AMDのCEO、Lisa Suは2026年11月5日のYahoo Financeのインタビューで、データセンター事業を優先する方針を改めて強調した。同社が11月3日に発表した第3四半期決算では、Gaming売上高が前年同期比40%減少しており、PCゲーマー向け製品への影響が気になるところだ。ただし、AMDの決算上のGamingにはゲーム機向けセミカスタム半導体とゲーム用グラフィックスが含まれる一方、ゲーミングPCにも搭載されるRyzenプロセッサはClientに分類される。そして、このClientの売上高は前年同期比7%増加している。

また、Lisa Suは2024年の投資家向け会合でも、すでにデータセンターを優先する姿勢を明らかにしていた。今回のGaming事業の減収を受けて、突然方針を転換したわけではない。PCユーザーにとって重要なのは、以前から続くこの経営方針が、今後のRyzenやRadeonの供給、価格、製品展開にどのような影響を及ぼすかだ。

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Gaming売上高40%減の内訳――Ryzenは成長、Radeonは減収

AMDのGaming事業が前年同期比40%の減収となった主な要因は、ゲーム機向けセミカスタム半導体の売上減少だ。AMDの四半期報告書(Form 10-Q)では、経営陣による財政状態・経営成績の分析(MD&A)でこの点が説明されている。また、第3四半期決算発表では、ゲーム用グラフィックスの売上減少も要因として挙げられた。つまり、Radeonの売上も前年を下回ったものの、Gaming全体の40%減をそのままRadeon単独の減収率と捉えるのは誤りだ。

一方、ゲーミングPCにも広く採用されているRyzenプロセッサは、GamingではなくClient事業に含まれる。AMDはClientとGamingを「Client and Gaming」という一つの報告セグメントにまとめ、その内訳として両事業の売上高を開示している。CPUがゲーム用途で購入されたかどうかによって、売上高をGamingへ振り分けているわけではない。この会計上の区分を理解しなければ、AMDのゲーム関連事業の実態を正確に把握できない。

10-QのNote 4に記載された2025年と2026年の第3四半期売上高を比較すると、事業ごとの明暗がはっきりする。金額の単位は百万米ドルで、増減率はAMDが公表した丸め値を使用した。Client and Gamingの合算額は、両事業の売上高を足し合わせたものだ。

項目 2025年Q3 2026年Q3 前年同期比
Gaming 1,298 773 40%減
Client 2,750 2,949 7%増
Client and Gaming合算 4,048 3,722 8%減
Data Center 4,341 8,546 97%増

2026年第3四半期のGaming売上高は、前年同期の12億9800万ドルから7億7300万ドルへ減少し、減収額は5億2500万ドルに達した。一方、Client売上高は27億5000万ドルから29億4900万ドルへ増加し、増収額は1億9900万ドルだった。Gamingの減収額に対するClientの増収額の割合を計算すると、199÷525×100=37.9%となる。つまり、Clientの増収によって補えたのはGamingの減収額の約38%にとどまり、Client and Gaming全体では3億2600万ドルの減収となった。

この数字から分かるのは、PC向けCPU事業が成長しても、ゲーム機向け半導体などの減収を補い切れなかったということだ。ただし、これはあくまで事業別売上高の増減を比較したものであり、ClientからGamingへ経営資源が移されたことや、両事業の増減に直接的な因果関係があることを示すものではない。また、AMDはGamingの内訳を詳細には開示していないため、Radeon単独の売上高や出荷数量、利益率をこの数字から算出することもできない。

データセンター優先は2024年からの方針、売上構成にも鮮明に

Lisa Suは2024年9月9日に開催されたGoldman Sachs Communacopia + Technology Conferenceで、AMDがすでにデータセンターを優先する企業であると説明していた。この発言はStock Analysisが掲載する当時の記録でも確認できる。したがって、2026年第3四半期のGaming事業の減収を受けて、データセンター重視へ急に舵を切ったという見方は正確ではない。むしろ、以前から掲げていた優先順位が、現在の事業規模の違いによって一段と明確になっていると考えられる。

実際、2026年第3四半期のData Center売上高は85億4600万ドルに達し、前年同期から97%増加した。全社売上高は133億7700万ドルであり、10-Qの公表値から計算すると、Data Centerの構成比は8,546÷13,377×100=約63.9%となる。AMDの売上高の約64%をデータセンター事業が占めており、同事業が経営の中心となっていることは明らかだ。 同社の決算全体や在庫投資については、2026年第3四半期決算を分析した既報でも詳しく取り上げている。

