Samsung Electronics(以下、Samsung)は2026年2月12日、次世代の高帯域幅メモリ「HBM4(第6世代)」の量産を開始し、顧客への商用製品の出荷を始めたと発表した。同社はこの成果を、自社の歴史において「最も重要なチップ」と位置づけており、世界で初めてHBM4の量産・出荷を実現した企業としての地位を強調している。
今回の発表は、前世代のHBM3EにおいてライバルであるSK hynixやMicronに先行を許したSamsungにとって、市場リーダーシップを奪還するための極めて戦略的なマイルストーンとなる。AIコンピューティングのボトルネックとなっているメモリ帯域幅の限界を打破すべく、Samsungは既存の設計の流用ではなく、最新鋭の製造プロセスを惜しみなく投入する道を選んだ。
業界の常識を覆す「1c DRAM」と「4nmロジックダイ」の融合

SamsungがHBM4で達成した技術的ブレイクスルーの核心は、メモリチップ(コアダイ)とロジックダイ(ベースダイ)の両方に、業界最先端の微細化プロセスを適用した点にある。
最新鋭「1c DRAM」プロセスの先行採用
Samsungは、コアダイに業界で最も進んだ第6世代10nm級(1c)DRAMテクノロジーを採用した。このプロセスは、EUV(極端紫外線)露光技術を駆使してセル密度を向上させ、設計ルールを微細化したものであり、従来の1bプロセスを使用する競合他社に対して一歩先んじる形となった。
自社ファウンドリによる「4nmロジックダイ」の統合
さらに重要な変更点は、メモリスタックの最下層で計算処理を制御する「ロジックベースダイ」に、自社ファウンドリの4nmプロセスを導入したことである。これにより、従来のロジックダイに比べて演算性能と電力効率が大幅に向上した。
興味深いのは、ライバルのSK hynixが、実績のある1b DRAMとTSMCの12nmプロセスを用いたロジックダイを組み合わせることで「安定性」を重視したのに対し、Samsungは垂直統合型(IDM)の強みを活かし、最先端プロセス同士を最適化するDTCO(設計・テクノロジー共同最適化)の手法を選択したことだ。この攻めの姿勢が、後述する圧倒的な転送速度の実現を支えている。
13Gbpsの壁を突破する圧倒的なパフォーマンス
HBM4の性能指標において、Samsungは業界の標準を大きく塗り替えた。
- データ転送速度: 標準状態で11.7Gbpsを実現しており、これはJEDEC(半導体技術協会)の標準規格である8Gbpsを約46%上回る数値である。さらに、特定の条件下(オーバークロック等)では最大13Gbpsまでの引き上げが可能とされている。
- 総帯域幅: 単一のスタックあたりの総帯域幅は最大3.3TB/sに達し、前世代のHBM3E(最大9.6Gbps)と比較して約1.22倍の高速化を果たした。
- 省電力と熱管理: I/Oピン数が従来の1,024ピンから2,048ピンへと倍増したことに伴い、電力消費と熱発生の管理が大きな課題となっていた。Samsungは、低電圧TSV(シリコン貫通電極)技術とPDN(電力分配ネットワーク)の最適化により、HBM3E比で電力効率を40%改善した。また、熱抵抗を10%低減し、放熱性を30%向上させることにも成功している。
現在出荷されているのは12層積層(12-layer)の24GBおよび36GBモデルだが、Samsungはすでに16層積層による48GBの大容量モデルの開発も進めており、顧客の要求に合わせて順次供給する予定だ。
NVIDIA「Vera Rubin」との戦略的提携
SamsungがこのタイミングでHBM4の量産に踏み切った最大の理由は、NVIDIAの次世代AIアクセラレータ「Vera Rubin」アーキテクチャの存在にある。
Vera Rubinは、2026年後半のリリースが予定されており、1つのGPUあたり最大288GBものHBM4メモリを搭載し、22.2TB/sという途方もないメモリ帯域幅を実現する設計となっている。NVIDIAはこの驚異的なスペックを実現するため、メモリメーカー各社に対して11Gbps以上のピン速度を厳格に要求していた。
業界の観測によれば、Micronがこの高いスペック要求への適合に苦戦し、初期供給から除外されるとの噂が流れたりもした(Micronはこれを否定)が、Samsungはいち早く13Gbpsのポテンシャルを示すことで、NVIDIAの主要サプライヤーとしての地位を確固たるものにした。
HBM主要3社の2026年ステータス比較
| 項目 | Samsung | SK hynix | Micron |
| HBM4量産開始 | 2026年2月(開始済) | 2026年2月(開始済) | 2026年2月(開始済) |
| コアダイ技術 | 1c DRAM (10nm級第6世代) | 1b DRAM (10nm級第5世代) | 1β DRAM (10nm級第5世代) |
| ロジックダイ | 4nm (自社ファウンドリ) | 12nm (TSMC製造) | 開発中 (TSMC協力) |
| 最大速度 | 11.7 – 13Gbps | 11.7Gbps(目標) | 11Gbps以上 |
| 主要ターゲット | NVIDIA Vera Rubin | NVIDIA Vera Rubin | Hyperscalers, NVIDIA |
2027年を見据えたカスタムHBMへの布石
Samsungの戦略は、単なる汎用品の供給に留まらない。同社は、2026年後半に改良型の「HBM4E」のサンプリングを開始し、2027年には顧客ごとの要求仕様に合わせた「カスタムHBM」のサンプル出荷を開始することを明らかにしている。
AIモデルの巨大化と複雑化に伴い、GoogleやAWS、Metaといったハイパースケーラー各社は、独自のAI ASIC(特定用途向け集積回路)の開発を加速させている。これらの企業は、自社のアーキテクチャに最適化されたメモリ構造を求めており、ロジックベースダイの設計から協力する「カスタムHBM」の需要は2027年以降、爆発的に増加すると予測されている。
Samsungのメモリ事業開発担当、ファン・サンジュン副社長は、「従来の検証済みプロセスに頼る前例を打破し、1c DRAMや4nmロジックといった最先端技術を取り入れることで、顧客の急増するパフォーマンス需要にタイムリーに応えることができた」と、その戦略的決断の正当性を述べている。
メモリが「コモディティ」から「戦略物資」へ変わる日
今回のHBM4量産開始により、2026年のSamsungのHBM関連売上高は前年比で3倍以上に成長する見通しだ。これは単なる一企業の収益増ではなく、半導体業界全体のパワーバランスが、演算を担うGPU(プロセッサ)から、データを供給するHBM(メモリ)へとシフトしつつあることを象徴している。
HBM4の供給価格は、その高度な製造難易度と需要過多を背景に、従来のサーバー用DRAMと比較して大幅なプレミアム価格で取引されており、2026年第1四半期の価格は前四半期比で60〜70%上昇するとの予測もある。メモリはもはやPCやスマートフォンのための汎用部品ではなく、国家や巨大テック企業が奪い合う「戦略的アセット」へと変貌を遂げたのである。
Samsungが今回示した1c DRAMと4nmの統合という「強行突破」の成果が、実際のデバイス上で期待通りの歩留まりと信頼性を維持できるか。それが、AI半導体市場におけるSamsungの完全復活を左右する真の試金石となるだろう。
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