高帯域幅フラッシュ(HBF)は、まだ本格的な商用市場を持たない。それでも装置メーカーは、すでに次の競争線を引き始めている。韓国ZDNetは2026年6月5日、韓国国内外の後工程装置メーカーがHBF製造向けの熱圧着ボンダー、つまりTCボンダーの開発に入ったと報じた[1]。同紙によれば、韓国のHanmi SemiconductorとHanwha Semitech、海外のASMPT、Kulicke & Soffaらが供給網入りを狙う。

もっとも具体的な情報はHanmi Semiconductorの納入時期だ。同社は2026年後半にHBF向けTCボンダーの初期物量を顧客へ届ける準備を進めているとされ、開発進捗も先行していると評価されている。ただし、これは業界関係者の話に基づく報道であり、Hanmiが顧客名や納入条件を公式に確認したわけではない。個別の受注確定そのものより、HBFがメモリメーカーのロードマップ段階から後工程装置の先行投資フェーズへ移ったという構図の変化が大きい。

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TCボンダーが最初の受益者になり得る理由

HBFはNANDフラッシュを垂直に積層し、シリコン貫通電極(TSV)でつないで帯域幅を引き上げる次世代メモリである。AI推論で必要になる大容量データを、ストレージよりメモリ寄りの経路で扱うことを狙う。DRAMを積むHBMと構造の発想は近いが、密度の源がNANDであるため、「高帯域メモリ」の看板を掲げても競争軸はHBMとは少しずれる。

SandiskはHBFをAI推論向けの新たなメモリカテゴリとして打ち出している。2025年8月にはSK hynixとのHBF仕様標準化MOUを発表し、2026年2月にはOpen Compute Projectの傘下に専用ワークストリームを置くと発表した。公式のロードマップでは、HBFメモリの最初のサンプルが2026年後半、HBF搭載AI推論デバイスのサンプルが2027年初めとされる。

この時間軸に合わせる形で、装置メーカーは先に動く必要がある。メモリサンプルの段階で積層、接合、歩留まり評価の装置が揃っていなければ、量産性の検証が始まらないからだ。HBF市場が最終的にどの程度の規模になるかは読み切れないが、商用化に向かえばTCボンダーは最も早く需要が顕在化する装置の一つになる。ZDNetが伝えた装置メーカーの動きは、HBFが「将来のメモリ構想」から「試作ラインに必要な機材」へ進んだことを示している。

HBM装置の延長線上にありながら、NAND固有の壁が立ちはだかる

TCボンダーは、複数のメモリチップを熱と圧力で接合する装置である。HBM製造ではDRAMダイを積層して高帯域メモリを組み上げる際の必須後工程装置として定着してきた。HBFも積層メモリである以上、同じ装置カテゴリが前面に来る。ZDNetは装置業界関係者の見立てとして、HBM向けとHBF向けのTCボンダーは根本的な技術構造が共通しており、カスタマイズでHBFに対応できる可能性があると伝えている。

この見立てが正しければ、Hanmi SemiconductorなどHBM向けTCボンダーで実績を持つ企業には初期段階でアドバンテージがある。ゼロから新装置を開発する競争ではなく、既存プラットフォームをHBFの材料、厚み、熱条件、接合ピッチに合わせていく競争になる。ZDNetはまた、HBFの標準がまだ固まっていない一方、接合ピッチはHBMより余裕があるとの見方があり、難度は下がる可能性があるとも触れている。

ただし、難度が下がるというのは工程の入口の話にすぎない。HBFはNANDを使う。NANDはDRAMより熱と圧力に弱く、TC接合中のクラックをどう抑えるかが歩留まりを左右する。接合ピッチが緩くても、熱履歴、加圧プロファイル、ダイの反り、積層応力が制御できなければ、容量の優位を製品に結びつけることはできない。装置側の差別化は「HBM装置をHBFに横展開できるか」という段階から、NANDの物性に合わせた精密な熱圧力制御を実装できるかという段階に移る。

SandiskのHBFファクトシート[3]も、この接合技術の重要性を裏付ける。第1世代HBFは16ダイスタックで合計512GB、読み出し帯域1.6TB/sを目標とし、HBM4に近い物理フットプリント、電力特性、スタック高さを狙うと説明されている。NANDの容量を高帯域メモリの形に押し上げる構想であると同時に、高度な3Dスタック実装を前提にした設計だ。装置メーカーにとって、仕様の魅力を実際の工程に落とし込めるかどうかが問われる場面になる。

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SK hynixとの標準化は、装置メーカーを先に動かす

HBFを推進しているのはSandiskだ。同社はNANDの高密度性とCBA(CMOS directly Bonded to Array)技術をHBFの基盤として示し、AI推論では帯域だけでなく容量がボトルネックになるという立場を取る。2025年8月の発表では、HBMと同等の帯域幅を目標としつつ、同程度のコストでHBMの8倍から16倍の容量を実現する構想を打ち出した。

