Intelは2025年第3四半期の決算発表の場で、野心的な一手「ASIC(特定用途向け集積回路)およびチップ設計サービス事業」の本格的な立ち上げを明らかにした。NVIDIAが独走するAIアクセラレータ市場、そして活況を呈するカスタムシリコン市場に対し、Intelが自社の根幹技術であるx86アーキテクチャと、国家規模の投資で推し進めるファウンドリ(半導体受託製造)事業を融合させ、新たな価値を提供する「システムファウンドリ」構想の幕開けを告げる物となり得そうだ。

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なぜ今、ASIC事業なのか?AI時代がIntelに突きつけた課題と活路

Intelがカスタムチップ設計という新たな戦場に足を踏み入れる背景には、AI時代がもたらした構造変化への強烈な危機感と、そこに眠る巨大な商機がある。

現在のAIハードウェア市場は、ご存知の通りNVIDIAがGPUで圧倒的な地位を築き、AMDがその背中を猛追する構図となっている。一方で、Intelがこの領域で市場に投入を計画している次世代AIアクセラレータ「Jaguar Shores」は、2027年の登場が見込まれており、競争上、時間的なビハインドを負っているのが現実だ。

しかし、AIの進化はもう一つの巨大なうねりを生み出している。それが、Google、Amazon、Microsoftといった巨大クラウド企業(ハイパースケーラー)や、先進的なテクノロジー企業による「カスタムAIシリコン」、つまり自社のサービスやワークロードに最適化した独自チップの開発・内製化の流れである。汎用チップでは達成できないレベルの性能と電力効率を追求するこの動きは、ASIC設計サービス市場を爆発的に成長させている。資産に寄れば、この市場の年間総市場規模(TAM)は、いずれ1,000億ドルを超える可能性も指摘されている。

この領域で現在、最も成功している企業がBroadcomだ。同社はカスタムチップ設計で巨額の利益を上げ、その時価総額は1.6兆ドルを超えるモンスター企業へと変貌した。GoogleがAIモデル企業Anthropicとの契約で大量に導入するTPU(Tensor Processing Unit)の設計をBroadcomが手掛けている事実は、この市場の旨みを象徴している。

Intelはこの戦況を前に、ただ指をくわえて自社製品の登場を待つのではなく、自らの持つユニークな資産を武器に、このカスタムシリコン市場へ打って出る決断を下した。それが、今回のASICおよびチップ設計サービス事業の核心的な狙いである。

新戦略の司令塔「Central Engineering Group (CEG)」

この野心的な事業を牽引するために、Intelは「Central Engineering Group (CEG)」と名付けられた新組織を設立した。決算説明会でLip-Bu Tan CEOが語ったところによると、CEGはIntel社内に分散していた水平的なエンジニアリング機能、すなわち基盤となるIP(設計資産)開発、テストチップ設計、EDA(電子設計自動化)ツール、設計プラットフォームなどを一つの傘下に統合する役割を担う。これにより、開発の重複をなくし、意思決定のスピードを上げ、製品開発全体の一貫性を高めることが可能になる。

そして、このCEGの最も重要な任務こそが、「外部顧客向けのASICおよび設計サービス事業の構築を主導すること」である。

この重要な組織のトップには、Srini Iyengar氏が就任した。彼は、半導体設計ツール(EDA)の巨人であるCadence Systemsから2025年7月にIntelへ移籍した人物であり、チップ設計の最前線を熟知する専門家だ。

さらに注目すべきは、Intelの現CEOであるLip-Bu Tan氏自身もCadenceの元CEOであり、カスタムシリコンビジネス、IPビジネス、設計エコシステムの構築において豊富な経験と深い知見を持つ人物である点だ。彼がCEOとしてこの戦略を推し進めることは、単なる経営判断ではなく、業界を知り尽くしたプロフェッショナルによる確信に満ちた一手であることを示唆している。Tan氏の経験と市場とのコネクションは、Intelがこの新たな事業を加速させる上で計り知れない資産となるだろう。

