米The Informationは11月6日、TSMCが最大顧客であるNVIDIAの要請を受け、次世代メモリ「3D DRAM」の製造計画を検討し始めたと報じた。これに対してTSMCは7日(現地時間)に声明を発表し、複数のメディアが参入計画を「否定した」と伝えた。しかし、実際の声明は同社が専業ファウンドリとしての本業を重視する姿勢を改めて示したもので、3D DRAMの製造計画そのものを明確に否定してはいない。一方、仮にTSMCが計画を進めていたとしても、メモリ不足の解消に貢献するまでには少なくとも5年かかるとの見方がある。声明をどう解釈するかにかかわらず、今回の報道が当面のメモリ供給不足を改善する材料になるとは考えにくい。
TSMCの声明は3D DRAM参入を否定したのか
The Informationは事情に詳しい関係者2人の話として、TSMCがNVIDIAの要請を受け、3D DRAMの製造に向けた計画の策定を始めたと報じた。3D DRAMとは、メモリセルを垂直方向に積層することで記憶密度を高める次世代DRAM技術である。韓国のKyunghyang Shinmunによると、この計画はTSMCの先端パッケージング部門を率いる副社長が主導しており、専用のメモリ工場を新設する案や、既存工場を買収して転用する案も検討対象として取り沙汰されている。また、Chosun Ilbo英語版は、メモリ不足と価格上昇に直面するNVIDIAが、TSMCに次世代3D DRAMの製造を求めたと伝えている。
こうした報道に対し、TSMCは自社の事業方針を説明する声明を出した。BigGo Financeが引用した声明によると、TSMCは「専業のIC製造という本業に一貫して注力している」としたうえで、「世界のロジックIC産業に対し、信頼できる技術と生産能力を提供し続けることが当社の使命だ」と説明している。しかし、引用された2つの文章には、DRAMやNVIDIAへの言及が一切ない。少なくとも声明の文面からは、今回報じられた製造計画の有無を判断できない。
この点について、各メディアの解釈は分かれている。Kyunghyang Shinmunは、TSMCがNVIDIAから要請を受けたかどうかや、DRAMを含むメモリ事業への参入について具体的に説明しなかったと指摘した。BigGo Financeも、声明には「DRAM」という言葉すら含まれていないことに注目している。一方、Chosun Ilbo英語版は同じ声明を、TSMCがDRAM市場への参入計画を否定したものとして報じた。後者の解釈は、声明の文面から直接読み取れる内容よりも踏み込んだものといえる。
声明から確実に読み取れるのは、TSMCがロジック半導体の受託製造を本業とする姿勢を再確認したという点に限られる。NVIDIAから要請を受けたのか、社内で製造計画を検討しているのか、あるいは検討を取りやめたのかについては何も説明していない。したがって、この声明をもって3D DRAMへの参入計画が存在しないと断定することはできない。
TSMCが3D DRAMを製造しても、供給不足の解消は数年先
仮にTSMCが3D DRAMの製造に向けた検討を進めていたとしても、それが現在のメモリ供給不足を短期間で改善する可能性は低い。MLQが紹介したTom's Hardwareの分析によると、Micron、Samsung、SK hynixの大手メモリメーカー3社はいずれも3D DRAMの開発を進めているが、本格的な製品化にはなお時間がかかる。例えば、Micronの技術ロードマップには、従来の平面型DRAMが少なくともあと4世代残されている。既存の平面型DRAMを改良する余地があり、3D DRAMへの移行が直ちに始まるわけではないということだ。
さらに、TSMCには既存のDRAM量産技術を基盤として活用できないという課題がある。同社は世界最大の半導体ファウンドリとして高度な製造技術を持つものの、平面型DRAMの量産工程を保有していない。ロジック半導体とDRAMではメモリセルの構造や製造工程が異なるため、先端ロジックの製造能力をそのままDRAMに転用できるわけではない。Tom's Hardwareはこうした事情を踏まえ、TSMCが3D DRAMの製造戦略を進めたとしても、現在のメモリ不足を解消するまでには少なくとも5年かかると評価している。ただし、この期間はTSMCが公表した開発計画ではなく、技術的な課題を考慮したメディア側の見積もりである。
