手頃な価格のシングルボードコンピューターとして知られるRaspberry Piで、大容量メモリ搭載モデルの価格が高騰している。Raspberry Piは2026年11月2日、16GBのメモリを搭載する一部製品の価格改定を発表した。16GB版Raspberry Pi 5は80ドル値上げされ、公式価格が385ドルとなった。組み込み機器向けのCompute Module 5(CM5)も、16GB搭載モデルが一律40ドルの値上げとなる。一方、低容量モデルや他世代のボードは今回の改定対象に含まれず、同じ16GBのメモリを搭載するデスクトップPC「Raspberry Pi 500+」も410ドルに据え置かれた。
今回の価格改定は製品全体ではなく、16GBという大容量メモリ構成に集中している。その結果、単体ボードと完成品デスクトップの価格差が極端に小さくなるなど、製品間の価格バランスにも変化が生じた。ホビー用途のユーザーだけでなく、Raspberry Piを組み込み機器に採用する企業にとっても、必要なメモリ容量と調達コストを改めて見直す必要が出てきている。
16GBモデルに集中した価格改定の実態
Raspberry Piが11月2日に発表した価格改定で、最も大きな影響を受けたのは16GB版Raspberry Pi 5だ。今回だけで80ドルの値上げとなり、公式価格は従来の305ドル(過去の改定幅から算出)から385ドルへ引き上げられた。同社の製品ラインアップの中でも、単体ボードとしては非常に高額な価格帯に達している。
産業機器や組み込みシステム向けのCompute Module 5についても、16GBメモリを搭載する全モデルが40ドル値上げされた。CM5には無線機能の有無や、オンボードeMMCストレージの容量(非搭載、16GB、32GB、64GBなど)によって複数の製品構成が用意されているが、今回の値上げ幅はすべて同じだ。一方、1GBから8GBまでの低容量メモリ構成については、今回の発表で値上げの対象として挙げられていない。価格改定が16GBという特定のメモリ容量に集中している点が特徴的だ。
対照的なのが、16GBのメモリを搭載するデスクトップPC「Raspberry Pi 500+」である。同製品はメカニカルキーボード一体型の筐体にコンピューター本体を収め、256GBのSSDも備える完成品だが、今回の価格改定では410ドルに据え置かれた。これにより、16GB版Raspberry Pi 5の単体ボードとの価格差は、わずか25ドルとなった。メモリ容量が同じでも、製品によって価格改定の扱いが大きく異なる状況が生まれている。
なお、これらはすべてRaspberry Piが公表する米ドル建てのメーカー基準価格である。日本を含む各国の実売価格は、正規販売代理店(Approved Resellers)の価格設定や為替レート、消費税などの税金、配送料によって異なる。公式価格をそのまま日本国内での購入価格とみなすことはできない。
120ドルから385ドルへ、約11か月で220.8%の値上げ
16GB版Raspberry Pi 5の価格高騰は、今回の80ドルという値上げ幅だけでは十分に伝わらない。過去約1年間の価格改定を振り返ると、同モデルの価格が段階的に、しかも大幅に引き上げられてきたことが分かる。2025年12月の改定前には120ドルだった製品が、現在では385ドルに達している。
最初の大きな値上げは2025年12月1日に発表された。Raspberry Piはメモリコストの上昇を理由に、16GB版Raspberry Pi 5を120ドルから145ドルへ25ドル引き上げた。続く2026年2月2日にはメモリ容量に応じた価格改定が行われ、16GBモデルはさらに60ドル高くなり、計算上の価格は205ドルとなった。4月1日には100ドルの追加値上げが発表され、価格は305ドルに達した。そして11月2日の80ドル引き上げにより、現在の385ドルとなった。
データを表で見る
| 米ドル公式・計算価格 (USD) | |
|---|---|
| 2025年12月以前 | 120 |
| 2025年12月1日 | 145 |
| 2026年2月2日 | 205 |
| 2026年4月1日 | 305 |
| 2026年11月2日 | 385 |
2025年12月の値上げ前と比較すると、約11か月間の上昇額は265ドルに達する。これは当初価格の約3.21倍に相当し、累積上昇率は220.8%となる。Raspberry Piは過去にも2GB版や4GB版などの価格を見直し、1GB版や3GB版といった新たな容量構成を投入してきたが、今回の16GBモデルほど大幅な値上げが繰り返される状況は異例だ。特に、大容量メモリを必要とするユーザーにとって、Raspberry Pi 5の価格面での魅力は大きく変わっている。
