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Samsung Foundry、3nmの苦闘と中国の追撃:揺らぐ最先端半導体覇権

Y Kobayashi

2025年5月31日10:52AM

Samsung Electronics(以下、Samsung)の最先端3ナノメートル(nm)ファウンドリ(半導体受託製造)事業が、深刻な歩留まり問題に直面し、業界の盟主TSMCに大きく水をあけられている実態が、朝鮮日報の報道により明らかになってきた。主要顧客はこぞってTSMCへと流れ、さらに成熟プロセスでは中国SMIC (Semiconductor Manufacturing International Corporation)の急追を受けるなど、Samsungの半導体王国は今、かつてない試練の時を迎えているようだ。

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絶望的な歩留まり率、TSMCに大差をつけられるSamsung 3nmの現状

朝鮮日報(ChosunBiz)の報道によれば、Samsungの3nmプロセスの歩留まりは、現在50%程度に留まっているという。歩留まりとは、製造した製品のうち良品として出荷できるものの割合を示す数値であり、半導体製造において収益性と競争力を左右する極めて重要な指標だ。Samsungが3nmプロセスの量産開始を宣言してから3年目に入ることを考えると、この50%という数値は異例の低さと言わざるを得ない。

一方、業界トップを走るTSMCは、同社の3nmプロセスで既に90%以上という高い歩留まり率を達成し、安定供給体制を確立していると報じられている。生産コスト自体はTSMCの方が高額であるものの、この圧倒的な歩留まりの差は、最終的なチップのコスト、品質、そして何よりも供給の安定性において、TSMCに絶大なアドバンテージを与えている。Apple、Qualcomm、NVIDIA、MediaTekといった名だたる半導体設計企業(ファブレス)が、こぞってTSMCの3nmプロセス(N3Pなど)を採用しているのは、まさにこの信頼性の高さゆえだろう。そして彼らは、2026年からの2nmプロセスへの移行も見据えている。

この状況は、Samsungにとってまさに「泣きっ面に蜂」だ。かつてSamsungは、トランジスタ構造にGAA(Gate-All-Around)技術を世界で初めて3nmプロセスに導入することで、TSMCに対する技術的優位性を確立しようとした。しかし、その先進技術が、現状では高い歩留まりを実現する上での足枷となっている可能性も否定できない。

大口顧客の「TSMC詣で」加速、揺らぐSamsungへの信頼

歩留まり問題の深刻さを如実に物語るのが、大口顧客の相次ぐTSMCへの乗り換えだ。その象徴的な事例が、Googleの次世代スマートフォン「Pixel」シリーズに搭載される自社開発SoC(System-on-Chip)「Tensor」チップだろう。これまでGoogleはTensorチップの生産をSamsungに委託してきたが、報道によれば、次期「Tensor G5」からはTSMCの3nmプロセス(具体的には2世代目)に切り替える方針であり、GoogleがPixel 14シリーズまで、つまり今後3年から5年にわたりTSMCとの協業を計画しているという。これが事実であればSamsungにとっては極めて大きな打撃となる。

Qualcommの次期フラッグシップSoC「Snapdragon 8 Elite」(Galaxy S25シリーズへの搭載が見込まれる)も、TSMCが製造を担当すると報告されている。かつてはSamsungとTSMCの間で受注を分け合っていたQualcommだが、最先端プロセスにおいては完全にTSMCへと舵を切った格好だ。AMDやNVIDIA、MediaTekといった他の主要プレイヤーも同様の動きを見せており、Samsungの3nmファウンドリの顧客リストは寂しい状況にあると言わざるを得ない。

Samsung社内で開発される「Exynos」チップについても、状況は芳しくない。実際、3nmプロセスの歩留まり問題が原因で、次期フラッグシップスマートフォン「Galaxy S25」シリーズ向けの「Exynos 2500」の十分な供給量を確保できず、結果として同シリーズは全量Snapdragon搭載に踏み切らざるを得なかったと伝えられている。最近になって、折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Flip 7」向けにはExynos 2500を供給できる程度には歩留まりが改善したとの情報もあるが、これはあくまで内製需要であり、大規模な外部顧客を獲得するには程遠い状況だ。

ChosunBizが伝える業界関係者の「ファウンドリ業界で最も重要なのは顧客との信頼関係。Samsungが歩留まり問題で大口顧客の先端プロセスで苦杯を喫しているのは、Samsungファウンドリへの疑念を増幅させ、これを回復するには長い時間がかかるだろう」というコメントは、現在のSamsungが置かれた厳しい立場を的確に表している。顧客がテスト段階でSamsungの製造プロセスに問題を発見し、TSMCへと発注先を変更するケースが増えているとの指摘もあり、技術力以前の根本的な信頼が揺らいでいる可能性すらある。

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レガシープロセスは堅調? しかし、そこにもSMICの影が忍び寄る

最先端の3nmプロセスで苦戦を強いられる一方、Samsungは7nmや8nmといったレガシー(成熟)プロセスでは一定の受注を確保しているようだ。その代表例として、任天堂の次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2(仮称)」向けSoCの製造をSamsungが担当すると報じられている。こうした動きは、Samsungファウンドリの稼働率向上には貢献するだろう

しかし、安堵するのは早計かもしれない。成熟プロセスにおいても、新たな競争相手が急速に台頭しているからだ。中国のSMICである。SMICは、米国の対中半導体規制により最先端のEUV(極端紫外線)露光装置の導入が困難な状況にありながらも、7nmに続き、EUV装置が必須とされる5nmプロセスの生産を開始したと報じられている。実際に、中国のHuaweiはSMIC製の5nmチップを搭載したノートPCを発表しており、中国国内では「中国半導体技術の画期的な突破」として称賛されているという。

もちろん、EUV装置なしで製造されるSMICの5nmチップが、歩留まりや性能面でSamsungやTSMCの同等プロセスに匹敵するとは考えにくい。しかし、中国政府からの手厚い補助金によって価格競争力を高め、まずは中国国内のファブレス企業からの受注を着実に増やしていく戦略は、Samsungにとって無視できない脅威だ。Samsungはこれまで、中国のファブレス企業の5nmや7nmプロセスの需要を獲得するために、中国のEDA(電子設計自動化)ツール企業を自社のファウンドリエコシステムに取り込むなど、布石を打ってきた。しかし、SMICの台頭は、こうしたSamsungの対中戦略に水を差す可能性があると、ChosunBizは指摘している。

Samsungファウンドリ、試練の先に光は見えるか? 茨の道は続く

現在のSamsungファウンドリが直面している問題は、単なる一時的な不振なのか、それともより根深い構造的な課題が露呈したものなのだろうか。その答えを見出すのは容易ではない。

次世代の2nmプロセス競争において、SamsungがGAA技術の先行導入経験を活かしてTSMCに一矢報いることができるのか、注目が集まる。しかし、TSMCも当然2nmプロセスの開発を強力に推進しており、Samsungに残された時間は決して多くない。技術開発力はもちろんのこと、一度揺らいだ顧客からの信頼をいかにして回復するかが、今後のSamsungファウンドリの浮沈を占う上で最大の鍵となるだろう。


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