Kyunghyang Shinmunも、3D DRAMには技術開発と量産化の両面で課題が残されていると指摘する。メモリセルの積層技術を確立するだけでなく、量産時の歩留まりや製造コストを管理し、既存のDRAMメーカーに対抗できる生産体制を整える必要がある。半導体製造におけるTSMCの技術的な優位性が、3D DRAMの早期量産を保証するものではない。
一方、TSMCがメモリ関連技術の研究をまったく行っていないわけではない。BigGo Financeによると、TSMCは2025年のVLSI技術シンポジウムで、トランジスタ1個とキャパシタ1個からなる「1T1C」構造のメモリセルを、ロジックチップの配線層に組み込む技術を発表している。一般的なSRAMセルが1ビットの記憶に6個のトランジスタを必要とするのに対し、1T1C構造は記憶素子の小型化に適しており、チップ内のメモリ密度を高められる可能性がある。
ただし、これはロジック半導体にメモリを組み込む技術であり、独立したDRAM製品を大量生産する事業とは性質が異なる。TSMCはこの技術の商用化時期を明らかにしておらず、DRAM製品として位置付けるかどうかについても明言していない。したがって、こうした研究開発の実績を、今回報じられた3D DRAMの製造計画を裏付ける証拠とみなすことはできない。
日本のPCメーカーやスマートフォンメーカー、メモリ製品の購入者にとって重要なのは、実際の供給量と価格がいつ改善するかという点だ。Tom's Hardwareの分析に沿えば、TSMCが新たに3D DRAM市場へ参入したとしても、その効果が市場に現れるのは数年先となる。少なくとも今回の報道だけを根拠に、近い将来のDRAM供給量の増加や価格下落を期待することは難しい。
参入を否定したとの見方と、今後の判断材料
もっとも、TSMCの声明を事実上の参入否定と解釈する見方にも根拠はある。Chosun Ilbo英語版は同社の声明をDRAM市場への参入計画の否定として伝え、Tom's Hardwareも同様の解釈を示している。また、BigGo Financeによると、台湾のメモリメーカーWinbond Electronicsの会長であるChao Yu-chunは、DRAM製造には独自の工程技術と複雑な特許網が存在するため、TSMCによる直接参入は考えにくいとの見解を示した。
事業上の利害関係も、参入の可能性を判断するうえで重要だ。Chosun Ilbo英語版は、TSMCが長年維持してきた「顧客と競争しない」という事業方針を指摘している。同社がDRAM製造に本格参入すれば、現在の取引先でもあるSamsung、SK hynix、Micronと競合する可能性が生じる。Kyunghyang ShinmunもTom's Hardwareの分析を引用し、メモリ市場への参入がSK hynixなどとの協業関係に影響を及ぼす可能性に言及している。TSMCにとっては、新規事業から得られる利益だけでなく、既存顧客との関係が変化するリスクも考慮する必要がある。
ただし、既存のメモリメーカーと協業しながら、TSMCがメモリ関連製品の一部を製造する可能性まで排除されるわけではない。実際、10月にはSamsungがNVIDIA向けの次世代カスタムHBMについて、ベースダイの製造にTSMCの3nmプロセスを採用すると韓国メディアが報じた(MLQ)。HBMのベースダイは積層されたメモリダイとの接続や制御を担う半導体であり、DRAMの記憶セルを含むメモリダイそのものとは異なる。既存のメモリメーカーがTSMCにベースダイの製造を委託することと、TSMCが独自にDRAMの製造事業へ参入することは区別して考える必要がある。
今回の報道を評価するうえで、今後注目すべき動きは大きく2つある。第一に、TSMCがDRAMやメモリ製造への参入について、公式発表や事業説明の場で明確な方針を示すかどうかだ。第二に、TSMCが特定の顧客向けにDRAMまたは3D DRAMのメモリダイを製造する契約が明らかになるかどうかである。いずれかが確認されれば、今回の声明の解釈や、TSMCがメモリ事業にどこまで関与するのかについて見直す必要がある。
現時点では、TSMCが3D DRAMの製造計画を正式に認めた事実も、明確に否定した事実も確認できない。一方、仮に参入計画が存在していたとしても、量産技術の確立から生産能力の拡大までには相応の時間が必要になる。今回の報道で重要なのは、TSMCの事業領域が将来拡大する可能性と、現在のメモリ不足が解消される時期を切り離して考えることだ。今後は、参入の有無だけでなく、具体的な製造対象や顧客との契約、量産時期を裏付ける情報が示されるかが焦点となる。



