中国のDRAM大手、CXMT(長鑫存儲技術)の社長を務める曹堪宇(Cao Kanyu)氏は10月10日、上海で開催された第4回集積回路・チップレット大会で、新しい「4F²」アーキテクチャとハイブリッドボンディング技術を組み合わせた次世代DDR5 RDIMMを、2026年末までに投入する計画を明らかにした。RDIMMは主にサーバーで使用されるレジスタ付きメモリモジュールだ。今回の発表では製造プロセスの世代やデータ転送速度、容量などの具体的な仕様は示されなかったが、3日後の10月13日には韓国市場でSK hynixの株価が10.09%下落し、KOSPI指数も5.46%安となった。

中国メーカーの技術的な追い上げが市場の警戒感を強めたものの、CXMTが競合他社に先行できるかどうかを判断するには、まだ重要な情報が欠けている。特に注目したいのが、今回公表されなかった製造プロセスの微細化水準だ。アナリストが仮定した製造寸法と、CXMTが9月に公表した別のDRAMプラットフォームの数値を使ってセル面積を試算すると、前提次第で競合との優劣が逆転する。ただし、これらの数値は必ずしも同じ寸法を表しておらず、計算結果をそのまま実際の技術力の差とみなすことはできない。

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CXMTが発表した4F²技術と、明らかにされなかった製品仕様

曹堪宇氏は10月10日の講演で、CXMTが独自開発した「VSG(Vertical Surrounded Gate)」トランジスタを中核とする4F²アーキテクチャを紹介した。VSGは、電流が流れるチャネルを垂直方向に配置し、その周囲をゲートで囲む構造のトランジスタだ。従来の構造よりもゲートによる電流制御を強め、リーク電流や短チャネル効果を抑えながら、メモリセルの占有面積を小さくすることを目指している。TrendForceが10月12日に掲載した報道によると、CXMTは4F²関連の公開特許ファミリーが300件を超え、業界有数の規模に達しているとも説明したが、これは同社の主張であり、第三者による網羅的な比較が示されたわけではない。

今回の講演で明らかになった主な内容は、4F²アーキテクチャ、VSGトランジスタ、300件を超える公開特許ファミリー、そして2026年末までのDDR5 RDIMM投入計画だ。一方、具体的な製造プロセスの世代、データ転送速度、DRAMダイの容量、モジュール容量、製造歩留まり、出荷数量、顧客による認定状況などは公表されていない。正確な発売日も明らかではなく、講演資料そのものも公開されていない。Seoul Economic Dailyの10月14日付報道でも、今回の発表は年内の製品投入計画として理解すべきものであり、量産開始が確認されたわけではないと指摘されている。

それでも、発表から3日後の韓国株式市場では半導体関連銘柄が大きく売られた。10月13日の終値は、SK hynixが前日比10.09%安の144万3,000ウォン、Samsung Electronicsが7.39%安の23万2,000ウォンとなり、KOSPI指数も5.46%安の6,035.35まで下落した。韓国取引所は同日午前9時47分に、プログラム売買の売り注文を一時停止する「売りサイドカー」を発動している。Samsungの株価は10月12日にも4.39%下落しており、2営業日で合計約11.5%の下げとなった。ただし、Reutersの市場分析が伝えるように、同日の株価下落にはAI関連投資の収益性や金利動向への懸念も影響しており、CXMTの発表だけが原因だったとは言えない。

市場が敏感に反応した背景には、CXMTが世界のDRAM市場で急速に存在感を高めていることもある。TrendForceによると、CXMTの世界DRAM売上高シェアは2026年第2四半期に9.5%となり、前四半期の7.6%から上昇して4位につけた。上位3社はSamsungが39.4%、SK hynixが24.9%、Micronが23.3%を占めているが、Counterpoint ResearchもCXMTのシェアを前四半期の8%から10%へ拡大したと推計している。調査会社によって多少の差はあるものの、CXMTが世界市場の約1割を占める水準に近づいていることは共通している。

一方、今回の発表を受けて広まった「CXMTがSamsungに2年先行する」という見方には注意が必要だ。これは曹堪宇氏自身の発言ではなく、中国メディアの第一財経やIT之家による講演報道にも、競合他社に対して何年先行しているかという説明はない。「2年先行」という比較は、CXMTが2026年末までの製品投入を予定している一方、Samsungの4F²技術を採用した製品の量産は2028年ごろになるとの見通しを、報道機関やアナリストが比較したものだ。製品の発表と本格的な量産開始は異なる段階であり、この時期の差だけで技術的な優劣を判断することはできない。

