AIデータセンターを運営する事業者にとって、メモリ価格の上昇はコスト増という頭の痛い問題だ。ところが同じ値上がりは、供給側に立つSamsung電子には記録的な増益をもたらした。同社が2026年7月7日に発表した2026年Q2の暫定連結営業利益は89.4兆ウォン、ドル換算で約584億ドルに達する。前年同期比1810.3%増という伸びで、NVIDIAの従来の最高記録535億ドル、Appleの従来の最高記録508.5億ドルをともに上回り、主要テック企業の四半期営業利益として過去最高を更新した。
だが同じ決算の内側を見ると、Samsungは成長市場であるHBM(広帯域幅メモリ)でSK hynixとMicronの後じんを拝しているとの報道もある。記録的利益の正体は、Samsungの技術的な優位ではなく、AI需要が押し上げたメモリ市場全体の価格高騰にある。
数字が語る「歴史的四半期」の中身
Samsung電子が2026年7月7日に開示したのは、2026年Q2(4〜6月期)の暫定連結業績ガイダンスだ。営業利益は89.4兆ウォン、ドル換算で約584億ドル。売上高は171兆ウォンで、単純計算した営業利益率は52.3%に達する。売上高の半分以上が利益として残る計算になる。
前年同期比では営業利益が1810.3%増、売上高も129.3%増と、いずれも桁外れの伸びを記録した。前四半期比でも営業利益は56.2%増えており、伸びが減速する気配はない。ただしこの数字はあくまで暫定ガイダンスであり、部門別内訳を含む確定決算は後日の発表を待つ必要がある。Samsungを含む韓国の主要上場企業には、確定決算に先立って速報値としてのガイダンスを公表する慣行があり、今回の89.4兆ウォンもその位置づけの数字だ。
売上高の伸びが129.3%なのに対し、営業利益の伸びは1810.3%。利益の伸び率は売上高の伸び率の実に14倍に達する。出荷量が急拡大したというより、同じ量を売って得られる利益幅、つまり価格そのものが跳ね上がったことを示す数字だ。
NVIDIAが2027会計年度Q1(2026年4月期)に記録した従来の最高営業利益は535億ドル、Appleが2026会計年度Q1(2025年12月期)に記録した従来の最高は508.5億ドルだった。Samsungの584億ドルはNVIDIA比で49億ドル、率にして約9.2%上回る。Apple比では75.5億ドル、約14.8%の差がつく。半導体、スマートフォン、PCという畑違いの3社の四半期利益をドル換算で単純比較できるのは、それだけ今回の水準が突出しているからだ。
Samsungにとって今回の89.4兆ウォンは、単発の跳ね上がりではない。前回の記録は2026年Q1の57.23兆ウォンで、今回はそこから1四半期で56.2%積み増した計算になる。これで3四半期連続の記録更新となり、増益ペースそのものが加速している。
メモリ価格はなぜここまで急騰したのか
Samsungの増益を牽引したのはDS部門、つまりメモリ事業だ。背景にあるのはAIサーバー向けHBM(広帯域幅メモリ)需要の急増である。HBMはGPUなどAIアクセラレータに直結して大量のデータを高速にやり取りするための積層型メモリで、生成AIの学習・推論需要が伸びるほど1基あたりの搭載量も増えていく。
技術的に見ると、HBMは複数のDRAMダイを垂直に積み重ね、TSV(シリコン貫通電極)と呼ばれる微細な配線でチップ間を接続する構造を取る。バスの幅を広く取れるため、従来の平置き型DRAMよりも同じ動作クロックで数倍のデータ転送帯域を確保できる。AIアクセラレータ1基あたりの演算性能が上がるほど、周辺に積むHBMの容量と帯域も比例して増やす必要が出てくる。
メモリメーカー各社はHBM生産に生産能力を優先的に振り向けており、その分だけ従来型のDRAM・NANDに回せる生産枠が細る。需要が伸びているところに供給が絞られれば、価格は品目を問わず連動して上がる。実際、今四半期はDRAM ASP(平均販売価格)が前四半期比で50%超、NAND ASPが60%超上昇したとされる。
DRAM・NANDはPCやスマートフォンにも組み込まれる汎用品目であり、値上げの波は完成品メーカーの部材調達コスト全体に及ぶ。データセンター以外の製品分野でも、部材コストの上昇圧力は今回の決算の裏側で進行している。
値上がりの勢いは当面続く見通しだ。TrendForceは2026年Q3の契約DRAM価格が13〜18%上昇するとの自社予測を示しており、メモリ市況が短期的に反転する材料は今のところ見当たらない。一方でSamsung社内に目を移すと、ファウンドリとSystem LSI部門は赤字の拡大が見込まれている。同じ決算の中に、値上がりで潤う部門と苦戦する部門が同居している。半年に満たない期間で主要メモリ品目の価格が軒並み大きく切り上がった計算だ。
