Samsung Electronicsが、8インチウェハーを使うファウンドリー事業を2030年末までに全面終了する計画を顧客に通知したと、韓国の半導体専門メディアThe Elecが11月2日に報じた。同社はこれまで8インチ生産ラインの段階的な縮小方針を示していたが、具体的な終了期限が伝えられたのは今回が初めてだという。TSMCも8インチ工場の一部を閉鎖する方針を示しているものの、両社の生産能力削減が市場に与える影響は異なる可能性がある。Samsungが最終的に停止する生産能力は年換算で最大240万枚と推計され、TSMC系列のVISの2025年の生産能力の約7割に相当する。TSMCについてはVISへの生産移管が報じられている一方、Samsungには明確な移管先が見えておらず、成熟プロセスの半導体供給をさらに逼迫させるおそれがある。
Samsungは2030年末までに全面終了、TSMCは一部工場を閉鎖
The Elecによると、Samsung Electronicsは最近、8インチファウンドリーの顧客に対し、2030年末までに関連するすべての生産ラインを停止する計画を通知した。同社は8インチ事業から撤退し、人員や設備投資を12インチウェハーを使う先端製造プロセスへ集中させる方針だという。当初の計画では、韓国・器興(Giheung)にある3つの8インチ工場(S6、S7、S8)のうち、S7のみを2026年中に閉鎖し、残る2工場は操業を続ける予定だった。しかし、今回の報道が事実であれば、縮小方針は2030年末までの全面撤退へと拡大したことになる。
Samsung Electronicsは2026年4月の第1四半期決算説明会で、ファウンドリー事業部の姜錫采(Kang Seok-chae)副社長が、電力半導体、ディスプレイ駆動IC(DDI)、イメージセンサー向けの8インチ生産ラインを順次閉鎖すると説明していた。同社は2026年から8インチ工程を使う新規製品の受注も停止している。ただし、2030年末という全面終了期限については、現時点ではThe Elecが業界関係者への取材に基づいて報じたものであり、Samsung Electronicsによる正式な発表とは区別する必要がある。
一方、TSMCが公式に明らかにしているのは、特定の工場を閉鎖する計画だ。2026年4月16日の決算説明会では、6インチウェハーを扱うFab 2と、窒化ガリウム(GaN)半導体を中心に製造する8インチ工場のFab 5を段階的に閉鎖する方針を示した。空いた施設は先端プロセスを支える用途に活用する計画で、両工場を閉鎖しても既存顧客の需要に十分対応できる生産能力を維持できると説明している。
ただし、TSMCの8インチ事業には、より大規模な生産移管が進む可能性もある。台湾の経済日報が2026年2月10日に報じた内容によると、TSMCの8インチウェハーの年間生産能力は約500万枚で、その約8割を今後数年間で系列のVISへ段階的に移管するとの見方がある。同紙はIC設計会社の分析として、受注の移管や製造装置の移設、技術協力などを通じて生産を引き継ぐと伝えた。TSMCが近年、VISに8インチ製造装置を2度売却したことも報じている。ただし、約8割の移管は業界関係者の見通しであり、TSMCが公式に確約した計画ではない。
年間最大240万枚の生産能力が消える可能性
Samsung Electronicsの8インチ工場では、65nmから180nmまでの成熟プロセスを使い、DDI、電源管理IC(PMIC)、マイコン、イメージセンサーなどを製造している。これらの半導体では、必ずしも最先端の微細化技術が必要とされるわけではなく、製造コストや電圧特性、既存設計との互換性などが重視される。そのため、先端半導体の製造が12インチウェハーへ移行しても、8インチ工場への需要は残っている。
特に供給が逼迫しているのが、電源管理に関連する半導体だ。市場調査会社TrendForceの2026年5月7日の分析によると、PMICやパワーディスクリートなどの製品は、現在も8インチ工程への依存度が高い。AIサーバーや一般サーバー、エッジAI機器の電力需要が拡大する一方、大手ファウンドリーが8インチ生産能力を削減しているため、世界の主要ファウンドリー上位10社の8インチ平均稼働率は、2025年の約80%から2026年には90%近くまで上昇する見通しだ。同社は世界の8インチ生産能力が2027年前半まで前年割れを続け、稼働率も80%を上回ると予測している。
こうした需給環境のなかで、Samsungの全面撤退は無視できない規模になる。The Elecが2026年1月に報じた情報によると、器興のS7閉鎖によって、同社の8インチ生産能力は月産約25万枚から20万枚未満へ縮小する見込みだった。この月産20万枚を上限として年換算すると、今後全面終了の対象となる生産能力は最大240万枚となる。一方、経済日報が伝えたVISの2025年の平均月産能力は28万6,000枚で、年換算では343万2,000枚に相当する。
両社の生産能力を比較すると、Samsungが停止する最大240万枚は、VISの2025年の年間生産能力の約70%にあたる。
- Samsungの閉鎖対象となる生産能力:最大20万枚/月 × 12か月 = 最大240万枚/年
- VISの2025年の生産能力:28万6,000枚/月 × 12か月 = 343万2,000枚/年
- 両者の比率:240万枚 ÷ 343万2,000枚 ≒ 70%
いずれも実際の出荷枚数ではなく、設備の生産能力に基づく比較だ。また、VISの数字は減少する能力の規模を把握するための参考値であり、両社の市場シェアを比較したものではない。