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Intelが描く究極の姿「システムファウンドリ」構想

Intelの新事業が、BroadcomやMarvellといった既存の競合と一線を画す最大のポイントは、単なる設計サービスに留まらない「ワンストップショップ」モデルを提供できる点にある。Intelはこれを「システムファウンドリ」と位置付けている。

これは具体的に何を意味するのか。顧客がカスタムAIチップを作りたいと考えた時、Intelに依頼すれば以下の全てが手に入るという、まさに究極の垂直統合モデルである。

  1. カスタムチップ設計: CEGのエンジニアリングリソースが、顧客の要求に応じた最適なチップを設計する。
  2. 独自のIP活用: 長年の歴史で培われたIntelの強力な「x86」をはじめとするIP資産を、カスタムチップに組み込むことができる。
  3. 最先端の製造: 設計されたチップを、Intelが誇る世界最先端のファウンドリ(製造工場)で製造する。
  4. 高度なパッケージング: 複数のチップを高密度に実装するEMIBなどの先進パッケージング技術で、最終製品に仕上げる。

BroadcomやMarvellは優れた設計能力を持つが、自社で最先端の製造工場は持っていない。彼らはTSMCなどのファウンドリに製造を委託する必要がある。一方で、Intelは設計から製造、パッケージングまで、半導体開発の全工程を自社内で完結させることができる世界でも稀有な企業だ。この統合された能力こそが、顧客にとっての魅力となり、Intelの最大の競争優位性となる。

Lip-Bu Tan CEOは決算説明会で、「この事業は、我々の核であるx86 IPのリーチを広げるだけでなく、我々の設計力を活用して、汎用から特定機能のコンピューティングまで、幅広いソリューションを提供するものだ」と述べた。これは、Intelの資産を外部に開放し、より大きなエコシステムを築くという明確な意思表示である。

巨大市場への挑戦:成功の鍵と乗り越えるべきハードル

この戦略が成功すれば、Intelにとって巨大な収益源となることは間違いない。それはIntelのファウンドリ事業にとっても、安定した顧客と収益を確保する上で極めて重要な役割を果たすことになる。

しかし、その道のりは決して平坦ではない。

第一に、カスタムチップ市場は極めて競争が激しい。先行するBroadcomは技術的にもビジネス的にも強力な地位を築いている。また、MarvellがAmazonのカスタムチップ「Trainium」で苦戦した例もあり、巨大テック企業との協業は必ずしも成功を約束するものではない。

第二に、顧客からの「信頼」の構築が不可欠である。ファウンドリ事業は、顧客が自社の生命線ともいえる製品の製造を委ねるビジネスだ。Intelは、プロセス技術の性能、歩留まり、納期、コストのすべてにおいて、顧客の期待に応え、長期的なパートナーとして信頼される存在にならなければならない。Lip-Bu Tan CEOが「我々は顧客を喜ばせることを学ばなければならない」と語るように、これはIntel社内のマインドセットの変革を要求する。

そして最も重要なのが、「実行力」である。どんなに壮大な戦略を描いても、それを計画通り、あるいはそれ以上の品質で実行できなければ意味がない。過去、Intelはプロセス技術の遅延で苦しんだ経験を持つ。この新事業で成功を収めるには、過去の教訓を活かし、完璧な実行力が絶対条件となる。

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Intelの未来を占う試金石

Intelが打ち出したASICおよびチップ設計サービス事業への参入は、同社の未来を占う上で極めて重要な試金石となる。この一手は、Intelの製品部門とファウンドリ事業という二つの柱を結びつける「架け橋」であり、両者を相乗効果で成長させる可能性を秘めている。

もしこの挑戦が成功すれば、Intelは単なるCPUメーカーや半導体製造企業という枠を超え、AI時代のテクノロジー業界全体を支える基盤パートナーへと昇華するだろう。それは、Intelの収益構造と業界における地位を根本から変える、真のゲームチェンジャーとなり得る。未来は約束されてはいないが、巨人が再び動き出したことは間違いない。その一挙手一投足から、目が離せない。


Sources