17nmか11.95nmか、4F²セルの面積比較で優劣が逆転する理由

今回の技術発表を評価する上で、重要な要素の一つが「4F²」というメモリセルの構造だ。一般的なDRAMセルは、1個のトランジスタと1個のキャパシタで構成されており、「1T1C」と呼ばれる。セルの占有面積は、基準となる最小加工寸法をFとして、その二乗の何倍に相当するかで表される。主要DRAMメーカーが長年採用してきた代表的な構造は6F²だが、4F²ではトランジスタを垂直方向に配置することで、同じFのままセル面積を理論上約33.3%削減できる。同じ面積に配置できるセル数も、理論上は50%増える計算になる。

ただし、4F²という構造を採用すれば、必ず競合製品より高密度になるわけではない。実際のセル面積は「n×F²」で決まるため、Fが大きければ、4F²セルでも微細な6F²セルより面積が大きくなる可能性がある。CXMTは今回、この計算に必要な製造寸法を明らかにしていない。そのため、どの寸法を前提にするかによって、競合メーカーとの比較結果が大きく変わる。

Rosenblatt Securitiesのアナリスト、Kevin Cassidy氏は10月14日のレポートで、CXMTが約17nmの製造プロセスで4F²セルを作ると仮定し、競合メーカーが約12nmで製造する6F²セルより面積が大きくなると試算した。TipRanksが伝えた同氏の分析では、セル構造を微細化しても、それだけで製造コストや密度の優位性が生まれるわけではないと指摘している。仮に17nmと12nmをそれぞれFとして計算すると、CXMTの4F²セルは「4×17²=1,156nm²」、競合の6F²セルは「6×12²=864nm²」となる。この条件では、CXMTのセル面積は競合より約33.8%大きく、4F²構造による理論上の利点が製造寸法の差によって失われることになる。

しかし、17nmという数字はCassidy氏が置いた仮定であり、CXMTが実際に採用する製造寸法として公表したものではない。一方、CXMTは2026年9月20日の公式発表で、第5世代DRAMプラットフォーム「G5」の量産開始を明らかにしている。同社によると、G5では自己整合四重パターニング(SAQP)技術によって、メモリアレイのアクティブ領域の半ピッチを11.95nmまで縮小したという。これはCXMTが実際の量産技術について公表した数値であり、アナリストによる17nmという推定とは性質が異なる。

仮に、この11.95nmを4F²セルのFとして使えるとすると、セル面積は「4×11.95²=約571nm²」となる。競合メーカーの6F²セルを12nmと仮定した場合の864nm²と比較すると、今度はCXMTのセル面積が約33.9%小さくなる計算だ。つまり、同じ4F²構造でも、17nmを前提にすれば競合より約34%大きく、11.95nmを前提にすれば約34%小さいという、正反対の結果が得られる。これは、セル構造の違いだけでなく、製造寸法の前提が密度比較を大きく左右することを示している。

ただし、この計算結果をCXMTの実際の技術的優位性とみなすことはできない。 G5で公表された11.95nmはメモリアレイのアクティブ領域の半ピッチであり、4F²セルの面積計算に用いるFと同じ寸法とは限らない。また、G5で量産されている製品と、今回発表された4F² DDR5 RDIMMは別のものであり、CXMTは次世代製品にG5と同じ製造寸法を採用すると説明していない。Bank of AmericaもCXMTの4F²技術について15nmという前提を置いているが、こうした推定ノード値と、CXMTが公表したアクティブ領域の半ピッチでは、測定対象や定義が必ずしも一致しない。

さらに、メモリセルの面積とDRAMダイ全体の面積も区別する必要がある。4F²構造によってセルの占有面積を減らしても、周辺回路や制御回路まで同じ割合で小さくなるとは限らないため、実際のダイ面積の削減率はセル面積の縮小率より小さくなる可能性がある。SamsungやSK hynix、Micronも10nm級の次世代DRAMプロセスの開発を進めており、競合メーカー側の微細化が進めば、CXMTが4F²構造から得られる相対的な利点も変わってくる。現時点で確認できるのは、製造寸法の前提次第で計算上の優劣が逆転するということであり、実際の密度や製造コストの差ではない。

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Samsungも4F²を実証済み、年末の製品投入で何が分かるのか

CXMTの技術的な進歩を評価する際には、競合メーカーも同じ方向の研究を進めていることを考慮する必要がある。みずほ証券のアナリスト、Jordan Klein氏は10月13日、CXMTの発表がMicronやSanDiskなどにとって直ちに大きな脅威となるわけではないとする7つの理由を挙げた。Investing.comが伝えた分析によると、Klein氏はSamsungとSK hynixも4F²技術を開発しており、これはCXMTだけの突破ではなく、DRAM業界全体が進める次世代技術への移行だと指摘した。さらに、今回の対象はHBMではなく通常のサーバー向けDRAMであり、製品仕様、歩留まり、顧客認定、商用規模の出荷能力なども示されていないとしている。年内の製品投入計画を発表しただけでは、製造技術の成熟度やコスト競争力まで証明されたことにはならないという見方だ。

