2025年、半導体受託製造(ファウンドリ)市場は記録的な規模に達した。Counterpoint Researchの定義では市場全体が3,200億ドルを超え、AI向け半導体への需要が業界全体を押し上げた。だがTSMCの成長率36.1%に対し、競合他社平均は8%と、同じ市場で、4倍の差が開いた。売上は1,225億4,000万ドルに達し、市場シェアはQ2に70.2%、Q3には71%まで上昇した。CoWoS先端パッケージングの事実上の独占、先端プロセスにおける歩留まり優位、そして価格交渉力、この3つが組み合わさることで、AI需要という共通の追い風の中でTSMCだけが突き抜けたのだ。
36% vs 8%—市場を独占する成長格差の実相
2025年通年でTSMCが記録した36.1%の成長率は、数字として見れば単純な差に映る。だが競合他社の8%という数字と並べると、その意味は変わる。同じAIブームの恩恵を受けながら、なぜこれほどの差が生まれたのか。
市場シェアの推移がその答えの一端を示している。TSMCのシェアはQ2 2025に70.2%、Q3には71%、Q4には70.4%と高水準を維持した。一方、Samsung Foundryのシェアは同期間のQ3時点で6.8%、SMICは5.1%(いずれもTrendForce)。上位2社を合わせても12%に届かず、TSMCとの差は58ポイントを超える。
この格差は新興市場特有の勝者総取り現象とは異なる。TSMCが提供する能力——特に先端プロセスと高度なパッケージング技術——は短期間で模倣できるものではない。格差の根本には、技術・製造・供給の3層にわたる構造的な壁がある。
AI需要が追い風、だがTSMCを選ぶ理由はもっと深い
NVIDIA、AMD、Appleといった大手テック企業がAI・HPC(高性能コンピューティング)向けチップの発注を増やしたことは事実だ。AI半導体市場の拡大はファウンドリ全体への需要増を意味し、TSMCもその恩恵を受けた。しかしSamsungやIntelもAI向けチップ製造に参入しようとしている中で、顧客がTSMCを選ぶのはなぜか。
答えの核心は「製造能力の信頼性」にある。先端プロセスでは歩留まり、つまり製造した半導体のうち正常に動作する割合が直接、顧客のコストとスケジュールに響く。TSMCの2nm(ナノメートル)プロセスの歩留まりは70〜80%に達しているとされる。これは顧客が計画通りの数量を、予測可能なコストで受け取れることを意味する。
歩留まりが安定しているファウンドリは、顧客にとってリスクの低い選択肢だ。AIアクセラレータや先端SoC(システム・オン・チップ)の開発スケジュールが製造の不安定さで遅延することは、顧客企業にとって数億ドル規模の損失につながりうる。TSMCが売っているのは半導体ではなく、製造の確実性なのだ。
CoWoS先端パッケージング:TSMC以外に選択肢がない構造
HBM(高帯域幅メモリ、High Bandwidth Memory)とGPUを一つのパッケージに統合するCoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)技術は、現代のAIアクセラレータには不可欠だ。NVIDIAのH100やB200はCoWoSなしには存在できない。そしてこのCoWoS技術において、TSMCは事実上の独占的供給者として機能している。
TrendForceの2025年12月のレポートによれば、CoWoS-LおよびCoWoS-Sの製造ラインは2025年を通じて満杯の状態が続き、2026年まで完全に予約済みの状態だ。顧客が「今から発注」しても、すぐに製造ラインに入れる状況にない。需要と供給の構造が完全にTSMCに有利な状態になっている。
この状況に対応するため、TSMCはCoWoS能力の拡張を進めている。目標は2026年末までに月産130,000枚への増強だ。しかし現時点での供給制約は、顧客がTSMCから離れることを実質的に不可能にしている。代替ファウンドリに切り替えれば製品ロードマップ全体が崩れるリスクがあるためだ。
Samsungは量産開始も歩留まり55〜60%:競合の遅れの構造
Samsungは2025年11月に2nmプロセスの量産を開始した。技術的なマイルストーンとして評価できる進歩だが、量産開始時点の歩留まりは55〜60%にとどまっている(TrendForce)。TSMCの2nmが70〜80%であることと比較すると、その差は明確だ。
歩留まり15〜20ポイントの差は、顧客目線では製造コストと供給安定性の両面に直結する。歩留まりが低いほど、一定数量の良品を確保するために投入するウェハー枚数が増える。製造コストが上がり、スケジュールの予測精度も下がる。大口顧客がSamsungへの切り替えをためらう合理的な理由がここにある。
Intel Foundryの状況はさらに厳しい。Q2 2025に31億7,000万ドルの営業損失を計上し、次世代プロセスの18Aは歩留まりが55%にとどまり、目標の70%に達していない。SamsungとIntelがそれぞれ2nmと18Aで55%前後の歩留まりで量産を進める中、TSMCは先行して歩留まり改善を達成している。後追いする競合にとって、単純に追いつくだけでは不十分だ。TSMCが同時に前進し続けているため、差は縮まらない。
価格値上げを強行できるのはなぜか—供給支配権の実行
TSMCは2026年1月より価格を引き上げた。値上げ幅はノードによって異なり、サブ5nmプロセスが3〜5%、サブ3nmプロセスは最大10%(TrendForce)。最先端プロセスほど値上げ率が高い設定だ。
通常、市場支配的な企業が価格を引き上げると顧客が離反するリスクがある。しかしTSMCの場合、顧客の移行先が事実上存在しない。先端プロセスでの競合は歩留まりで劣後し、CoWoS供給はTSMCが独占している。顧客は価格受け入れか製品断念かの二択を迫られる状況だ。
この価格交渉力の強さは、TSMCの優位が一時的な独占ではなく、技術と製造の両面で積み上げてきた優位に基づいていることを示す。AI向け半導体の設計が高度化するほど、先端パッケージングと先端プロセスへの依存は深まる。TSMCが先行する領域は、市場が大きくなるほど重要度が増す。
TSMCの2025年は「AI需要の恩恵を最も受けた企業」という見方では説明しきれない。36%の成長率と70%超のシェアを支えるのは、技術・製造・調達のいずれの面でも代替が利かない構造だ。CoWoSの製造枠が2026年まで予約で埋まっている限り、顧客に選択肢はない。Samsungが歩留まりを70%超に引き上げ、かつCoWoS相当技術を量産できた時点で初めて、競合構図は動き始める。
Sources
- Tom’s Hardware: Why TSMC grew four times faster than its foundry rivals in 2025
- TrendForce:
- Dataconomy: TSMC Dominates Foundry Market With 72% Share In Q3 2025
- Mark Lapedus Substack: TSMC Gains Foundry Share But Others Lose Ground