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ただ、この数字だけを取り上げてHBFをHBMの代替とみるのは早計である。DRAMとNANDでは遅延特性も書き換え耐性も異なり、HBFが主として狙うのは、AI推論で大きなモデルやデータを読み出し続ける用途だ。HBMが学習側で担う役割をそのまま置き換えるというより、推論時の容量制約を緩める補完階層として位置付けられている。The Bellも、HBFはHBMを置き換えるというより補完する関係になるとの業界見方を紹介している。

SK hynixとの関係も、別途整理しておく必要がある。両社は2026年2月、Sandisk本社でHBF Standardization Kick-Offを開催し、OCPの枠組みで標準化を進めると発表した。The Bellは、SK hynixとSandiskの協力は標準策定に限定されたもので、実際の製品量産を共同で行う段階ではないと整理している。SK hynixの名前はHBFの標準化に重みを持つが、それだけで共同製品や共同量産を意味するわけではない。

それでも、標準化発表は装置メーカーにとって動き出す合図になる。仕様が完全に固まってから装置開発を始めても、2026年後半のサンプルや2027年初めのデバイスサンプルには間に合わない。初期の装置に求められる価値は、確定仕様への対応力だけでなく、仕様が固まる前の試作や歩留まり評価を支えられるかどうかにもある。HBFの商用市場がまだ不透明でも、試作を支える装置の席取りは先に始まっている。

韓国勢の先行は確定優位ではない

今回名前が挙がった韓国勢のうち、最も先行していると報じられているのはHanmi Semiconductorである。同社はHBM向けTCボンダーで存在感を持ち、HBFでも初期物量納入の準備を進めているとされる。Hanwha Semitechも供給網入りを狙う。海外勢ではASMPTとKulicke & Soffaが開発を進めているとされ、HBF装置は韓国企業だけの競争ではない。

The Bellの4月報道によれば、SandiskはHBFサンプル制作で韓国の一部素材・部品・装置企業との協力に着手した。さらに、HBM製造に使われる一部装置で独占的な強みを持つ企業が、2026年初夏ごろにSandiskへサンプル装置を送る予定とされる。ZDNetの6月報道と合わせると、HBFの試作準備はメモリメーカー内部で閉じていないことが見えてくる。

一方、韓国メモリメーカー各社の立ち位置は一様ではない。SK hynixはSandiskと標準化で手を組むが、The Bellによれば実製品の量産協業ではない[2]Samsung ElectronicsはHBFのロードマップや開発計画を公式に示していないが、業界では開発準備を進めていると見られている。公開情報に照らせば、明確に前に出ているのはSandiskのロードマップとSK hynixとの標準化の枠組みであり、韓国装置企業の動きはそれらを追いかける周辺供給網の先行反応と位置付けられる。

この構図はHBMの事例と重なる。AI半導体の主役はGPUやメモリダイに見えやすいが、高密度積層を量産レベルで成立させるには、接合、検査、洗浄、搬送、歩留まり改善といった装置群が不可欠である。HBFが市場として立ち上がるかは不透明でも、HBM後工程の実績を持つ装置メーカーが次の規格に先回りする動機は十分ある。

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問われるのはスペックではなく、NAND積層の歩留まり

HBFをめぐる議論は容量の数字に目を奪われやすい。Sandiskは第1世代で16ダイスタック、512GB1.6TB/sの読み出し帯域を掲げ、将来世代では1TB1.5TBのスタックにも触れている。AI推論でモデルサイズとメモリ容量が制約になっている現状を考えれば、方向性としては筋が通っている。

ただ、装置商戦の観点から見れば、次の焦点はスペック表ではない。NANDを積み、TSVでつなぎ、熱と圧力で接合し、クラックを抑え、量産に耐える歩留まりを確保できるかどうかである。標準化、サンプル、初期装置納入、AIデバイスへの統合はそれぞれ別の段階であり、いずれかが進めば直ちに量産市場が立ち上がるわけでもない。

それでも、ZDNetとThe Bellの報道が示す変化は小さくない。HBFはNANDメーカーの将来構想として語られてきた段階から、後工程装置メーカーが納入時期と顧客対応を想定し始めた段階に移っている。2026年後半にSandiskのHBFサンプルとHanmiの初期装置納入準備が重なるタイミングを節目に、2027年初めのAI推論デバイスサンプルまでの間に、どの装置メーカーが工程実績を握るかが次第に見えてくる。HBFの帰趨は、メモリの発想そのものだけでなく、NANDを高帯域メモリの形で積み上げる製造技術に懸かっている。