見積もりを取り直すたびにメモリの価格が変わる状況が、PCを組む人にもサーバーを調達する人にも続いている。韓国貿易統計振興院(TRASS)の集計では、2026年8月1〜20日の韓国のDRAM(動的ランダムアクセスメモリ)輸出単価は1kgあたり9万2183ドル、前年同期比401.0%増に達している。同じ重さの24金と並べると620g分に相当する数字だが、金そのものもこの3年半で2.4倍になった。上がり続ける金よりコモディティメモリの方が速く上がった理由は投機ではない。SamsungとSK hynixが生産能力をどこへ割り当てたか、という判断が主因である。

AD

1kgあたり9万2183ドルという輸出単価の中身

TRASSの集計によれば、モジュールを除いた韓国のDRAM輸出単価は2026年8月1〜20日で1kgあたり9万2183ドル、ウォン建てでは約1億2740万ウォンだった。前年同期比401.0%増である。同じ20日間の輸出額は約98億ドルで、こちらの伸びは504.8%に達した。単価の伸び(401.0%)より輸出額の伸び(504.8%)が大きいということは、値上がりに加えて出荷量の増加も起きたことを示唆する。

モジュールを除く、という条件は数字の読み方を左右する。基板に実装したメモリモジュール(DIMM等)を含まず、パッケージ化されたチップ単体の輸出を集計した数字であり、基板や実装コストは入らない。ただし統計上の区分はDRAMとモジュールを分けるだけで、個々の輸出品がどこまでパッケージ済みかまでは保証しない。裸のシリコンダイの重量と同一視はできない。

TrendForceがこの単価を「24金620g相当」と表現したのは、620gの韓国内金価格が約1億2660万ウォンだったからである。TRASSが集計したDRAM輸出単価はウォン建てで約1億2740万ウォン、両者の差はわずか0.6%にとどまる。

統計期間が8月1〜20日の平均であるのに対し、TrendForceが参照した金価格の時点は記事に明記されていない。それでもウォン建ての差が1%未満に収まっている以上、1kgのDRAMは金620gにほぼ匹敵する、という近似としては成立している。等価だと言い切れるほど厳密な比較ではない。

ただし、DRAMを重量で測ること自体が本来は乱暴な扱いである。同じ1kgでもDDR5とDDR4では価格が違い、容量と速度によっても違う。それでも輸出統計は単価と数量を同じ基準で毎月追える公開データであり、調査会社の予測とは独立に相場の方向を確かめる材料になる。

金は2.4倍、DRAMは12.5倍。3年7カ月で開いた差

起点を2023年1月に置くと、差の大きさがはっきりする。生成AIブームが立ち上がったこの時期、韓国のDRAM輸出単価は安値圏にあった。そこから2026年8月までの3年7カ月で単価は12.5倍になっている。同じ期間の金は2.4倍だ。上昇倍率の差は、およそ5.2倍になる。

金も上がっている、という前提は押さえておきたい。3年7カ月で2.4倍という上昇は貴金属としては大きく、資産として見れば十分な成績である。それでも12.5倍と並べれば緩やかに見えてしまう。値上がりを続ける金より、さらに速い速度でメモリが上がった。それが実際に起きたことだ。

この比較が効くのは、金が世界共通の価値尺度として使われるためだ。産業用の需要と投資用の需要が混ざり、供給側も鉱山の開発期間に縛られる。そういう性格の資産と、需要さえあれば工場が増産できるはずの工業製品が、同じ土俵で並んでしまった。工業製品の側で増産が効かなかったという事実が、この一枚の比較に凝縮されている。

ただし12.5倍はTrendForceが伝えた値であり、起点の「2023年1月」がどの週の価格を指すかまでは示されていない。倍率の小数点以下を議論する意味は薄い。DRAMの上昇倍率が金のおよそ5倍に達するという事実の側だけを見るのが安全である。

AD

なぜHBMを増やすと汎用DRAMが減るのか

SamsungとSK hynixは、2026年向けのHBM3E供給価格を約20%引き上げた。HBM(広帯域メモリ)はDRAMのダイを何段も積み重ね、GPUの隣に置いて広い帯域を確保する製品である。HBM用のダイは汎用DRAMと同じプロセス技術・同じウェハー生産能力の枠を奪い合う関係にある。積み重ねたダイを縦に貫く電極で接続し、GPUと同じ基板の上に載せる。この積層と接合の工程で歩留まりが落ちるため、1つのスタックを完成させるには必要枚数以上のダイを投入することになる。

つまり同じウェハー投入量からでも、HBMへ回した分だけPCやスマートフォン向けに出せる汎用DRAMのビット数は減る。それも投入枚数に比例して減るのではなく、積層工程での損失を含めた分だけ余計に減る。生産ラインの奪い合いは、同じ製造ラインと工程能力をどちらの製品へ振り向けるかという工程上の判断として起きており、市場の区分が決まるより前の段階で決着している。

メーカーがHBMを優先する動機は明快だ。20%の値上げを顧客が受け入れる製品と、価格交渉で叩かれる汎用品では、ウェハー1枚あたりの利益が比べものにならない。SK hynixはHBMからDRAM、NANDまで2026年の生産能力が実質的に完売したと決算説明会で述べたと報じられている。売り先が埋まっている限り、汎用向けへ能力を戻す動機は生まれない。

