月額20ドルのAIサービスを解約し、自分のPCで大規模言語モデル(LLM)を動かせば、費用を節約できるのだろうか。ライフハッカー・ジャパンに掲載された体験談では、Perplexity Proの代わりにローカルLLMを導入したところ、日常業務の大半を置き換えられたという。一方で、電気代やメンテナンスの負担が増え、リアルタイムのWeb検索では依然としてPerplexityに利点があるとも報告している。
すでにGPUを搭載したPCを持っているなら、損得を左右するのは主に3つの条件だ。電気代がどれだけかかるか、使いたいモデルがGPUメモリ(VRAM)に収まるか、日本語の品質が用途に十分かである。新たにPCを購入する場合は、初期費用を何カ月で回収できるかも考える必要がある。実際のモデル仕様と電力料金をもとに、定額契約を続けたほうがよい場合と、ローカルLLMへの移行で節約できる場合の境目を検証する。
オープンウェイトの比較相手は、サブスクだけではない
オープンウェイトとは、学習済みモデルの重みが公開され、利用者がダウンロードして実行できるモデルを指す。ただし、利用条件はモデルによって異なる。GoogleのGemma 4とQwen3.5-27BはApache 2.0ライセンスで公開されている一方、日本語を強化したLlama-3.3-Swallow-70BはLlama 3.3のライセンスに加え、Gemma利用規約の利用制限にも従う必要がある。商用利用を考える場合は、各モデルのライセンスを確認しなければならない。
もっとも、モデルの重みが公開されていても、必ずしも自分のPCで動かす必要はない。クラウド事業者が同じモデルを運用し、使った分だけ料金を支払うAPIとして提供しているからだ。例えば、価格比較サイトpricepertokenによると、2026年10月時点のLlama 3.3 70B Instructの出力料金は、100万トークンあたりDeepInfraが0.32ドル、Togetherが1.04ドルだった。比較対象の事業者の中から、最安のDeepInfraとTogetherを例に選んでいる。
月20ドルをすべて出力トークンの購入に充てると、DeepInfraでは約6,250万トークン、Togetherでは約1,920万トークンを生成できる計算になる。DeepInfraなら1日平均約208万トークンに相当する。トークンとはAIが文章を処理する単位で、実際には入力トークンにも別途料金がかかるため、これだけの出力を月20ドルで利用できるわけではない。それでも、テキスト生成や要約が主な用途なら、高価なPCを購入する前にAPIの従量課金を検討する価値はある。
月20ドルはOpenAIのChatGPT Plusの基本料金であり、体験談の筆者がPerplexity Proに支払っていた金額でもある。ただし、定額サービスと公開モデルのAPIは機能が異なる。定額サービスではWeb検索や画像の理解、最新モデルなどを利用できる一方、APIで使える機能は選んだモデルと提供事業者に依存する。単純に料金だけで比較できるものではない。
| 選択肢 | 毎月の費用 | 必要な初期投資 | データの送信先 |
|---|---|---|---|
| AIの定額契約 | 20ドル前後 | なし | サービス事業者 |
| オープンウェイトモデルのAPI | 従量課金(例:出力100万トークンあたり0.32〜1.04ドル、入力料金は別) | なし | API提供事業者 |
| ローカルLLM | 電気代と保守の負担 | GPUやメモリなど | 完全ローカルで運用すれば外部送信は不要 |
ローカル実行の大きな利点は、入力データを外部に送らずに処理できることだ。その代わり、ハードウェアや電気代、メンテナンスを自分で負担する必要がある。費用だけでなく、プライバシーや運用の手間も含めて比較することが重要になる。
RTX 4090の電気代は1時間あたり約14円が目安
ライフハッカー・ジャパンの筆者は、約1,600ドル(約24万円)のノートPCを購入したと説明している。1ドル150円で換算すると、月額20ドルは3,000円となり、24万円は80カ月分の契約料金に相当する。ただし、PCはAI以外の仕事にも使えるため、購入費の全額をAIの費用と考えるのは適切ではない。実際の投資回収期間は、AI用途に割り当てる購入費を、定額料金とローカル運用費の月額差で割って求める必要がある。
初期費用に加えて見落とせないのが電気代だ。体験談でも電気代の上昇を隠れたコストとして挙げているが、具体的な金額は示していない。そこで、全国家庭電気製品公正取引協議会が2022年7月22日に改定した目安単価31円/kWh(税込)を使って試算する。
NVIDIAの公式仕様によると、GeForce RTX 4090のTotal Graphics Power(TGP)は450Wである。GPUがこの電力で1時間動作すると、電気代は次のようになる。
