AIの急速な普及が半導体業界の地図を塗り替えている。それも、チップの性能向上だけでなく、チップを乗せる「基板」という意外な急所において。Intelはニューメキシコ州リオランチョの工場を次世代半導体パッケージングの要衝と位置づけ、SKCは2026年末の世界初ガラス基板商業量産に向けて全力疾走し、Samsung Electro-MechanicsはすでにAppleとBroadcomにサンプルを出荷している。ガラス基板の制覇がサプライチェーン全体の掌握に直結する——そんな性格の競争が、いま静かに、しかし猛烈な速度で展開されている。
なぜ「ガラス」なのか——有機ABF基板の限界という構造問題
AIサーバーに搭載されるチップは面積の拡大が止まらない。GPUや大型カスタムAIチップは性能競争の結果として年々大型化しており、チップを接続するパッケージング基板にかかる負荷も増す一方だ。
現在主流の有機ABF(味の素ビルドアップフィルム)基板は、樹脂・ガラス繊維クロス・銅箔を積層した構造を持つ。この材料はリフロー加熱工程での温度変化に対応しきれず、大型パッケージになるほど「反り(ワーピッジ)」が深刻化する。反りが起きれば電極の接触不良や歩留まりの低下を招き、高性能チップの生産効率を直撃する。
ガラスはこの課題を材料レベルで解決する。シリコンに近い熱膨張係数(CTE)を持つため、チップと基板の熱変形差が小さく、反りが大幅に抑制される。表面平滑度も有機材料より高いため、より微細な配線を形成でき、集積密度と相互接続性能の双方で優位に立つ。TrendForceは「ガラスインターポーザーや基板として魅力的な代替材料として浮上している」と指摘しており、特に高付加価値の2.5D/3Dパッケージング向けに需要が高まっている。
市場調査会社The Insight Partnersのデータによれば、世界のガラス基板市場規模は2025年の2,300万ドル(約340億円)から2034年には42億ドル(約6,200億円)に達する見通しだ。約180倍という急成長の予測は、現在のガラス基板市場がいかに黎明期にあるかを示している。
Intel リオランチョ工場:世界初量産施設の最有力候補
Intelがリオランチョ工場を中心に据えた戦略を打ち出している背景には、同拠点の独自な歴史と能力がある。1980年に開設されたリオランチョ工場は、1990年代から2000年代初頭にかけて世界屈指の半導体製造拠点として知られた。その後、一部が閉鎖・売却候補となったが、2021年のIntel Foundry宣言を機に先進パッケージング専用施設として全面転換した。
現在、リオランチョ工場はIntelの2.5DパッケージングであるEMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)と3DパッケージングであるFoverosの量産を担い、マレーシアPenangと並んで同社の先進パッケージング主力拠点となっている。
さらに最近は、シリコンフォトニクスの製造サービスを外部ファウンドリー顧客に提供し始めた。データセンター向けの次世代光接続技術に対応する新たな外販領域への踏み出しであり、リオランチョ工場の役割はEMIB・Foverosにとどまらず拡大しつつある。
さらに重要なのは、リオランチョ工場がガラス基板の世界初量産サイトになる可能性が高いという点だ。Forbesの報道によると、現在ガラス基板の試作はアリゾナ州Chandlerのパイロットラインのみで実施されているが、量産移行先としてリオランチョ工場が最有力視されている。Amkorのリードエンジニアは「ガラス基板の商業化まであと3年以内」と発言しており、IntelはCo-Packaged Optics(CPO)を組み合わせた最初のガラス基板プロトタイプを公開し、2030年の商業化を目標に掲げている。
Tirias Researchのアナリスト、Jim McGregorはリオランチョ工場を視察し、「Intelの工場というより、真のセミコンダクター・ファウンドリーに踏み込んだ感覚だった。スタッフがIntelに言及するとき、『別の顧客の一つ』として扱っていた」と述べている。この証言は、リオランチョ工場がIntelの内製工場から顧客志向のファウンドリーへと文化的に転換していることを示す。
Intelの先進パッケージング事業が先行して稼ぐ理由
Intel Foundryは製造プロセスノードでの競争力が注目されてきたが、実際の収益貢献では先進パッケージング部門が先行している。Tirias Researchはパッケージング・テスト事業部門がすでに収益段階にあると分析し、2030年まで同社の財務的強さを支える主力部門になると予測する。
IntelのCFOであるDavid Zinsnerは2025年第4四半期の決算説明会で、「初期の顧客エンゲージメントによれば、多くの先進パッケージング案件が10億ドルを大きく超える規模になり得る」と発言した。先進パッケージング顧客としてはAWSとCiscoがすでに取引実績があり、Apple・Google・Microsoft・Nvidia・Teslaが協業を検討中とForbesは報じている。
SK HynixとのHBMメモリー供給パートナーシップや、Amkorとの戦略的提携も見逃せない。AmkorはアリゾナでのIntelおよびTSMC向けローカルファブ対応を見越して、同州での生産能力を拡大中だ。Intelは2027年に損益分岐点、2030年に黒字転換を掲げているが、パッケージング事業は製造プロセス事業に先んじてその道筋を切り開くとみられる。
SKC Absolics:「世界初商業量産」の権利を狙う挑戦者