ただし、売上高の約64%をデータセンターが占めているからといって、半導体の生産能力の64%が同事業に割り当てられているとは限らない。売上高は製品の出荷数量だけでなく、平均販売価格や製品構成にも左右される。高価格のデータセンター向け製品が売上高の大半を占めていても、それだけでPC向け製品の生産量が大幅に削減されたとは判断できない。公開されている財務情報から、RyzenやRadeonに割り当てられた製造能力を逆算することもできない。

この点について、2026年第3四半期決算説明会の発言記録では、Lisa SuがPC市場の重要性を強調するとともに、PC向けとデータセンター向けの供給を市場の需要に応じて柔軟に調整できると説明している。これは、AMDが両市場の需要動向を見ながら供給を配分する方針であることを意味する。ただし、Radeon向けの生産能力を具体的に何%削減するのか、どの製造工程をPC向けとデータセンター向けで共用しているのかといった詳細は明らかにされていない。供給を調整できることと、特定のグラフィックスカードが実際に品薄になることは別の問題だ。

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Radeonの販売動向とPC需要の見通し

AMDは第3四半期決算説明会で、Radeonの最終顧客向け販売が前四半期比で増加した一方、ゲーム用グラフィックスの売上高は前年同期比で減少したと説明している。一見すると矛盾するように思えるが、前者は流通段階から最終顧客への販売動向、後者はAMDが計上した売上高であり、比較対象の期間も異なる。前四半期からRadeonの販売が持ち直していたとしても、前年同期の売上水準に回復したとは限らない。Gaming事業全体の40%減という数字だけでなく、Radeonの販売動向を個別に確認する必要がある。

メーカーから流通業者への出荷と、店頭などで最終顧客が購入する動きは、必ずしも一致しない。例えば、流通在庫が積み上がっている場合、最終顧客への販売が増えてもメーカーの出荷が同じ割合で増えるとは限らない。逆に、在庫が少ない場合には出荷数量が増えても、実際の需要を十分に満たせない可能性がある。そのため、PCゲーマーにとっては、AMDの事業別売上高だけでなく、Radeonの店頭在庫や実売価格を確認することが重要になる。

PC市場全体についても、AMDは慎重な見通しを示している。決算説明会では、第3四半期後半に最終顧客向けのPC販売が鈍化し、メモリやその他の部品価格の上昇が影響したと説明した。同社は2027年のPC出荷台数が二桁%減少するという前提を事業計画に織り込み、企業向け、高価格帯の消費者向け製品、デスクトップの流通市場を重視する方針を示している。ただし、これはPC市場全体に関する経営上の想定であり、Ryzen単独の販売予測や、低価格帯からの撤退を表明したものではない。

次の第4四半期について、AMDはData Center売上高が前四半期比で約50%増加する一方、Client and Gamingの合算売上高は20%超減少すると予測している。ただし、後者はClientとGamingを合わせた見通しであり、Gaming単独が20%超減少するという意味ではない。合算売上高の減少だけでは、Ryzen、Radeon、ゲーム機向けセミカスタム半導体のどこで売上が変化するのか判断できない。実際の事業動向を把握するには、次の決算でもClientとGamingの内訳を確認する必要がある。

PCゲーマーへの影響は、今後の製品供給と実売価格で判断すべき

AMDがデータセンター事業を優先していることは、Lisa Suの発言と売上構成の両方から確認できる。しかし、その方針が直ちにRadeonの供給削減やRyzenの価格上昇につながるとは限らない。AMDはPC市場の重要性を認めており、需要に応じて供給を調整する余地があるとも説明している。現時点では、データセンターの成長がPCユーザーの製品選択肢を狭めていると断定するだけの情報はない。

仮に、AMDがPC需要の低迷を見込んで供給を絞り、その後に実際の需要が予想を上回れば、製品によっては品薄や価格上昇が生じる可能性がある。反対に、需要の変化に合わせて十分な供給を確保できれば、データセンター事業の拡大とPC向け製品の安定供給は両立し得る。重要なのは、データセンター優先という経営方針そのものよりも、実際の生産・供給判断が市場にどう反映されるかだ。

今後は、次期決算で開示されるClientとGamingの売上高に加え、Radeonの最終顧客向け販売、Ryzenの供給状況、店頭での実売価格を継続的に確認する必要がある。AMDがデータセンター事業を優先するなかでも、PC向け製品の供給を維持できるのか。その答えは経営陣の発言だけでなく、実際に購入できる製品の種類、在庫、価格によって明らかになるだろう。