\[ 0.45\text{ kW}\times31\text{円/kWh}=13.95\text{円} \]
つまり、RTX 4090を定格450Wで動かし続けた場合、GPU単体の電気代は1時間あたり約14円となる。月30時間なら約420円、月100時間なら約1,400円だ。月100時間は1日平均約3.3時間に相当し、月額3,000円のAI契約と比べると、電気代だけで半分近くを占める。
さらに、70B級のモデルを動かすためにRTX 4090を2枚使用する場合、両方が450Wで動作すると合計900Wになる。この条件では1時間あたり約28円、月100時間で2,790円となり、月額3,000円の93%に達する。GPUを2枚使う構成では、電気代だけで定額契約の費用に近づいてしまう可能性がある。
ただし、これはGPUが定格450Wで稼働し続けると仮定した試算であり、実際の推論時の消費電力を示すものではない。モデルや処理内容によって消費電力は変わり、CPU、メインメモリ、冷却装置などの電力も含まれていない。そのため、GPU単体の上限側の目安にはなるが、PC全体の電気代とは異なる。正確な費用を知るには、電力計でPC全体の消費電力を測り、実際の稼働時間を掛けて計算する必要がある。
どのモデルが手元のGPUメモリに収まるのか
電気代と並んで重要なのが、モデルの実行に必要なGPUメモリ(VRAM)の容量だ。モデルの重みを16ビットから4ビットに変換する「4ビット量子化」を使うと、重みのデータ量を理論上は約4分の1に減らせる。ただし、実際のモデルファイルには追加情報も含まれ、量子化による精度の低下が回答品質に影響する場合もある。
例えば、Qwen2.5-Coder-32B-Instructを4ビット量子化(Q4_K_M)したモデルのファイルサイズは、Qwenの公開モデル情報によれば約19.9GBだ。実行時にはモデル本体に加え、入力内容や生成途中の情報を保持するKVキャッシュなどのメモリも必要になる。モデル情報サイトのllmrunは、コンテキストの長さによって必要なメモリが22〜28GB程度になると見積もっている。
ここで、ライフハッカー・ジャパンの体験談には注意すべき記述がある。筆者は8GBのVRAMを備えたRTX 4060搭載ノートPCで、32Bモデルの4ビット版がVRAMに収まり、毎秒25〜30トークンで動作すると報告している。しかし、約20GBのモデル全体が8GBのVRAMに収まることはない。メインメモリに一部を配置するオフロードなどを利用した可能性はあるが、記事からは実行時のメモリ配置を確認できない。したがって、報告された生成速度を同じVRAM容量のPCで再現できるとは限らない。
24GBのVRAMを持つRTX 4090なら、32B級の4ビットモデルは重みをGPUメモリに載せられる。ただし、長いコンテキストを扱う場合は追加のメモリが必要になり、容量が不足する可能性がある。一方、70B級になると条件はさらに厳しい。GPU関連情報サイトのSpheronによれば、Llama 3.3 70Bを4ビット量子化した場合でも約38GBが必要となり、24GBのGPU1枚では収まらない。
70B級を扱うには、48GB以上のVRAMを備えたGPUを使う、複数のGPUにモデルを分散する、重みの一部をメインメモリに配置する、といった方法がある。ただし、複数GPUへの分散には対応する実行環境が必要で、メインメモリへのオフロードでは生成速度が低下しやすい。Gizmodo Japanが紹介する大容量メモリ搭載のミニPCやMacBook Proも選択肢になるが、導入費用は高くなる。高性能なモデルを使うために機材を追加購入すると、月額契約との差額を回収するまでに長い期間がかかる可能性がある。
一方、2026年には比較的小さなモデルでも高い性能を発揮する選択肢が増えた。Gizmodo Japanも、Qwen3.5やGemma 4が一般的なノートPCを含む幅広い機器向けに複数のモデルサイズを用意していると紹介している。Gemma 4には26Bの混合エキスパート(MoE)型と31BのDense型(全パラメータを演算に使用する方式)があり、Googleの公式仕様では、4ビット量子化時のモデル読み込みに必要なメモリを、それぞれ約14.4GB、17.5GBと見積もっている。これらは20%のオーバーヘッドを含む数値だが、KVキャッシュなどの追加メモリは含まない。それでも、70B級にこだわらなければ、より少ないVRAMでローカルLLMを運用できることが分かる。
日本語で使うなら性能の確認が欠かせない
