中国のDRAMメーカー、ChangXin Memory Technologies(CXMT)は2026年8月28日、米国防総省による「中国軍事企業」指定の取消しを求めて、米コロンビア特別区連邦地裁へ提訴した。事件番号は1:26-cv-03025である。CXMTは自社製品が民生・商用のJEDEC規格に従い、中国軍との関係もないと主張する。しかし、国防総省が2026年6月に公表した理由はDRAMの仕様ではなく、中国の工業情報化部(MIIT)と国有資産監督管理委員会(SASAC)との関係だった。裁判所が審査する中心は、チップが軍用かという製品論から、企業と政府機関の結び付きを何で証明したかという行政法上の問いへ移る。
一度消えた指定は、6月に別の理由で戻った
CXMTは2025年1月、国防総省のSection 1260Hリストに初めて載った。CXMTはReutersに対し、1年以上にわたり国防総省へ情報を提供したと説明している。同社は指定後に商業・評判上の損害を受けたと主張し、国防総省は係争中の事件へのコメントを控えた。
WuXi AppTec事件の判決によると、2026年2月13日には新しいリストがFederal Registerの公開前点検ページに短時間掲載され、国防総省の要請で撤回された。CXMTは訴状で、自社を除外する通知が公表後に同日撤回されたと主張しているが、撤回前の本文は公開docketから直接確認できない。
転機は6月8日の更新リストである。国防総省はCXMTを再掲し、同社がMIITに直接「affiliated」し、SASACおよびMIITに間接的に「affiliated」していると記した。ここには軍用DRAMの仕様も、人民解放軍への直接供給も書かれていない。2025年の指定根拠と2026年の公表理由を一つにまとめると、CXMTがどの行政判断を崩そうとしているのかを見誤る。
提訴docketは提出日、被告、行政手続法(APA)に基づく審査請求を確認できる。一方、公開ページが表示するのはFiling 1と別紙の書誌情報までで、訴状本文は読めない。このため、訴状固有の説明は企業側の未判断主張として扱う必要がある。
JEDEC準拠とaffiliationは別の問いである
Tom's Hardwareは訴状を基に、CXMTが2024年の国防総省報告へ二つの反論を加えたと伝えている。一つは、同社のDRAMが商用JEDEC規格に適合し、中国軍用品に求められる温度、包装、試験の要件を満たさないという主張だ。CXMTは軍用品の製造許可も持たないとしている。もう一つは、無関係な販売業者が製品を「military grade」と広告した件で、業者は後に誤りを認めたという説明である。
公開されているCXMTの製品カタログも商用用途を前面に出す。DDR5はサーバーからノートPCまで、LPDDR5Xはタブレット、スマートフォン、ウェアラブル向けだ。少なくとも、公開カタログ上の製品が一般市場向けであることは確認できる。
ただし、現行法の指定基準は製品分類と一致しない。2024年12月の法改正後、Section 1260Hは列挙された中国政府・軍関連機関に所有または支配される企業に加え、それらと「close formal or informal association」、すなわち近い公式・非公式の関係を持つ企業も対象にする。同時に、商業サービスを提供するか、製品を製造・輸出し、米国内で活動することも要件に含む。商用品を売る行為は、むしろ法の入口になり得る。
したがって、JEDEC準拠は「このDRAMは軍用品だ」という推論への反証にはなる。だが、MIIT・SASACとの関係が存在しないことを直接証明しない。国防総省は、直接と間接のaffiliationを支える資料を行政記録から示し、その資料と結論を筋道立てて結ぶ必要がある。CXMT側には、1年以上にわたり提出したという情報を国防総省がどう扱ったかを示す仕事が残る。
勝訴しても消えない別の規制
1260H指定は国防総省との直接契約やDHS・DOEの一部取引へ現在の効果を持つ。Commerce Entity Listは輸出許可を管理する別制度で、2026年8月31日に取得したBISの現行CSVではCXMTの完全一致を確認できない。Section 5949はCXMT製半導体を名指しし、2027年12月23日からの連邦調達制限を規則案で具体化している。CXMTが今回の訴訟で1260H指定を覆しても、Section 5949の名指しは自動的に消えない。
| 制度 | 主な働き | 8月31日時点のCXMT | 今回の訴訟が直接変え得るか |
|---|---|---|---|
| Section 1260Hと連動法 | 国防総省の指定と政府契約・支援の制限 | 6月のリストに掲載中 | 変え得る |
| Commerce Entity List | 輸出・再輸出・国内移転の許可要件 | BISの現行CSVで完全一致なし | 対象外 |
| Section 5949 | 対象半導体を含む連邦調達の将来制限 | 法令とFAR規則案がCXMTを名指し | 自動では変わらない |
3制度を分けると、「ブラックリスト」という一語では見えない差が表に出る。1260H指定には、2026年6月30日から国防総省が指定企業と契約を締結、更新、延長できないという直接効果がある。国土安全保障省(DHS)とエネルギー省(DOE)にも関連する制限があるが、一般企業によるCXMT製DRAMの購入を一律に禁じる制度ではない。
Commerce Entity Listは輸出管理の仕組みであり、BISのCSV確認は2026年8月31日の時点に限られる。別名義や将来の追加、他の輸出規制がないことまでは意味しない。Section 5949も2026年2月の文書は規則案で、最終規則の例外や調査義務は変わり得る。それでも、2027年12月23日に予定される連邦調達制限が別の法的経路で進んでいる事実は、1260H訴訟の射程を測るうえで外せない。
直近の3判決が示す勝ち筋と限界
2026年8月7日にWuXi AppTecが仮差止めを得た後、8月14日にDJI、8月18日にHesaiの控訴審判断が続き、CXMTは8月28日に提訴した。3判断はいずれも国防総省の判断を無条件に追認しなかったが、救済は同じではない。WuXiは指定の執行を暫定的に止め、DJIは再審理中もリストに残り、Hesaiは手続違反を認められても指定の即時取消しを得ていない。
WuXi AppTec事件でD.D.C.が問題にしたのは、証拠と説明の結び付きだった。国防総省は、ある投資ファンドが純資産価値の5.32%をWuXiへ投資したという資料を、ファンドがWuXi株式の5.32%を所有するという意味に読み違えていた。裁判所は、国家安全保障に関わる判断でも、行政機関が記録に基づいて合理的に説明したかを審査できるとして仮差止めを認めた。
DJI事件では、D.C. Circuitが国防総省の一部根拠を維持した。その一方、defense industrial baseへの貢献という理由が公開文書で全面的に墨消しされていたため、地裁が独自の理屈で補った判断を退け、機密記録の審査へ差し戻した。行政機関が示していない理由を裁判所が作り足せないという原則が働いた。
Hesai事件では、指定確定前に非機密資料を知らせ、意味のある反論機会を与えることが適正手続として必要だと判断された。CXMTが1年以上にわたり情報を提出したとの主張が事実なら、資料を送ったかという形式より、国防総省が指定根拠を事前に示し、応答を実質的に検討したかが争点になる。ただし、Hesaiは手続違反を認められても即時の指定取消しを得なかった。
CXMTに必要なのは、自社DRAMの用途説明を重ねることより、MIIT・SASACとの「近い公式・非公式の関係」を示す証拠の欠陥を具体化することだ。国防総省が行政記録または機密資料を提出し、CXMTが仮差止めを求めれば、裁判所が証拠、理由説明、反論機会のどこを問題にするかが見える。そこで1260H指定を崩せても、2027年のSection 5949調達規制は別に動く。二つの経路を分けて追うことが、CXMTの米国市場リスクを測る条件になる。



