筑波大学の研究チームが、Steamで販売されるPCゲームの地域別価格を分析し、パブリッシャーの設定を4つのパターンに分類した。Valveが市場ごとの推奨価格を示しても、各社が一様に採用するわけではない。2023年の8市場、268社、7,375タイトルを比べると、推奨価格にほぼ沿う企業から、国や作品による差が大きい企業まで分かれた。

ただし、これは価格設定の実態を一時点で捉えた観察研究だ。企業の系列関係が価格差を生んだと証明した研究でも、どの価格戦略が売上を伸ばすかを試した研究でもない。4類型が何を説明し、何を説明しないのかを分けて読む必要がある。

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7375タイトルをどう比べたか

村上智洋氏と吉田光男氏は、Steamで2023年8~9月に収集した価格データを使った。対象は8市場で、南北アメリカでは米国とブラジル、欧州ではフランスと英国を選んだ。アジアでは中国とインドを対象にし、日本と韓国も含めた。一時的なセールの影響を避けるため、割引前の通常価格に絞った。さらに、パブリッシャーごとの傾向を安定して捉えるため、10タイトル以上を扱う企業だけを残した。その結果、分析対象は268社、7,375タイトルとなった。

10タイトル未満のパブリッシャーを外したことで、少数作品だけを販売する事業者の価格行動は分析に入っていない。7,375という数字はゲームタイトルの数であり、購入者や取引の件数ではない。研究結果をSteam上の全販売者や消費者行動へ広げる際には、この選定条件が境界になる。

比較の基準は、2023年当時にValveが示していた地域別の推奨価格だ。研究チームは米国以外の市場について、実際の販売価格を推奨価格で割った「価格比率」を計算した。100%なら両者が一致し、130%なら推奨価格を100としたとき実売価格が130だったことを意味する。商品の値上げ前後を追った増加率ではない。

次に、各社について市場ごとの平均、中央値、最大値と最小値などを特徴量にし、階層クラスタリングを適用した。これは似た特徴を持つ対象から順にまとめる統計手法であり、実験条件を変えて反応を測る方法ではない。理論モデルによるシミュレーション結果でもない。公開された価格の分布から、似た設定をする企業群を探索した分析である。

分析単位は価格設定の特徴を集約したパブリッシャーだ。消費者を被験者として割り付けた実験ではなく、購買意思や支払意思額を質問した調査でもない。価格の置き方は観察できても、その価格を見た消費者が買ったかどうかは、この設計から分からない。

4類型をどう読むべきか

階層クラスタリングで最も多かったのは「調整型」の116社だった。各市場で推奨価格から小幅に動かしつつ、市場間のばらつきは比較的小さい。続いて、ブラジルやインドで推奨価格を上回る傾向を持つ「新興市場プレミアム型」が69社、推奨価格に近い「ベンチマーク追随型」が54社となった。国やタイトルによる差が大きい「高分散ポートフォリオ型」は29社だ。4群を足すと分析対象の268社になる。

類型 社数 公開資料が示す特徴
ベンチマーク追随型 54社 各市場で推奨価格に近く、ばらつきも小さい
調整型 116社 推奨価格から小幅に調整し、市場間のばらつきは比較的小さい
新興市場プレミアム型 69社 特にブラジルとインドで推奨価格を上回る傾向
高分散ポートフォリオ型 29社 市場間やタイトル間のばらつきが大きい

この表は、企業が共通の基準をどう使ったかを比べる類型である。研究は各群の販売本数、売上高、収益を分析していないため、4タイプのどれが優れているかは判断できない。クラスタリングで得た4群が、別の時期やプラットフォームでも同じ形で現れるとも限らない。

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ブラジル128%、インド130%が表すもの

市場別の平均価格比率では、中国が約111%、ブラジルが約128%、インドが約130%だった。ブラジルなら、推奨価格を100としたとき実売価格の平均が約128だったという比較である。インドも同じ尺度で約130となる。この差を値上がり率として読むことはできない。時間をまたいだ価格変化を測っていないからだ。

フランスと英国では、平均価格が推奨価格に比較的近く、タイトル間の価格比率のばらつきも小さい傾向がみられた。日本と韓国も同じ傾向だった。一方、公開プレス資料には4市場それぞれの平均比率、絶対価格、信頼区間は載っていない。群間差に使った統計検定名や効果量も、公開資料からは確認できない。詳細値を補わずに読めるのは、成熟市場4カ国では推奨価格に近く、中国ではばらつきがやや大きかったという違いだ。ブラジルとインドは価格比率もばらつきも大きかった。

地域差の理由も直接は測っていない。購買力や為替に加え、規制・越境購入リスクは国際価格を考える背景になるが、ブラジルやインドの比率を生んだ要因を識別したわけではない。価格を決めた担当者への調査や、条件を操作した実験がなければ、観察された差から企業の意図までは確定できない。

系列企業19社と高分散型の偏り

研究チームは、世界的に規模の大きいゲーム企業との系列・関連を確認できた19社が、4群のどこに入るかも調べた。高分散ポートフォリオ型には11社が含まれ、同群29社の37.9%を占めた。分析対象全体では系列・関連企業が19社で、268社の7.1%だった。

他の群では、ベンチマーク追随型が1社で54社中1.9%、調整型が4社で116社中3.4%、新興市場プレミアム型が3社で69社中4.3%だった。実数を伴う差は、高分散型で系列・関連企業が多く観察されたことを支える。

それでも、系列関係が価格のばらつきを生じさせたという因果関係は導けない。研究チームは企業内部の価格決定体制や価格設定能力を直接測っておらず、企業規模以外の要因も統制した介入研究ではない。大企業ほど高度な価格戦略を持つ、という評価にもつながらない。確認できたのは所属の偏りである。

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2023年データと2026年の価格表

Valveは2026年3月27日、Steamの価格換算データを世界の市場環境に合わせて更新した。同時に、米ドル価格から37通貨と4地域グループへ換算する3方式を用意した。為替だけで換算する方式、購買力だけを使う方式、購買力や同等の娯楽商品の価格、為替を組み合わせる方式である。

価格を最終的に決めるのは現在もパブリッシャーだ。Valveの公式文書は、どの換算方法を使うか、独自の価格を入れるかを開発者が選べると説明している。研究が捉えた「共通基準と企業裁量の併存」は現在の仕組みにも通じるが、約128%や約130%という値は改定前の推奨価格を分母にした結果である。現在の推奨価格との比較値として流用できない。

論文は村上氏と吉田氏の共著で、SAGE Publicationsの『Journal of International Marketing』に2026年8月21日付でオンライン先行公開された。著者の公式業績一覧は査読済み学術論文として掲載している。ただし公開直後の単一研究であり、別時点や他の配信基盤で4類型が再現されるかは未確認だ。

検証を進めるなら、2026年3月の換算方式改定後に同じ分析を繰り返し、企業が3つの換算方法をどう選んだかを追う必要がある。販売本数や売上高も結び付けられれば、4類型の存在から一歩進み、各設定が事業成果とどう関連するかを初めて評価できる。