TSMCについては、年間約500万枚の生産能力の8割に相当する約400万枚分を、数年間かけてVISへ移管するとの見方が報じられている。この移管が実現すれば、TSMCの工場で生産されなくなるウェハーの一部を、同じ8インチ市場に属するVISが引き継ぐことになる。ただし、製造装置や受注の移管には時間がかかり、移管前後で同じ生産能力が維持される保証はない。また、既存の生産能力が別の事業者へ移ること自体は、市場全体の供給量が純増することを意味しない。
これに対して、Samsung Electronicsの8インチ生産分については、現時点で大規模な移管先が確認されていない。The Elecによると、韓国国内の有力な8インチファウンドリーであるDB HiTekとSK keyfoundryは、既存顧客への生産枠の割り当てが多く、Samsungからの追加受注を引き受ける余力が限られている。台湾の8インチ工場も生産能力に余裕が少なく、中国のファウンドリーへ移管する場合には、最終顧客による中国製半導体の使用制限が障害となる可能性がある。
12インチ工程への移行も容易ではない。Samsungの8インチ顧客は、主に90nmから180nmのプロセスを、製造コストと製品特性に応じて使い分けてきた。12インチウェハーを使う別の製造工程に移行するには、製品の設計変更や性能・信頼性の再検証が必要になる場合があり、製造コストも上昇しかねない。特にアナログ半導体や電力半導体では、高電圧への対応などを目的とした特殊な製造プロセスが使われるため、単純に回路の線幅を縮小すれば移管できるわけではない。
こうした状況を受け、一部のファブレス半導体メーカーは、Samsungでの生産枠を早めに確保し、在庫を積み増す準備を進めているという。ただし、在庫の積み増しには追加の資金や保管費用が必要であり、恒久的な解決策にはならない。長期的には代替となる製造ラインを確保し、製品の再検証を行う必要がある。
稼働率70%と4年間の猶予は、供給不足を緩和できるか
Samsungの撤退による影響を評価するうえで注意すべきなのは、生産能力と実際の生産量の違いだ。The Elecは2026年1月、Samsungの8インチ工場の稼働率が約70%だと報じている。この数字を単純に当てはめれば、月産25万枚の生産能力に対する実際の生産量は月17万5,000枚、年換算で約210万枚となる。S7閉鎖後の月産20万枚という上限に同じ稼働率を適用すると、年換算では168万枚になる。
このため、稼働率70%が変わらないと仮定した場合、全面撤退によって失われる生産量の規模は、年約168万〜210万枚と単純計算できる。ただし、これは2026年初めの稼働率を使った概算であり、2030年末までの実際の生産量を予測したものではない。それでも、VISの2025年の年間生産能力の約5〜6割に相当する規模であり、ほかのファウンドリーが容易に吸収できる量とは言い切れない。
もう一つの緩和要因は、全面終了まで約4年間の猶予があることだ。The Elecが取材した業界関係者は、Samsungが4年間の準備期間を設けている以上、一方的な決定とは言いにくいとの見方を示している。一方で、同じ関係者は、韓国国内の生産枠は埋まっており、中国への移管は難しく、台湾や米国の工場にも余裕がないと指摘した。移管までの時間が確保されていても、適切な製造工程と生産能力を持つ委託先が見つかるとは限らないのである。
ただし、成熟プロセス全体の供給能力が増えないわけではない。TrendForceによると、12インチウェハーを使う成熟プロセスの生産能力増強では、中国のファウンドリーが全体の約7割を占める見通しだ。製品の設計や製造条件が適合すれば、8インチから12インチへ生産を移す選択肢は残っている。DDIやイメージセンサーでは、すでにこうした移行が進んでおり、Samsung自身も両製品の生産を12インチへ移している。TSMCも日本のJASM第1工場で、CMOSイメージセンサー向けの成熟プロセスの生産能力を増強すると説明している。
日本の電子機器メーカーにとって、特に注目すべきなのはPMICなどの調達価格だ。AIサーバーの電力需要拡大によって8インチ工程の稼働率が高まり、TrendForceは2026年5月の時点で、ファウンドリーが値上げ分を顧客に転嫁し始めたと指摘している。さらに、同社の6月30日の分析によれば、2026年第1四半期から第2四半期にかけての8インチファウンドリー価格は平均5〜15%上昇しており、価格上昇の傾向は2027年まで続く可能性がある。Samsungの全面撤退が予定どおり進めば、2028年以降も供給能力の制約が続くかどうかが、価格動向を左右する一因になるだろう。
もっとも、Samsungの撤退が必ず長期的な供給不足につながるとは限らない。代替ファウンドリーへの移管や12インチ工程への移行が進めば、減少する生産能力の一部を補える可能性がある。この見立てを検証する指標となるのが、世界の主要ファウンドリー上位10社における8インチ平均稼働率だ。2028年以降、この稼働率が80%を下回れば、8インチ市場の需給逼迫が長期化するという見方を見直す必要がある。また、Samsungが2030年末という終了期限を延期した場合も、想定していた供給能力の減少ペースは変わる。
現時点でTrendForceが示している8インチ生産能力と稼働率の見通しは、2027年前半までが中心であり、Samsungの全面終了期限である2030年末を十分にカバーしていない。そのため、今回の撤退計画が市場に与える長期的な影響は、2028年以降の稼働率と生産移管の進捗を確認しなければ判断できない。TSMCが既存の8インチ生産を系列企業へ移すとみられる一方、Samsungは明確な移管先が報じられないまま全面撤退へ向かっている。この違いが、今後の8インチファウンドリー市場の供給能力と価格にどの程度影響するのかが焦点となる。
