Financial Times(FT)は2026年8月25日、中国のNAND大手Yangtze Memory Technologies(YMTC)がIPO準備会合で、早ければ2027年末までに世界最大のNANDメーカーになる目標を投資家らへ示したと報じた。事情に詳しい2人に基づく独自報道であり、会社の公式発表ではない。

8月21日に受理された親会社・長江存储控股のIPO申請書は、2026年1〜3月の販売金額・出荷量3位と330億元の調達計画を開示した。しかし、2027年という期限も、SamsungSK hynixを抜くという目標も記していない。「最大」をビット出荷量、売上高、ウェハ投入能力のどれで測るかも不明だ。公開資料から確認できるのは、首位へ向かうための資金と生産基盤、そして増産が利益を押し下げかねない条件である。

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公開IPO資料に2027年という期限はない

上海証券取引所が受理したのは、長江存储控股による科創板への上場申請である。申請書は、2026年1〜3月に世界のNANDメーカーの中で販売金額と出荷量がともに3位、中国では1位だったとする。データはTrendForceを基に会社が計算したものだ。

一方、将来方針の記述は「市場シェアを継続的に高める」「世界のストレージ産業を率いる企業を目指す」という水準にとどまる。2027年末の首位は、FTが非公開の会合について伝えた目標である。会社が公表資料で約束した数値目標へ置き換えることはできない。

上場手続きも完了していない。申請書には、上海証券取引所と中国証券監督管理委員会の手続きが残り、申請稿には発行価格と発行日が入っていないと明記されている。330億元は調達済みの現金ではなく、株式発行が実現した場合の計画額だ。

出荷14%と首位25%の間に11ポイントある

同じ四半期、同じ指標で比べると距離が見える。Counterpoint Researchによる2026年第2四半期のNANDビット出荷シェアは、Samsungが25%、SK hynixが22%、YMTCが14%だった。YMTCは出荷量で世界3位に入った。

公開データ 期間・指標 YMTCの位置
IPO申請書(TrendForceを基に計算) 2026年1〜3月の販売金額・出荷量 ともに世界3位
Counterpoint Research 2026年第2四半期のビット出荷 14%で世界3位
Counterpoint Research 2026年第2四半期の売上高 世界5位

Samsungの25%が動かないと仮定すれば、差は11ポイントである。14%から25%への上昇幅は相対値で約79%になる。ただし、市場全体のビット量も競合のシェアも動く。この計算は現在地の距離を表すもので、YMTCに必要な生産量の予測ではない。

出荷量と売上高の順位が分かれた理由は、製品構成にある。Counterpointは、YMTCの販売が消費者向けに偏り、高単価のデータセンター向け企業SSDの比率が低いと説明した。同じ四半期には企業向けSSDが世界のNANDビット出荷量の48%を占め、前年同期の26%から増えている。出荷首位を狙うならビット量が要る。売上高でも首位へ上がるには、顧客による長期の認証を通過し、企業向けSSDの比率を高める必要がある。

製品側の準備は進んでいる。IPO申請書には、Xtacking 4.0を使う第5世代のTLC・QLC NANDと、PCIe 5.0対応の企業向けSSDが並ぶ。高層化とQLC化は1枚のウェハから得られるビットを増やし、企業向けSSDは同じビット量でも売上高を押し上げやすい。首位への経路は、工場の枚数を増やす方法と、1枚の価値を上げる方法の両方に分かれる。

第1四半期に販売金額3位としたIPO資料と、第2四半期に売上高5位としたCounterpointの発表は、調査会社と期間が異なる。どちらかを誤りとみなす材料はない。むしろ「世界最大」という言葉が、測定期間と指標を伴わなければ順位を固定できないことを示している。

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330億元でも過去の長期資産支出の約3分の1

調達予定の330億元は、208億元を量産ラインの技術更新に、122億元を研究開発に振り向ける。比率にすると約63%と約37%だ。ただし、申請書からは、この投資で増えるビット数を読み取れない。首位目標との距離を測るには、設備の追加、高層化、歩留まりの進捗を別々に追う必要がある。

それでも330億元は、会社がすでに投じた資金より小さい。2023年から2026年1〜3月までに、長期資産の取得へ支払った現金は累計963.90億元、研究開発支出は159.53億元に達した。減価償却・償却費も509.49億元を計上している。期間と用途は一致しないが、IPOの調達予定総額は過去の長期資産取得額の約34%に当たる。NANDで規模を追うには、一度の上場で終わらない投資が必要になる。

研究開発費率は2025年の8.84%から、2026年1〜3月には3.75%へ下がった。ただし、この比率は研究開発費を売上高で割った値である。価格上昇で売上高が急増した四半期の比率低下を、技術投資の縮小と同じ意味にはできない。絶対額と開発中の製品、量産への移行を合わせて見る必要がある。

工場の立ち上がりにも時間差がある。Reutersは4月、既存2工場の合計能力が月20万枚で、第3工場は2026年末に稼働を始め、2027年に月5万枚へ達する計画だと関係者に基づき報じた。さらに2工場を計画しているが、立地と稼働時期は公表されていない。

ウェハ枚数は、NANDのビット出力そのものではない。積層数とTLC・QLCの構成に加え、ダイ面積や歩留まりで1枚当たりの容量が変わる。設備が入った時点と量産が安定した時点も別である。月間ウェハ能力を足しただけでは、2027年の出荷シェアを計算できない。

粗利率76.77%を平常値として延ばせない

YMTCの利益は、供給不足が続く現在の市況から大きな恩恵を受けている。2026年1〜3月の売上高は470.42億元、親会社株主に帰属する純利益は333.79億元だった。四半期の純利益だけで、2025年通年の142.11億元の約2.35倍に達する。

総粗利率は2023年の5.45%から、2025年に35.30%、2026年1〜3月には76.77%へ上がった。会社によると、2026年1〜3月のNAND平均単価は容量基準で2025年通年平均より172.72%高い。前年同期比でも前四半期比でもないが、価格上昇が利益を押し上げた大きさは分かる。設備稼働率も98.02%に達していた。

ただし、固定費が大きい事業では逆回転も速い。IPO申請書は、各社の能力増強や生産配分の変更で供給が増えれば、単価が下がり、巨額の減価償却費が粗利率と純利益の変動を広げると警告する。首位を目指す増産が市場価格を下げ、自社の採算を悪化させる可能性を会社自身が認めている。

TrendForceも、2026年はNANDが4〜5%の供給不足になる一方、2027年下半期には高層化と新設備の稼働で供給制約が緩むと予測する。中国系メーカー全体のビット生産比率は約19%へ上がる見通しだが、これはYMTC単独のシェア予測ではない。FTが報じた首位目標を裏付ける数字としては使えない。

2027年末の目標が現実へ近づいたかは、第3工場の月産値だけでは判定できない。企業向けSSDが売上構成で増えたか、同じ四半期のビット出荷と売上高でSamsungとの差が縮んだか、そしてYMTCが首位の測定指標を正式に示すか。この3点がそろって初めて、世界3位から首位への移行を追跡できる。