ローカルLLMを日本語で利用する場合は、多言語対応と日本語の文章品質を分けて考える必要がある。GoogleによるとGemma 4は140以上の言語で学習されており、Qwen3.5-27Bのモデルカードでは201の言語と方言への対応が説明されている。ただし、対応言語が多いからといって、日本語の文章が必ず自然になるわけではない。特に記事の執筆や技術文書の作成では、専門用語の扱い、文脈の理解、文章の自然さを実際の出力で確認する必要がある。
日本語向けに追加学習されたモデルを選ぶ方法もある。東京科学大学と産業技術総合研究所の研究チームは2025年3月10日、Llama 3.3をベースに日本語能力を強化した「Llama-3.3-Swallow-70B」を公開した。研究チームの評価では、日本語の対話性能を測るJapanese MT-Benchの平均スコアが0.772となり、GPT-4oの0.848、Qwen2.5-72B-Instructの0.835を下回った。日本語に特化して調整されたモデルでも、比較対象のクラウドモデルやほかの公開モデルと同等の性能が得られるとは限らない。
また、Llama-3.3-Swallow-70Bは70B級のため、4ビット量子化しても元のLlama 3.3 70Bと同程度のメモリ容量が必要になる。Spheronの推計に基づけば約38GB以上を見込む必要があり、24GBのGPU1枚では収まらない。2枚のGPUを使えば消費電力や導入費用も増えるため、日本語の品質を高める目的で大型モデルを選ぶ場合は、その効果に見合う負担かどうかを検討する必要がある。
ライフハッカー・ジャパンの筆者が主に利用しているのは、コードレビュー、ドキュメント作成、データ分析、技術的なトラブルシューティングだ。日本語の文章品質を詳しく評価した記述はなく、コード中心の作業で得られた結論を、日本語記事の執筆や編集にそのまま当てはめることはできない。自分が日常的に扱う文書を複数のモデルで生成し、品質を比較することが確実な判断材料になる。
解約したほうが得な人、契約を続けたほうがよい人
体験談の筆者も、Perplexityの利用を完全にやめるわけではなく、無料プランへの移行を予定しているという。コードレビューやドキュメント作成などはローカルLLMで代替できたものの、リアルタイムのWeb検索についてはPerplexityの利便性が高いと評価している。Open WebUIなどを組み合わせればローカルLLMでもWeb検索を利用できるが、設定が複雑になるため、同じ使い勝手を簡単に再現できるわけではない。画像の理解や最新情報の確認についても、利用するローカルモデルや周辺ツールの機能を確かめる必要がある。
費用面では、すでにGPU付きのPCを所有し、32B級以下のモデルで作業をこなせる人ほど、ローカルLLMの導入効果が大きくなる。例えばRTX 4090を1枚使い、定格450Wで月30時間動かした場合、GPU単体の電気代は約420円だ。PC本体の消費電力や保守の負担は別としても、月額3,000円の契約と比べれば大幅に安い。反対に、70B級を動かすためにGPUを追加購入する場合や、複数のGPUを長時間稼働させる場合は、費用面での優位性が小さくなる。
70B級を利用するなら、従量課金APIとの比較も重要になる。RTX 4090を2枚とも定格450Wで月100時間稼働させた場合、GPU単体の電気代は2,790円となる。一方、月3,000円(20ドル)をLlama 3.3 70BのAPIに充てれば、入力料金を無視した計算で約1,920万〜6,250万の出力トークンを購入できる。
ただし、ローカルLLMで同じ時間にどれだけの文章を生成できるかは、推論速度によって変わる。月100時間は36万秒なので、生成可能な出力トークン数は「毎秒の生成トークン数×36万」で求められる。ライフハッカー・ジャパンの毎秒25〜30トークンという報告は別のモデルと機材に関するものであり、70B級の比較には使えない。実際の環境で生成速度と消費電力を測り、APIの入力・出力料金を含めて比較する必要がある。
最終的に、月額20ドルのAI契約を解約すべきかどうかは、モデルの性能だけでなく利用時間と用途によって決まる。すでに十分な性能のPCを持ち、オフラインでの文章作成やコード処理が中心なら、ローカルLLMで固定費を削減できる可能性は高い。一方、最新情報の検索や画像の理解、高度な推論を頻繁に利用するなら、定額契約を維持するほうが合理的な場合もある。
判断する際は、まずPC全体の消費電力を測り、「消費電力(W)÷1,000×利用時間×電力単価」で月額の電気代を算出する。そのうえで、使いたいモデルが手元のVRAMに収まるか、日本語の品質が用途を満たすかを確認すればよい。必要な機能の大半をローカルLLMで代替できるなら、定額契約を解約し、不足する機能だけをAPIや無料サービスで補う方法もある。すべてをローカルに置き換えるのではなく、用途ごとに使い分けることが、費用と利便性の両立につながる。



