DigiTimesは2026年7月17日、中国のDRAM大手CXMT(長鑫科技)の受注が2027年末まで埋まり、大手PCメーカーに供給枠が優先配分されると報じた。DellやHP、Appleなどが有力な割り当て先に挙がる一方、規模の小さなメーカーは十分な数量を確保できない恐れがあるという。各社とCXMTは個別の契約や数量を公表していない。それでもCXMTの上場資料には、2025年の工場稼働率が95.73%まで上がった事実が記されている。中国製DRAMを採用すれば調達難を逃れられるとの期待はあるが、CXMTの既存設備にも余裕は少ない。
「2027年末まで受注済み」とDigiTimes報道
DigiTimesによると、主要PCメーカーはCXMT製品の検証を終えたが、検証を通過しても必要量が割り当てられるとは限らない。大口顧客が長期契約と大きな発注量を提示できるためだ。報道で名前が挙がったDell、HP、Appleなどへの優先配分は見込みであり、搭載機種や出荷量はまだ公表されていない。
PCメーカー自身の説明からも、メモリ調達が短期の価格交渉から複数年の供給確保へ移ったことが分かる。HPは2月の決算説明会で、メモリとストレージのコストが前四半期から約100%増え、2026年度にはPCの部材費の約35%を占めると見積もった。前四半期の15〜18%から急上昇した計算だ。同社は長期供給契約で必要量を押さえ、メモリ容量を減らした構成も用意すると説明している。
Dellも5月の決算説明会で、大口顧客との供給協議が3年、4年、5年単位になったと明かした。部材価格を「ほぼ毎日」改定する環境にあり、先々の不足を見越して複数年分を早めに確保する顧客もいるという。CXMTを巡る個別契約の裏付けではないが、発注規模と契約期間が供給枠を左右する市場へ変わったことは、両社の説明で一致する。小規模メーカーは価格交渉力より先に、購入できる数量で不利になる。
稼働率95.73%、CXMTにも空きは少ない
CXMTが上海証券取引所に提出した目論見書によると、同社は合肥市と北京市に3棟の12インチDRAM工場を持つ。工場の稼働率は2023年の87.06%から2024年に92.46%、2025年には95.73%へ上がった。既存設備の停止時間を詰めるだけで大口の新規需要を吸収するのは難しい水準である。
規模は世界市場でも無視できなくなった。Omdiaのデータを引用した目論見書では、CXMTのDRAM売上高シェアは2025年第4四半期に7.67%へ達し、世界4位になった。一方、Samsung Electronics、SK hynix、Micronの大手3社は2025年通年で合計90%超を握る。CXMTは供給先を増やせる規模へ成長したが、世界のPC需要を一社で受け止められるほど大きくはない。
CXMTは最大8,000MbpsのDDR5を量産し、16Gb、24Gb、32Gbのメモリダイを用意する。LPDDR5/5Xは最大10,667Mbpsに達する。目論見書が示す開発手順では、社内の技術検証とJEDEC準拠試験を終えた後に顧客検証へ進み、認証と歩留まりを詰めてから量産を決める。PCメーカーによる検証完了は採用の入口であり、供給量は生産計画と歩留まりに左右される。
PC向けDDR5と二つの大口需要
CXMTの2025年の主力はモバイル向けだった。主力事業売上高612億7,537万2,100元のうち、LPDDR系が66.43%、PCやサーバーに使うDDR系が31.87%を占めた。同社は2024年末から自社製DDR4の生産を止め、DDR5へ製品を切り替えている。PCメーカーが欲しいのは、この移行途上にあるDDR5の供給枠だ。
そこへ中国のクラウド事業者が加わる。Reutersは6月29日、CXMTがTencentと200億元超のサーバーDRAM供給契約を結んだと報じた。契約は複数年に及び、HBMが含まれるかは判明していない。CXMTの目論見書もAlibaba CloudやTencent、Lenovoなどを主要な協力先として挙げている。増産分をPC向けに回す前提は置けない。
大口顧客が長期契約を結ぶ流れは世界市場にも広がった。Micronは6月24日、データセンターから消費者向け機器、自動車まで16件の戦略顧客契約を締結したと発表した。代表的な契約期間は2026年から2030年までの5年間で、この16件が同期間のDRAM数量の約20%を占める。購入義務を伴う契約で先に需要を固めるため、契約外の顧客がその都度買える数量は細る。CXMTで起きたとされる優先配分は、メモリ業界全体が長期契約へ動いた結果でもある。
295億元を投じても、完成は2028年

CXMTは新規株式公開で調達する資金のうち295億元を三つの事業へ充てる計画だ。75億元を既存のウェハー量産ライン改修、130億元をDRAM技術の更新、90億元を将来技術の研究開発へ振り向ける。資金が入れば供給がすぐ増える、という日程ではない。
二つの生産ライン関連事業では、2026年から2027年末にかけて装置を順次搬入し、調整と稼働を進める。完成と検収は2028年上半期の予定だ。既存工場を使う改修でも、新しい装置の設置、工程の作り込み、製品認証には年単位の時間がかかる。Reutersは既存3工場の合計能力を月約30万枚、将来計画を月約60万枚と報じたが、2026年第1四半期にはDDR5の歩留まりが低かったとも伝えている。ウェハー投入枚数が増えても、良品として出荷できるビット数は同じ比率では増えない。
MicronもDRAMとNANDの需給逼迫が2027年を越えて続くと見込み、供給が需要へ追いつく時期はまだ見通せないとしている。同社が世界全体の供給改善を見込むのは2028年からだ。CXMTの工場改修が完了する時期と重なる。2027年末まで受注が埋まったという報道は、増産が本格化する前の数量を大口顧客が先に押さえたと考えれば、時間軸として整合する。
1260H指定とEntity Listの間
採用判断には米国の制度も関わる。米国防総省が6月10日に公表した中国軍事企業のSection 1260Hリストには、CXMTが掲載された。
一方、7月15日時点の米商務省Entity ListにはCXMTの社名が掲載されていない。1260Hは国防総省の指定であり、米国技術の輸出許可を管理する商務省のEntity Listとは制度が異なる。1260H指定自体は、民間企業による購入を一律に禁じるものではない。ただし、将来のEntity List追加や各国の調達規則が変われば、同じメモリを世界共通仕様として使いにくくなる。
CXMTがPC向けDRAMの不足を和らげられるかは、2027年中の装置稼働とDDR5の歩留まり改善で決まる。DellやHPなどがCXMT搭載製品を正式発表し、その対象地域と容量構成を示した時点で、検証済みという段階から実際の供給へ進んだと判断できる。



