAndroidスマートフォンメーカーに供給される見込みだ。
  • 特別版(コードネーム:Kaanapali S): そして、こちらが本件の主役である。Samsung Foundryが、同社の次世代2nmプロセスを用いて製造する特別仕様のチップだ。この「S」を冠するチップは、その名の通りSamsungの「Galaxy S26」シリーズ向け、いわば真の「For Galaxy」チップとして搭載されることが有力視されている。

プロセスノードの数字が小さいほど、一般的にトランジスタは微細化され、同一面積により多くの回路を集積できる。これは、処理性能の向上と消費電力の削減、すなわちバッテリー持続時間の改善に直結する。理論上、Samsung製の2nmチップは、TSMC製の3nmチップに対して技術的なアドバンテージを持つ可能性があるのだ。

この動きは、かつて蜜月関係にあったQualcommとSamsungの関係性を考えれば、まさに「歴史的復縁」と呼ぶにふさわしい。両社の関係は、2021年の「Snapdragon 8 Gen 1」で大きく揺らいだ。当時、Samsungの4nmプロセスで製造されたこのチップは、歩留まり率(生産される良品の割合)の低さと発熱問題に苦しみ、Qualcommは翌年の「Snapdragon 8+ Gen 1」から、フラッグシップチップの製造を全面的にTSMCへと切り替えた。これはSamsung Foundryにとって、技術的信頼性とビジネスの両面で手痛い敗北であった。

なぜ今、Samsungなのか?歩留まり率問題からの「V字回復」という名の賭け

では、なぜQualcommは再びSamsungに白羽の矢を立てたのか。その答えは、Samsung Foundryが水面下で進めてきた、血の滲むような技術改善にある。

業界筋の情報によれば、Samsungは3nmプロセスでの苦戦を教訓に、次世代の2nmプロセス開発に経営資源を集中。一時は開発を休止していた1.4nmプロセスの計画を遅らせるほど、2nmの完成度向上に注力してきた。その結果、これまで30%台で推移していたとされる2nmプロセスの歩留まり率が、最近になって40%を超え、年末までには事業化の採算ラインとされる60%に到達することを目指しているという。

もちろん、TSMCはすでに2nmプロセスで60%の歩留まり率を達成しているとの報道もあり、Samsungが技術的に追いついたと断じるのは早計だ。しかし、この改善の「トレンド」こそが、Qualcommを動かすに十分な材料となったと考えられる。Qualcommにとって、高性能チップの供給をTSMC一社に依存し続けることは、価格交渉力の低下や地政学的なサプライチェーンリスクを抱えることに他ならない。Samsungという強力な選択肢が復活することは、Qualcomm自身の事業戦略においても極めて重要な意味を持つのである。

この提携は、Samsungにとって単なる受注獲得以上の、失われた名誉を回復するための「賭け」でもある。ここで2nmチップの量産を成功させ、その性能と安定性を世界最高峰のスマートフォンであるGalaxy S26で証明できれば、それはTSMCに奪われた他の大手顧客(NVIDIAやAMDなど)を呼び戻す、強力な狼煙となるだろう。

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TSMC一強体制への構造的挑戦:半導体業界のパワーバランスが変わる日

今回のSamsungとQualcommの協業が持つ最も大きな意義は、半導体ファウンドリ市場におけるTSMC一強体制という構造に、風穴を開ける可能性を秘めている点にある。

現在の最先端半導体市場は、TSMCが圧倒的なシェアと技術的優位性を誇り、事実上の独占状態にある。これにより、チップ設計企業はTSMCの提示する価格や生産スケジュールを受け入れざるを得ない状況が続いてきた。しかし、Samsungが信頼できる「セカンドソース」として復活すれば、市場に健全な競争原理が働き始める。

  • 価格競争の発生: チップ設計企業は、TSMCとSamsungを天秤にかけ、より良い条件を引き出すことが可能になる。これは最終的に、スマートフォンなどの製品価格にも好影響を与える可能性がある。
  • サプライチェーンの多様化: 特定の地域(台湾)に最先端半導体の生産が集中するリスクは、世界経済の大きな懸念材料だ。Samsung(韓国、および米国テキサス新工場)が生産能力を増強することで、地政学的リスクは分散され、サプライチェーン全体の強靭性が高まる。
  • 技術革新の加速: 二大巨頭が互いに技術開発を競い合うことで、プロセス微細化のペースや新技術(GAA:Gate-All-Aroundなど)の導入が加速する可能性がある。

この動きは、Qualcommのみならず、GoogleやAppleといった他の巨大テック企業にも影響を与えるだろう。Samsungの2nmプロセスが成功を収めれば、彼らも自社設計チップの製造委託先としてSamsungを再評価せざるを得なくなる。半導体業界の地図が、今後数年で大きく塗り替えられる可能性を秘めた、まさに地殻変動の予兆なのである。

Galaxy S26が示す未来と、残された課題

もしこの計画が実現すれば、2026年のスマートフォン市場は非常に興味深い様相を呈する。Galaxy S26シリーズは、一部地域ではSamsung製の2nmチップ「Exynos 2600」を、そして米国などの主要市場では同じくSamsung製の2nm「Snapdragon 8 Elite 2 S」を搭載することになるかもしれない。どちらも同じ最先端プロセスで製造されるため、長年の課題であった「Exynos vs Snapdragon」の性能格差問題が、ついに終焉を迎える可能性もある。

消費者にとっては、より電力効率が高く、長時間駆動する高性能なスマートフォンを手にする機会が増えることを意味する。特にGalaxy S26 Ultraのような最上位モデルが、グローバルでこのSamsung製2nm Snapdragonを搭載することになれば、その魅力は一層高まるだろう。

しかし、Samsungの未来は決して楽観視できるものではない。歩留まり率60%という目標は、まだ達成されたわけではない。試作品レベルでの成功と、数億台規模での安定した量産には、依然として大きな壁が存在する。この最後のハードルを越え、Qualcommと世界の期待に応えることができるか。Samsung Foundryの真価が問われる正念場は、まさにこれからだ。この歴史的な挑戦の成否が、スマートフォンの未来、そして世界のテクノロジー覇権の行方を左右する鍵となるだろう。


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