MediaTekが、Googleの新しいプレミアムPCカテゴリ「Googlebook」向けのSoC「Dimensity CX C10 Max」を発表した。PC向けの新ブランド「Dimensity Compute Experiences(CX)」の第1弾で、3nmプロセスでの製造、最大55 TOPSのNPU、薄型・ファンレス設計への対応を特徴としている。

9to5Googleによると、MediaTekは同チップが今後登場するLenovo製Googlebookに搭載されるとメールで説明した。ただし、公開された仕様を前年のChromebook向け「Kompanio Ultra 910」と比較すると、すべてを刷新した新設計というより、既存の構成を引き継ぎながら一部を強化したSoCであることが分かる。

これはC10 Maxの価値を否定するものではない。GooglebookはAndroidのアプリ基盤とChromeの技術を組み合わせ、Intel、Qualcomm、MediaTekという3社のプロセッサを採用できるプラットフォームとして始まる。MediaTekにとって重要なのは、新しいCPUコアを投入したかどうかよりも、スマートフォンやChromebookで培ってきたArmベースの技術を、プレミアムPC市場でどこまで生かせるかという点にある。

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新しい旗艦SoCでも、基本構成はKompanio Ultra 910を継承

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C10 MaxとKompanio Ultra 910のCPUは、1基のCortex-X925、3基のCortex-X4、4基のCortex-A720で構成される。L3キャッシュは12MB、システムレベルキャッシュ(SLC)は10MBで共通だ。GPUもArm Immortalis-G925 MC11、ストレージ規格もUFS 4.0で変わらず、AI処理を担うNPUにはいずれもNPU 890を採用している。

公式仕様 Dimensity CX C10 Max Kompanio Ultra 910 相違
Cortex-X925最大クロック 3.73GHz 3.62GHz 3.0%
LPDDR5X最大データレート 9600Mbps 8533Mbps 12.5%
公称NPU性能 55 TOPS(dense) 50 TOPS 10%
CPU構成 X925×1、X4×3、A720×4 同左 共通
GPU Immortalis-G925 MC11 同左 共通
キャッシュ L3 12MB、SLC 10MB 同左 共通
ストレージ UFS 4.0 同左 共通

MediaTekの公式仕様を同じ項目で比較すると、C10 MaxはKompanio Ultra 910とCPU構成、GPU、キャッシュ容量、ストレージ規格を共有している。

一方、最大CPUクロックはKompanio Ultra 910の3.62GHzからC10 Maxでは3.73GHzへ約3%向上した。対応する最大メモリーデータレートは8533Mbpsから9600Mbpsへ約12.5%上がり、公称NPU性能も50 TOPSから55 TOPSへ10%増えている。

これらの増加率は、2026年9月22日時点でMediaTekの公式ページに掲載されている最大値を基に、「新しい値-従来値」を従来値で割って算出した。

カメラ処理では、新たに「Imagiq 1090 ISP」が明記されている。最大32MPのカメラ、HDR動画、電子式手ぶれ補正、自動ズームなどに対応する。

ただし、こうした仕様値は世代間の違いを示すものであり、そのまま実機性能を表すわけではない。最大CPUクロック、最大メモリー速度、NPUのTOPS値を、Lenovoの実際の製品で同時に維持できるとは限らない。

MediaTekは、C10 MaxとKompanio Ultra 910が同じダイを使用しているかどうかも公表していない。そのため、「完全な新設計」とも「単なる名称変更」とも断定できない。現時点で確認できるのは、基本構成の多くを受け継ぎながら、一部の性能や機能を強化したという点までだ。

「オールビッグコア」は8個すべてが同じCPUコアという意味ではない

MediaTekはこのCPU構成を「オールビッグコア(All Big Core)」と呼んでいる。これは、省電力コアを使わず、8基すべてを高性能系のCPUコアで構成するという意味だ。ただし、8基すべてが同じ種類のCPUコアというわけではない。

C10 Maxは、最大3.73GHzで動作するCortex-X925を1基、その下にCortex-X4を3基、さらにCortex-A720を4基搭載する。いずれもArmの高性能コア系統に属するが、性能と消費電力のバランスに応じて三つの種類に分かれている。

こうした構成は、CPUだけでなくGPUやNPU、メモリー制御、カメラ・動画処理などを一つのSoCに統合してきたMediaTekの設計思想ともつながる。

C10 MaxはLPDDR5X-9600とUFS 4.0に対応し、内蔵の4K60ディスプレイに加えて、外部の4Kディスプレイを最大2台まで接続できる。映像処理では、AV1、HEVC、AVC、VP9の4K60・10ビット動画のデコードにも対応する。スマートフォンやタブレットで培ってきた高集積のSoC設計を、ノートPCの大画面や周辺機器へ広げた構成といえる。

MediaTekは、TSMCの第2世代3nmプロセスと電力管理技術によって、薄型かつファンレスで一日中使えるPCを設計できるとしている。

ただし、バッテリー駆動時間に関する注記の根拠は、60Whのバッテリーを搭載したGoogle PLTを使った推定であり、今後発売されるLenovo製Googlebookの実測結果ではない。

実際のバッテリー駆動時間は、筐体の厚さや冷却機構、バッテリー容量、SoCの電力設定などによって変わる。したがって、ファンレス設計や長時間駆動については、実際の製品が登場するまで評価を確定できない。

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55 TOPSの数字以上に重要なGooglebookとの相性