| 日付・製品 | 構成・改定内容 | 改定前価格 | 値上げ幅 | 改定後価格 | 価格の区分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025年12月1日 | 16GB版 Raspberry Pi 5 | $120 | +$25 | $145 | 公式発表 |
| 2026年2月2日 | 16GB版 Raspberry Pi 5 | $145 | +$60 | $205 | 発表された改定幅から算出 |
| 2026年4月1日 | 16GB版 Raspberry Pi 5 | $205 | +$100 | $305 | 発表された改定幅から算出 |
| 2026年11月2日 | 16GB版 Raspberry Pi 5 | $305 | +$80 | $385 | 公式発表 |
| 2026年11月2日 | 16GB版 Compute Module 5(全構成) | 各モデルの従来価格 | +$40 | 各モデルの従来価格に+$40 | 公式発表 |
| 2026年11月2日 | 16GB版 Raspberry Pi 500+ | $410 | $0(据え置き) | $410 | 公式発表 |
この価格推移から明らかなのは、Raspberry Piという製品群全体が一律に高額化しているわけではないという点だ。低容量モデルにも価格改定はあったものの、16GB版Raspberry Pi 5では、大容量メモリの調達コスト上昇が特に大きな影響を及ぼしている。かつて120ドルで購入できた構成に385ドルを支払う必要がある現在、必要以上のメモリを搭載する選択は、以前よりはるかに大きなコスト負担を伴う。
高密度DRAMの供給不足が値上げの背景に
Raspberry Piが今回の値上げの主な理由として挙げたのは、16GB DRAMの代替供給元が不足していることと、その他の部品不足が続いていることだ。低価格のコンピューターを普及させてきた同社にとっても、大容量メモリの調達コスト上昇を吸収することが難しくなっている。
Raspberry Piは従来、供給網の柔軟性を高めるため、複数のメーカーから互換性のある部品を調達し、それぞれを製品に使用できるよう認定する方法を採ってきた。しかし、単一チップや高密度パッケージで16GBを実現するDRAMについては、代替可能な供給元が限られているという。そのため、他のメーカーの部品へ切り替えることで調達コストの上昇を抑える余地が小さい。ただし、同社は供給不足に陥っているDRAMの具体的なメーカー名や調達単価の推移、部品表(BOM)に基づく原価の内訳までは公表していない。
こうした状況の背景には、AI需要の拡大に伴うDRAM市場全体の需給構造の変化があると考えられる。市場調査会社TrendForceが2026年9月30日に公開した調査資料では、DRAMメーカーがAIサーバー向けの高性能製品やHBM(広帯域メモリ)に先端製造プロセスの生産能力を優先配分していると指摘された。その結果、サーバー向け製品への生産能力のシフトが進み、消費者向けやモバイル向けDRAMの供給枠が圧迫されているという。
ただし、DRAM市場全体の需給逼迫と、Raspberry Piが実際に負担している調達コストは区別する必要がある。TrendForceの調査は業界全体の傾向を分析したものであり、Raspberry Piと部品メーカーの個別契約条件や納入実績を明らかにしたものではない。今回の80ドルや40ドルという値上げ幅のうち、DRAMの仕入れ価格上昇がどれだけを占め、その他の部品不足、為替、物流費などがどの程度影響したのかを判断できる公開データもない。AI向けメモリ需要の増大が業界全体の供給構造を変えていることは重要な背景だが、それがRaspberry Piの製品原価にどの程度反映されているかは不明だ。
Raspberry Pi 500+との価格差はわずか25ドル、製品選びにも影響
今回の値上げで特に目立つのが、16GB版Raspberry Pi 5とRaspberry Pi 500+の価格差だ。単体ボードのRaspberry Pi 5が385ドルとなった一方、完成品デスクトップのRaspberry Pi 500+は410ドルに据え置かれた。両製品は用途が異なるものの、同じ16GBのメモリを搭載しながら、その価格差はわずか25ドルとなっている。