しわ寄せは契約価格に出ている。TrendForceは2026年第3四半期のサーバー向けDRAM契約価格を前期比13〜18%上昇と見込み、PC向けの予想も当初の8〜13%から15〜20%へ引き上げた。短期間で予想レンジをほぼ倍に修正したのは、需要側の見積もりが実勢に追いついていないためだ。

Appleは中国向けに販売するiPhoneとMac製品を念頭に、中国CXMT(長鑫存儲技術)製DRAMの調達を打診し、あわせて値下げを求めたと報じられている。CXMTはこれを断り、SamsungやSK hynixと同等以上の価格を提示している。HuaweiやXiaomiの国内需要で自社の枠が埋まっているためだ。世界最大級の調達力を持つ企業でも、第三の供給元を使って価格を下げることはできなかった。買い手に逃げ場が少ないことを、この経緯が示している。

NVIDIAの15〜17%からVAIOの価格改定まで

上流から下流まで、値上げは階層ごとに別々の名目で積み上がっている。HBM3Eの約20%値上げは、NVIDIAのAIサーバー価格15〜17%、GartnerがPC17%・スマートフォン13%の押し上げと試算する部材コスト上昇を経て、VAIOの国内出荷価格改定にまで及んでいる。上流の値上げが下流へ届くまでの時間差も大きい。各社の発表を時系列と幅で並べると、連鎖の形が見えてくる。

階層 何が起きたか 時期
メモリメーカー SamsungとSK hynixがHBM3E供給価格を約20%引き上げ 2026年向け
AIサーバー NVIDIAがVera Rubin/Blackwell系の価格を15〜17%引き上げる可能性を大口顧客に通知 2027年初頭出荷分
PCとスマートフォン GartnerがDRAMとSSDの合計価格130%上昇、PC価格17%、スマートフォン価格13%の押し上げと試算 2026年末まで
国内メーカー VAIOがメモリ半導体の需要拡大を理由に出荷価格を改定 2026年4月23日出荷分

上流の20%がそのまま下流の17%になったわけではない。NVIDIAの15〜17%はメモリコストを理由に挙げた引き上げであり、GartnerのPC17%はDRAMとSSDを合わせた部材コストが130%上がるという前提から逆算した試算だ。原因は同じでも、負担する主体と計算の起点が違う。共通するのは、どの階層も上昇分を自社で吸収しきる前提を置いていない点である。

Gartnerは値上げの結果として、2026年の世界のPC出荷が10.4%減、スマートフォン出荷が8.4%減になると予測している。価格転嫁が需要そのものを削り始めるという予測だ。メモリの不足は、部材が届かないという供給制約より先に、売れる台数の縮小として数字に出る。

日本の読者に最も近い例はVAIOだろう。同社は2026年4月23日出荷分から、メモリ半導体の世界的な需要拡大を理由に個人向けと法人向けPCの出荷価格を改定した。国内メーカーは調達契約を更新するたびに、上昇分を製品価格へ乗せるか、搭載容量を削って価格を据え置くかの選択に直面する。同じ価格帯のノートPCで搭載メモリが減る製品が出てきたら、それは値上げの別の形である。ただし、VAIO一社の価格改定が国内PC市場全体を代表するわけではない。

Samsung、SK hynix、Micronの3社は、DRAM価格の高騰をめぐって米国で価格カルテルを疑う集団訴訟を起こされた。生産能力の再配分という説明と、価格維持のための協調という説明が同時に俎上に載っている格好だ。原告の主張が認められるかは裁判の結論を待つしかなく、審理が決着するまでには年単位の時間がかかる見通しだ。

AD

上昇が止まるとしたら、どの数字が先に動くか

TrendForceは2026年第4四半期のサーバー向けDRAM契約価格の上昇率を3〜8%と予想している。第3四半期のPC向け15〜20%と比べれば大幅な減速である。ただし上昇率が縮むという予測であって、価格が下がるという予測ではない。相場が高値のまま横ばいへ移る局面が先に来る。

反転が起きるとすれば、動く順序はおおむね決まっている。まずHBMの受注が一巡し、SamsungとSK hynixが汎用DRAMへ生産能力を戻す。次に契約価格の上昇率がゼロに近づき、最後に輸出統計の月次単価が前月比で下がる。前年同期比401%という数字は今年8月という高値圏を基準に来年計算されるため、絶対価格がさらに急騰しない限り、伸び率そのものは今回より縮みやすい。追いかける価値があるのは前年比よりも、月次の単価が頭打ちになる時点だ。

その転換が2027年に入っても見えなければ、Gartnerの出荷減予測は、下方修正されるどころか実績に近づいていく。逆に、HBM向けへ振り分けた能力が汎用へ戻り、契約価格の上昇が止まれば、PCとスマートフォンのメーカーは2027年の製品計画を搭載メモリの削減から始めずに済む。確認すべき数字は2つある。TRASSが毎月発表する輸出単価と、TrendForceが四半期ごとに更新する契約価格の予想レンジである。