IBM、米オークリッジ国立研究所(ORNL)のQuantum Science Center(QSC)、AMDは2026年11月5日、量子コンピューターの誤りを検出し、訂正する方法を研究する共同設計基盤を発表した。IBMのニューヨーク州ポキプシー拠点で、120量子ビットの量子プロセッサー「Nighthawk r2」と、CPUやGPUを備える計算基盤「Umbra」を併設する。
量子誤り訂正には、量子ビットを動かす装置に加え、測定結果を処理する通常のコンピューターも必要になる。今回の基盤は、その組合せを同じ研究環境で試すためのものだ。大量の計算をこなす能力と、測定後すぐに応じる能力をどう両立させるかが、研究の課題となる。IBMの発表と技術解説が構成を説明している。
量子機器とUmbraを同じ研究環境へ
IBMの技術解説によると、従来は研究者がクラウド上の量子機器と別の古典計算基盤を、APIを使って自らつなぎ合わせる必要があった。古典計算とは、ここではCPUやGPUを使う通常の計算を指す。新基盤では量子側と古典側を同じ拠点に置き、機器とソフトウェアを組み合わせて方式を評価する共有環境を用意した。
Umbraに搭載されるのは、AMDの「Instinct MI355X」GPUと第5世代「EPYC」CPUである。Reutersも11月5日、量子機器とUmbraを組み合わせ、誤りを検出し訂正する方法を試す基盤として報じた。装置ごとの要求を合わせながら設計と評価を進めることが、今回の共同設計に当たる。
ただし、Nighthawkの120という数は、装置を構成する物理量子ビットの数だ。誤りから情報を保護した120個の論理量子ビットを使える、という意味ではない。機器の規模と、訂正した後にどれだけ情報を守れるかは、区別して読む必要がある。
誤り訂正が求める二つの速さ
量子誤り訂正は、情報を複数の量子ビットに分散し、繰り返し検査する仕組みである。その検査データから、どこにどのような誤りが起きたかを推定するソフトウェアを「復号器」と呼ぶ。量子プロセッサーの動作に追いつくには、検査結果を受け取ってから判断するまでの時間も短くしなければならない。
一方、復号器を訓練し、規模を広げて評価する段階では、大量のデータを処理する計算能力が求められる。
量子誤り訂正を支える古典計算には、測定に続く素早い応答と、大量のデータを扱う並列処理という異なる要件がある。
11月5日公開のIBMの基盤解説とAMDの用途別説明を照合すると、次のように整理できる。搭載の有無はIBMの発表に基づく。
| 機器またはソフトウェア | 資料に示された用途 | 今回のUmbraで確認できる範囲 |
|---|---|---|
| 第5世代EPYC CPU | 処理の統括と汎用計算 | 搭載を明記 |
| Instinct MI355X GPU | シミュレーション、最適化、並列科学計算。IBMはGPUによる低遅延復号の探索も説明 | 搭載を明記。用途別の達成性能は未提示 |
| Versal adaptive SoC | 低遅延の制御、読み出し、復号 | AMDの一般的な製品用途。今回の搭載は明記なし |
| ROCm | 高性能計算とAI、機器接続を支えるソフトウェア基盤 | AMDの一般的な用途説明。今回の採用は明記なし |
これは製品ごとの性能比較ではなく、処理の用途を整理した表である。GPUでも低遅延の復号を探るため、「GPUは並列計算専用」と役割を固定することはできない。また、AMDが紹介するVersalとROCmを、今回のUmbraの搭載一覧へ加える根拠もない。待ち時間の絶対値や復号性能の比較値は、今回の発表では未公表だ。
何を測れば基盤の効果が分かるか
古典計算の速さを一つの性能値とみなさず、どの処理をどの時間制約で動かすかを評価することが共同設計の要点となる。
IBMが提供する「Quantum System API」は、計算途中の量子ビットの測定と、その結果に応じたリアルタイムの動作を扱う。信号を送るタイミングを指定でき、実際に実行された内容や生の測定信号にもアクセス可能という。つまり、検査データを得るところから、その結果を使って動作するところまでを、一続きの処理として試せる。
そのうえでIBMは、方式ごとに必要な量子ビット数と時間、試行サンプルを比較し、古典計算の資源をどれだけ使うかも評価対象に挙げた。QSC所長のTravis Humble氏はIBMの発表で、「Umbraによって、新たな考えを試し、規模を広げてアプローチを評価する」と述べている。今後の研究について述べた言葉である。
今回公表されたのは、公式発表と技術ブログによる研究基盤の説明だ。訂正性能の向上を示す新たな査読済み論文の発表ではない。論理情報に誤りが残る割合を表す論理誤り率や、特定の訂正方式での試行数、訂正を繰り返した回数は示されておらず、遅延を比較した結果も未提示となっている。
設備の併設は確認できる。しかし、併設によって性能がどれだけ改善するかを示す実験値やシミュレーション値は今回の資料にはなく、独立追試の結果も示されていない。配置と性能の因果関係や相関を検証した研究結果として扱うことはできない。
2028年の目標へ向けた評価環境
IBMの発表は、米エネルギー省(DOE)の「Q Competition」が掲げる2028年末の目標として、100論理量子ビットと、「hard operations」と呼ぶ操作10万回を挙げた。保護された情報の単位である論理量子ビットと、Nighthawkの120物理量子ビットは、そのまま大小を比較できる数字ではない。共同基盤は、目標に向けて訂正方式と計算資源の使い方を試す環境と位置付けられる。
今後は、ORNLの高性能計算施設「Oak Ridge Leadership Computing Facility(OLCF)」へ接続する計画もある。IBMの発表とReutersの報道はいずれも将来の接続として説明しており、今回すでに接続を終えたという発表ではない。
次に判断材料となるのは、同じ実行条件で訂正方式と古典計算資源の組合せを比べた結果だ。測定後の応答が必要な時間内に収まるか。さらに規模を増やしたとき、計算負担がどう変わるか。その比較ができれば、量子ビット数やGPUの規模だけでは分からなかった、誤り訂正を動かし続けるための条件が見えてくる。