実際、Samsungの研究者らは2026年2月の国際固体素子回路会議「ISSCC 2026」で、垂直チャネルトランジスタを採用した4F²セルと、Cell-on-Peripheral(COP)構造を組み合わせた16Gb SDRAMの試作チップを発表している。同会議の論文によると、ウェハー間のハイブリッド銅接合を利用した10nm級DRAMプロセスで読み書き動作を確認し、同じ設計ルールではウェハー当たりのダイ数が20%以上増えたという。これは4F²とハイブリッドボンディングを組み合わせる技術が、すでにSamsungでも実証段階に進んでいることを示している。ただし、学会での試作チップの動作確認と、量産製品を安定して供給できることは別の問題だ。

Samsungの4F²技術を採用した製品は、2028年より前の市場投入が見込まれていないとする報道もある。一方、CXMTは2026年末までの製品投入を計画しているが、具体的な仕様や量産規模は明らかにしていないため、両社の開発段階を同じ基準で比較することは難しい。Morningstarの荊哲維(Jing Zhewei)氏も、CXMTが4F²技術を速やかに実用化できれば競争力は大きく改善すると評価する一方、技術発表から本格的な商用化までには相応の時間がかかると指摘している。重要なのは4F²を先に発表することではなく、十分な歩留まりと信頼性を確保し、競争力のあるコストで量産できるかどうかだ。

CXMTの技術開発には、米国による半導体製造装置の輸出規制も関わっている。米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月7日に発表した規制では、18nmハーフピッチ以下のDRAMを製造する中国国内の施設などに対し、特定の装置や技術の輸出に許可を求める措置が導入された。これはCXMTという企業だけを対象にした規制ではなく、製造施設の能力や用途などに基づくものだ。なお、DRAMの規制対象を定める技術的な基準はその後改定されており、現在の規制内容を2022年当時の18nmという条件だけで説明することはできない。

一方、Reutersが2026年6月17日に報じた内容によると、CXMTは米商務省のエンティティリストへの追加が検討され、省庁間の審査では承認されていたものの、米中通商交渉への影響などを考慮して掲載が保留されていたという。エンティティリストへの掲載と、中国国内の先端半導体製造施設に適用される輸出規制は異なる仕組みであり、同リストに掲載されていないからといって、CXMTへの製造装置の輸出がすべて自由に認められるわけではない。こうした規制の線引きは、日本の半導体製造装置メーカーにとっても重要だ。

2024年12月、米商務省が中国企業約140社をエンティティリストに追加した際、CXMTは対象から外れた。South China Morning Postの当時の報道によると、その背景には日本側の反対があり、CXMTに製造装置を供給する東京エレクトロンへの影響が考慮されたとされる。ただし、これは関係者への取材に基づく報道であり、米政府が公式に除外理由を説明したものではない。また、CXMTは米国防総省の中国軍事企業関連のリストにも指定されているが、これは商務省のエンティティリストとは法的な性質が異なる。中国メーカーの技術開発と米国の輸出規制の動向は、日本企業が中国市場でどこまで製造装置を販売できるかという問題にも直結している。

今後の焦点は、CXMTが2026年末までに投入するとしている4F² DDR5 RDIMMについて、具体的な製造寸法と製品仕様を明らかにするかどうかだ。もし4F²セルの基準寸法が17nm程度であれば、約12nmの6F²セルと比較した単純な面積計算では不利になる可能性がある。一方、より微細な寸法を採用できていれば、4F²構造による密度向上の効果は大きくなる。ただし、G5で公表された11.95nmというアクティブ領域の半ピッチを、そのまま4F²セルのFとみなせるとは限らないため、実際の優劣を判断するには、同じ定義で比較できるセル面積の情報が必要になる。

さらに、セル面積が小さいだけでは、サーバー向けDDR5としての競争力を十分に評価できない。転送速度や容量、消費電力、信頼性、製造歩留まりに加え、顧客のサーバープラットフォームでの認定状況も重要だ。CXMTが年末までに製品を発表したとしても、それだけで大量生産や大規模な顧客出荷が実現したとは言えない。製品発表、顧客による評価、安定した量産は、それぞれ異なる段階だからだ。

今回の株価急落には、CXMTの技術的な追い上げに対する警戒が反映されていたものの、実際の競争力を判断するための重要な情報はまだ十分に公表されていない。4F²構造による理論上の密度向上は明確だが、それを製造コストや製品性能の優位性につなげられるかどうかは、今後の量産技術の成熟度によって決まる。2026年末に向けて、CXMTが製造プロセスや製品仕様、歩留まり、顧客認定、出荷状況をどこまで明らかにするかが焦点となる。それらの情報がそろえば、今回の発表が韓国や米国の主要DRAMメーカーにとって差し迫った脅威なのか、それとも将来に向けた技術開発の一段階なのかを、より正確に評価できるようになるだろう。