Hyperion Researchは2026年11月3日、2026年上半期のオンプレミスHPC・科学向けAIサーバー市場が165億ドルに達したと発表した。組織が手元に設置し、大規模な計算やシミュレーションに使うサーバーの市場で、同社が示した伸び率は売上高が19.9%、出荷台数が4.4%と開いている。対象は科学研究・工学向けの計算基盤であり、チャットサービスを含むAIサーバー全体の数字とは異なる。台数以上に売上が伸びる背景には何があるのか。高価な構成の増加と研究工程へのAI統合をたどると、設置場所の違いだけでは見えない需要の変化が浮かぶ。
売上19.9%増と台数4.4%増の差を分解する
165億ドルという規模と二つの伸び率は、Hyperionの発表文に記載されている。ただし、比較期間には注意が要る。発表は前年比を意味する表現を使う一方、売上高の比較元を「2025年下半期」とも記しており、表記が一致していない。どちらかを誤記と決める根拠は確認できず、19.9%を前年比とも前期比とも確定できない。
Hyperionの公表した売上高19.9%増と出荷台数4.4%増から計算すると、集計上の1台当たり売上高は約14.8%増となる。これは発表が二つの伸び率を同じ期間のものとしていることを前提にした計算で、式は「(1.199 ÷ 1.044 − 1)× 100 ≒ 14.8%」だ。売上高を台数で割った平均の変化を求めるため、19.9から4.4を引く計算にはならない。ここでいう出荷台数は、発表の販売単位を指す。
この14.8%を、同じサーバーがそれだけ値上がりしたという意味には使えない。集計上の平均は、個々の機器の価格が変わった場合にも、高価な機種が売上に占める割合を増した場合にも上昇する。販売単位が同じ1台でも、GPUの構成やシステムの規模が違えば、売上への寄与は変わる。台数の伸びをそのままGPU数や計算能力の伸びに読み替えることもできない。
Hyperion自身は、高価なGPU構成が増えていることと、メモリーコストの上昇を背景に挙げている。同社は買い手と供給側の双方への複数の調査で市場を追跡しているが、公開発表からは、価格と機種構成のそれぞれが売上増の何割を生んだかまでは分からない。平均売上が上がっているという計算結果と、その内訳は分けて読む必要がある。
すると、台数の次に問うべきなのは機器の中身だ。研究機関が従来の計算にAIを組み込むなら、購入するサーバーに求める仕事も変わってくる。
シミュレーションとAIが同じ研究工程につながる
Hyperionの生成AI・HPC利用者調査の公開概要によると、回答者の53%が、既存の業務へ生成AIの機能を統合する段階に入ったと答えた。同社は、過半数がこの段階に達したのは初めてだとしている。ただし、この53%は当該調査の回答者についての数字であり、企業全体やHPC利用者全体の導入率ではない。公開概要では標本数や調査票なども確認できない。
研究でAIを統合するとは、どんな作業を指すのか。具体例になるのが、ドイツのライプニッツ・スーパーコンピューティング・センター(LRZ)が進める「Blue Lion」だ。LRZが2025年6月11日に示した計画では、古典的な計算・シミュレーションとAIを組み合わせる方針を説明している。2027年稼働予定のシステムの構想であり、今回の上半期売上を構成する案件として紹介されたものではない。
LRZが挙げる使い方には、二つの向きがある。一つは、AIによる「代理モデル」で従来のシミュレーションを補完することだ。代理モデルは、シミュレーションの結果などを学習し、その振る舞いを近似するモデルを指す。もう一つは、シミュレーションが生成したデータを使い、さらにAIモデルを学習する流れである。
つまり、従来の計算とAIは、別々の用途として設備を取り合うだけではない。シミュレーションがAIの学習材料を生み、そのAIをシミュレーションの補完に使うという関係も成立する。この場合、設備を選ぶ側は、シミュレーションを動かす計算とAIの学習・利用を、研究工程のどこで組み合わせるかを考えることになる。サーバーの販売台数だけでは、こうした仕事の組み合わせは捉えられない。
もっとも、Blue Lionの計画は、物理シミュレーションをAIですべて置き換えるという話ではない。計算時間や費用をどれだけ減らせるかも、ここで挙げた資料から数量化はできない。利用者調査と売上市場の母集団も異なるため、53%という回答比率から、AI統合が今回の19.9%増をどれだけ押し上げたかを算出することはできない。分かるのは、研究工程へAIを組み込む動きと、それを前提にした設備計画があるという点だ。
Dell首位を支える中規模需要と大型調達の波
Dellは今回、25年以上にわたって首位だったHPEを上回ったとHyperionは発表した。その説明では、Dellの大型案件に加えて、科学・工学の既存業務へAIを取り込むミッドレンジ機の顧客が急増したことを挙げている。最高性能を狙う少数の大型システムだけでなく、既存業務へAIを加える中規模の需要も、メーカーの売上を支えているという見立てだ。
一方、HPEについてHyperionは、2025年に複数のエクサスケール級システムの販売で大きな売上を計上していたと説明する。この規模の調達は毎年続くとは限らない。大型案件がある期間にまとまれば、売上順位には、日常的な需要の広がりとは別に、設備更新や調達の時期も作用する。
首位交代には、顧客層が広がる動きと、大型案件の売上が計上される周期の両方が重なっている。したがって、この順位だけを根拠にDellとHPEの製品性能の優劣を決めたり、顧客が一斉に乗り換えたと見なしたりすることはできない。研究用サーバーの市場を読む際には、どの規模の需要が伸びたかと、少数の大型案件がいつ入ったかを併せて確かめる必要がある。
オンプレ拡大と並んで伸びるクラウド利用
Hyperionは、科学向けAI・HPCのクラウド利用に関する別の公開概要でも、需要が引き続き拡大していると説明している。利用理由として挙げるのは、必要に応じて資源を素早く増減できること、手元にない新しいハードウェアへアクセスできること、そして手元の設備より大規模な計算処理を実行できることだ。
こうした利用理由は、「自前の設備が不要になるから」という一方向の説明には収まらない。保有設備で動かす研究があっても、処理の規模や使いたい機器によって追加の資源が必要になる。手元の設備と外部の資源をどう組み合わせるかという問いは、オンプレミスの需要が伸びることと両立する。
同社は、科学向けAI・HPCのクラウド支出が年平均19.3%で成長し、2030年には300億ドルに達すると予測している。これは将来予測であり、今回発表された2026年上半期の実績ではない。また、クラウド利用への支出と、オンプレミスのサーバー販売額は集計対象が異なる。300億ドルと165億ドルを並べて市場の大小を比べたり、両者の比率を市場シェアとして扱ったりすることはできない。
今回の売上統計は、同じ顧客がクラウドから手元の設備へ移った割合を測っていない。オンプレミスの成長を、そのままクラウドからの回帰と読む根拠はない。一方で、研究業務へのAI統合という動きは、設備の購入額だけでは利用の実態を判断しにくくする。どの研究工程で計算資源を使い、手元の設備をどれだけ稼働させ、どんな時に外部へ処理を出すのかが、費用と能力を評価する材料になる。
価格と機種構成の寄与が分かる内訳に加え、実際の処理能力や利用状況が示されれば、売上の増加が研究現場のどの仕事を支えているかを確かめられる。研究機関が設備を選ぶ際にも、購入する台数に、研究工程ごとの必要資源と利用実態を重ねることで、手元の計算基盤とクラウドを組み合わせる判断を具体化できる。