利益とシェアのねじれ、HBMで劣後する実態
Astute Group経由で報じられたCounterpoint Researchのデータによれば、2026年Q2時点のHBM市場シェアはSK hynixが62%、Micronが21%、Samsungが17%という。かつてメモリ市場で首位を保ってきたSamsungが、成長分野のHBMではSK hynixとMicronに次ぐ3番手に回っている計算だ。17%というシェアは、62%を握るSK hynixの3分の1にも届かない水準で、2位のMicronにも4ポイントの差をつけられている。89.4兆ウォンという利益額だけを見れば、Samsungはメモリ市場の主役に映る。だがシェアの内訳を見る限り、その印象とは裏腹の位置に立っている。
競争の軸も次世代規格へ移りつつある。Astute Groupの記事タイトルが示す通り、2026年のHBM市場の攻防はHBM4世代への移行を焦点にしており、現行世代のシェア構成がそのまま次世代に持ち越されるとは限らない。SamsungがHBM4の量産でどこまで追い上げられるかが、17%という現在地を動かす次の変数になる。
HBMはDRAM・NAND全体よりも成長スピードが速い分野でもある。AIサーバー1台に搭載するHBMの容量は、GPU世代が進むごとに増えていく構造にあるため、この分野の市場規模自体が今後も拡大を続ける可能性が高い。その拡大ペースが続くなら、Samsungが押さえる17%という取り分は、市場全体の伸びに自動的に比例して大きくなるとは限らない。
値上がりの勝者と敗者を分けた需給構図
メモリ価格の上昇局面で利益を伸ばしているのは、SamsungのDS部門、SK hynixとMicronの3社に共通する構図だ。HBMで先行するSK hynixとシェアを伸ばすMicron、そして汎用メモリの値上がりで稼ぐSamsungは、メモリの供給が需要に追いつかない状況の受益者という点で同じ側に立っている。
一方で負担を強いられているのが、AIデータセンターを構築する事業者だ。HBMやDRAMの価格上昇はサーバー1台あたりの部材コストに直接跳ね返り、GPUクラスタの構築費用を押し上げる。皮肉なのは、Samsung社内でも同じ構図が繰り返されている点だ。メモリを担うDS部門が記録的な利益を更新する一方、ファウンドリとSystem LSI部門は赤字の拡大が見込まれている。
AI開発を支える調達コストは、GPUそのものに加えて周辺のメモリ費用でも押し上げられている構図だ。この負担は、AIサービスの利用料金という形で最終的には利用者側にも回ってくる余地がある。
価格主導の増益には前例がある。Samsungは2018年のメモリスーパーサイクル時にも、当時としては四半期最高益を記録した。だが好況は長く続かず、2019年には半導体市況が急落し、利益は大きく落ち込んだ。当時も牽引役はメモリ価格の高騰で、需要が沈静化すると供給過剰が一気に価格を押し下げた。今回も値上がりが増益の主因である以上、同じ振れ幅を将来にわたって織り込んでおく必要がある。
投資家にとっては、この記録的な利益がどこまで再現性を持つかが次の焦点になる。値上がりが一巡すれば、伸び率も同じペースでは続きにくい。
この増益はどこまで続くのか
今回のガイダンスが語らないことも多い。メモリ、モバイル、家電といった部門別の詳細な内訳は、まだ示されていない。確定決算の発表日も公表されておらず、TrendForceが示す2026年Q3の13〜18%上昇という予測がどこまで続くのかも見通せない。経営陣によるコメントも今回の開示には含まれておらず、増益の持続性についての公式な見解はまだ示されていない。
この決算は日本の市場にも波及している。89.4兆ウォンは日経の報道ベースで約9兆円に相当する規模で、単純計算すると1円がおよそ10ウォンという換算になる。Bloomberg日本語版はSamsungの決算を受けて東京エレクトロンなど日本の半導体関連株が上昇したと報じた。
株価が反応した背景には、実需としての波及経路もある。半導体メモリメーカーが増産投資に動けば、その恩恵は成膜・エッチング装置を供給する日本の装置メーカーにも及ぶ。国内では、DRAM・NANDの値上がりがメモリ搭載製品の仕入れコストに波及し、PCやスマートフォンの価格改定という形で消費者に届く可能性もある。
89.4兆ウォンという数字は、Samsungの技術力を測る物差しにはならない。測っているのは、AI需要がメモリ市場全体をどれだけ押し上げたかという別のものさしだ。2018年の前例が示す通り、価格主導の増益は反落と隣り合わせでもある。確定決算と部門別内訳が明らかになる次回発表が、この記録的利益の中身を裏付けるかどうかの最初の答え合わせになる。