Intelがリオランチョ工場への期待を高める一方、「世界初」の座を先に狙うのがSKCの子会社Absolicsだ。Business Postの報道によれば、SKCは2026年末に世界初のガラス基板商業量産を開始する見込みで、現在グローバルなビッグテック企業との試作品検証を進めている。
5月6日、SKC株はこの進捗報道を受け上限価格(16万1,200ウォン)に張り付き、前日比30%高で引けた。
SKCが今年中にAbsolicsへの集中投資を加速できる背景には、本体の財務回復がある。主力の有機銅箔(動箔)事業が北米ESS(エネルギー貯蔵システム)向け需要の拡大で息を吹き返しており、2024年に10%台まで落ちたマレーシア工場の稼働率は今年中に80%以上まで回復する見込みだ。ESS向け動箔の売上は2026年第1四半期に前四半期比132%増加し、本業の黒字転換が新事業への投資余力を生む好循環が生まれつつある。
SKC CEOの金鍾佑(Kim Jong-woo)氏は就任後の株主説明会で「有償増資1兆ウォンの60%をガラス基板の加速化に充てる」と明言した。2026年第1四半期には10四半期ぶりにEBITDAベースでの黒字転換を果たし、ガラス基板量産が実績に反映される2027年以降は成長ペースが加速すると期待されている。メリッツ証券のアナリストは「SKCの業績改善トレンドが明確になることで、営業赤字を理由とした悲観論は払拭される」と指摘した。
Samsung Electro-Mechanics:Appleとの直接取引が示す「顧客基盤転用」戦略
Samsung Electro-Mechanicsは、Androidスマートフォン向けFC-BGA(フリップチップ-ボールグリッドアレイ)基板で培った顧客基盤をガラス基板事業に直接転用する戦略を採っている。同社はすでにAppleにガラス基板サンプルを供給していることをDielectが報じており、これはカスタムAI半導体設計大手のBroadcomへのサンプル提供に続くものだ。
Broadcomの位置づけは特に重要だ。BroadcomはGoogle・Meta・OpenAIなどのビッグテック向けカスタムAIチップの設計・量産化を担うメーカーであり、同社向けにガラス基板を供給できれば、それらのチップに搭載される可能性が高まる。
Appleが独自にSamsung Electro-Mechanicsからサンプルを入手している背景について、業界では二通りの解釈がある。短期的にはBroadcomのプラットフォームで使用されるパッケージング素材の特性を最終顧客として自ら把握するためとみられ、長期的にはサーバー向けAIチップのパッケージング設計を自社で主導するための布石だという見方もある。Appleがモバイル向けSoC、GPU IPコア、モデムを順次自社設計に切り替えてきた経緯を踏まえれば、後者の可能性も否定できない。
Samsung Electro-Mechanicsは忠南・世宗事業所でガラス基板のパイロットラインを稼働中で、2027年以降の量産を目標とする。昨年11月には住友化学グループと合弁会社(JV)設立のMOUを締結し、ガラス基板の核心素材であるガラスコア製造に向けた協力関係を構築した。
BOEとCorning:中国勢も「ガラス」で反攻を狙う
競争は日米韓の枠を超え、中国にも広がっている。中国最大のディスプレイメーカーBOEは、ガラス素材と光ファイバー分野で圧倒的な地位を持つCorningとMOUを締結。ガラス基板・光通信・ペロブスカイトの3分野で技術の商業化に向けた協力体制を構築した。MOUは3年間有効で、具体的な契約条件は各プロジェクトの進捗に応じて別途交渉することになっている。
BOEはすでにガラス基板パッケージング事業で2024年からパイロットライン投資を開始し、一部サンプルを顧客に提供している。光通信部門は子会社BOE Huachanを通じてマイクロLEDベースのICチップを開発中で、ペロブスカイト分野でも2024年に試験ラインを構築して研究開発を続けている。
業界関係者は「スマートフォン向けOLEDの浸透率が50%に近づき市場が飽和しつつある。半導体ガラス基板やシリコンフォトニクスなどの有望分野は、韓国と中国のディスプレイ勢力が激突する次の主戦場になる」と分析している。ディスプレイ製造で蓄積したガラス加工技術と設備投資ノウハウは、半導体パッケージング向けガラス基板に直接転用できる部分が多く、中国勢の参入は業界の地殻変動を加速させる可能性がある。
「先進パッケージング」がトランジスタ微細化と並ぶ技術軸へ
半導体業界の常識として長く君臨してきたのは「ムーアの法則」——トランジスタを微細化して単位面積あたりの性能を向上させる手法だ。しかし、5nmや3nmを切った段階で物理的・経済的限界が顕在化し、さらなる微細化の難度と費用は指数関数的に増大している。
これに対して業界が見出した補完策が「先進パッケージング」だ。複数のチップダイを単一パッケージに集積し、近距離で高密度に接続することで、1枚のモノリシックダイを超える性能を発揮させる。IntelのEMIBやFoveros、TSMCのCoWoS、AMDの3D V-Cacheはいずれもこの流れを体現している。
ガラス基板はこの先進パッケージングの基盤技術として位置づけられる。高い表面平滑度、低い誘電損失、シリコンに近いCTEは、より微細な再配線層(RDL)を可能にし、計算・メモリー・ネットワーク・フォトニクスの各ダイを高密度に接続するための物理的基盤を提供する。
Tirias Researchは「先進パッケージングのリーダーシップは、米国が半導体製造のあらゆる側面で競争力を持つことができると示している」と評価する。Intel Foundryのパッケージング部門は、製造プロセス事業が収益軌道に乗る前の「先行稼ぎ頭」だ。プロセスノード競争で後れをとる現状を踏まえれば、この部門がIntelの財務回復を下支えする期間はさらに長引く公算が大きい。