Googlebookは、単にChromebookの名称を置き換えた製品ではない。

Googleは2026年5月、Androidのアプリ基盤とChromeOSで培ったブラウザ技術を組み合わせ、Gemini IntelligenceやAndroid端末との連携を中核に据えた新しいPCカテゴリとしてGooglebookを発表した。Google Playのアプリを利用できるほか、スマートフォン内のファイルやアプリへPCからアクセスできることも特徴となる。

MediaTekは同じ5月、GooglebookがAndroid由来の共通基盤を採用するため、自社がAndroid端末向けに培ってきた技術を生かしやすいと説明していた。C10 Maxは、その方針を実際の製品向けSoCとして具体化したものといえる。

Windows on Armでは、既存のx86アプリや周辺機器との互換性が課題になりやすい。一方、Googlebookでは、MediaTekが長年SoCを供給してきたAndroid端末やChromebookのソフトウェア資産を土台にできる。

これはMediaTekにとってGooglebookへ参入しやすい要因と考えられるが、Googlebook上のすべてのアプリが同じ性能や互換性で動作することを保証するものではない。

NPU 890が持つ「55 TOPS」という数字も、同じように注意して見る必要がある。

C10 MaxはINT8だけでなく、INT16、FP16、BF16の演算にも対応する。GoogleもGooglebookでは端末上で動作するGemini機能を前面に打ち出している。

ただし、Googleが初期Googlebookで示している「45 TOPS超」という基準や、Intel、Qualcommなどが公表するNPU性能とは、演算精度、denseとsparseの扱い、消費電力、ソフトウェア側が実際に利用できる割合などの条件が必ずしもそろっていない。

そのため、55 TOPSという数字だけを見て、C10 MaxがIntelやQualcommの製品より高速だと判断することはできない。

従来のKompanio Ultra 910の公式ページには、エージェント型AI、Bluetooth 6.0、レイトレーシングについて、ChromeOSでは利用できないという注記がある。

C10 MaxではINT16、FP16、BF16への対応やImagiq 1090 ISPなどが新たに明記されたが、GooglebookのOSがこれらの機能をアプリにどこまで開放するのかは現時点では分からない。SoC自体が備えている機能と、実際に購入者が利用できる機能は分けて考える必要がある。

初期ラインアップではIntelとQualcommが先行

Googleが9月21日に予約受付を始めた初期のGooglebookは5機種で、Acer、ASUS、Dell、HP、Lenovoが製造する。搭載プロセッサはIntel Core Ultra Series 3またはQualcomm Snapdragon X Eliteで、米国での価格は899ドルから。米国では10月4日、カナダや英国など6カ国では10月5日の店頭発売を予定している。

Qualcommも同日、Snapdragon X Eliteを搭載するDellとHPのGooglebookが予約可能になったと発表した。

初期ラインアップのLenovo Googlebook 15についても製品ページが公開されており、Intel Core Ultra 5、16GBのRAM、512GBのストレージ、大型OLEDディスプレイを搭載し、価格は1,099ドルとされている。

つまりIntelとQualcommについては、実際に購入できる製品と価格、基本構成がすでに示されている。

MediaTek搭載機は、まだその段階には達していない。

MediaTekの公式発表が明らかにしているのは、「今後登場するプレミアムで超薄型のGooglebook」にC10 Maxが使われるという点までで、メーカー名は記載されていない。

Lenovoへの採用については、MediaTekが9to5Googleへ送ったメールによって明らかになった情報だ。9to5Googleは未発表のタブレット型端末との関連も推測しているが、MediaTekやLenovoがその製品形状を確認したわけではない。現時点でタブレット型だと断定する根拠はない。

GoogleがIntel、Qualcomm、MediaTekの3社と組んでいることは、Googlebookのプラットフォームが特定のCPUメーカーだけに依存しない設計であることを示している。

プロセッサの供給元が増えれば、価格帯や筐体設計の選択肢が広がる可能性はある。ただし、C10 Maxを搭載するGooglebookの価格はまだ明らかになっていないため、MediaTekによってIntelやQualcomm搭載機より安価なGooglebookが実現するとは現時点では言えない。

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C10 Maxの実力はLenovo製品の実測で決まる

C10 MaxがKompanio Ultra 910から引き継いでいる要素は多い。それでも、Googlebook向けとしてメモリー速度を引き上げ、NPUの対応データ形式やISPの機能を拡張したことには意味がある。

さらに、C10 Maxは今後登場するLenovo製Googlebookへの採用も予定されている。MediaTekにとっては、まったく新しいCPUアーキテクチャを待つことなく、既存の設計やソフトウェア開発の経験を生かして新しいPC市場へ参入できる。

ただし、それが購入者にとってのメリットになるかどうかは、実際の製品を見なければ分からない。

Lenovoがどの程度のRAMやストレージを搭載するのか。筐体をどのように冷却し、どれだけのバッテリー容量を確保するのか。同じアプリ、同じ画面輝度などの条件で、IntelやQualcomm搭載機と比べてどの程度のバッテリー駆動時間を実現できるのか。

電源接続時とバッテリー駆動時でCPU、GPU、NPUの性能がどの程度変化するのかも重要になる。端末上のGemini機能がNPU 890をどこまで活用するのか、AndroidアプリやLinux開発環境を長時間安定して動かせるのかも確認すべき点だ。

MediaTekがプレミアムPC市場で存在感を示せるかどうかは、「CX」という新しいブランド名だけでは判断できない。

今後登場するLenovo製品が、薄型・ファンレスという設計目標を維持しながら、すでに予約販売が始まっているIntel・Qualcomm搭載機と価格、バッテリー駆動時間、持続性能の面で競える製品になったとき、C10 MaxがGooglebook向けSoCとしてどこまで成功したのかを初めて評価できる。