Raspberry Pi 500+は、メカニカルキースイッチを採用したキーボード一体型の筐体に加え、冷却システムと256GBのNVMe SSDを標準搭載している。これに対し、単体ボードのRaspberry Pi 5をデスクトップPCとして利用するには、電源アダプター、冷却ファンやケース、microSDカードなどのストレージ、キーボード、マウスを別途用意する必要がある。SSDを使用する場合は、構成によってM.2 HATなどの拡張部品も必要だ。こうした周辺機器の購入費用は25ドルを容易に上回るため、一般的なデスクトップ環境を構築するのであれば、Raspberry Pi 500+の価格面での優位性は大きい。
もっとも、Raspberry Pi 500+がすべての用途でRaspberry Pi 5の代わりになるわけではない。単体ボードのRaspberry Pi 5は、40ピンGPIOヘッダーへのアクセスやPCIeを使った拡張、独自筐体や各種機器への組み込みなど、高い自由度を備えている。一方、Raspberry Pi 500+はデスクトップPCとしての使いやすさを重視した設計であり、GPIOやPCIeを使った独自のハードウェア開発には制約がある。設置スペースや電源仕様、重量も異なるため、価格差が小さいからといって両者をそのまま置き換えられるわけではない。今回の価格改定は、用途に応じた製品選定の重要性をさらに高めたといえる。
産業用途では、Compute Module 5の価格上昇がより直接的な問題となる。2026年9月版の製品概要資料(DS-11)によると、16GB版CM5の基準価格はストレージ容量や無線機能の有無に応じて335〜375ドルだった。今回の40ドル値上げを適用すると、計算上の価格帯は375〜415ドルとなる。組み込み機器の設計にCM5を採用している企業にとっては、製品1台当たりの部材コストが増加することになる。
データを表で見る
| 米ドル基準価格 (USD) | |
|---|---|
| Pi 5 (16GB) | 385 |
| Pi 500+ (16GB) | 410 |
| CM5 Lite (16GB) | 375 |
| CM5 最上位 (16GB) | 415 |
Raspberry PiはCompute Module 5について、少なくとも2036年1月まで生産を継続するとしている。しかし、この長期供給保証は製品の製造を続けるという約束であり、販売価格の据え置きを保証するものではない。長期的に同じハードウェアを調達できることと、一定の価格で購入できることは別の問題だ。組み込み機器を開発する企業は、CM5を一括りに扱うのではなく、メモリ容量、eMMCストレージ、無線機能の有無など、採用する製品構成ごとにBOMを見直す必要がある。
Raspberry Pi自身も、ユーザーに対して必要以上のメモリを購入しないよう勧めている。公式発表では、8GBや4GBなどの低容量モデルへの変更、前世代のRaspberry Piの採用、アプリケーション側のメモリ使用量の最適化といった選択肢を挙げた。これまでのように将来の余裕を見込んで最大容量を選ぶのではなく、実際の用途に必要なメモリ容量を見極めることが、コストを抑えるうえで重要になっている。
ただし、16GBのメモリを実際に必要とする用途では、単純に容量を減らせばよいわけではない。例えば、ローカル環境で大規模言語モデルを動かす場合や、大容量のバッファを使うリアルタイム映像処理では、メモリ不足が処理性能や動作の安定性に直結する可能性がある。開発現場では、実行中のピークメモリ使用量や処理性能を測定し、8GB以下の構成でも要求を満たせるかを検証する必要がある。16GBモデルの価格が385ドルに達した現在、メモリ容量の選択は以前にも増して製品コストを左右する要素となっている。
また、Raspberry Piは非正規の販売経路における価格の吊り上げや模倣品にも注意を呼びかけている。高密度DRAMの供給不足に乗じた高額転売を避けるため、世界各地の正規販売代理店(Approved Resellers)から購入するよう推奨している。特に、継続的な部品調達が必要な企業にとっては、購入価格だけでなく、供給元の信頼性や調達の安定性も重要な判断材料となる。
Raspberry Piは今回の発表で、現在のメモリ供給難について「本質的には一時的なもの(ultimately temporary)」との認識を示し、メモリコストが再び低下すれば値上げを撤回する意向を明らかにした。ただし、価格を引き下げるための具体的な原価条件や実施時期は示されていない。16GB版Raspberry Pi 5の価格が約11か月で3倍以上に上昇した現状を踏まえると、当面は現在の価格水準を前提に製品選定や調達計画を立てる必要がある。今後はDRAMの供給状況に加え、Raspberry Piがいつ、どの製品から価格を引き下げるのかが焦点となる。



