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AIデータセンターの救世主か? SoftBankとIntel、東大が共同で「HBM代替」次世代メモリ開発会社「SAIMEMORY」を設立

Y Kobayashi

2025年6月2日

人工知能(AI)技術が社会のあらゆる場面で急速な進化を遂げる中、その頭脳を支える半導体メモリの重要性がかつてないほど高まっている。現在のAI向け高性能メモリ市場を席巻するHBM(High Bandwidth Memory)だが、その製造コストや消費電力といった課題も顕在化しつつある。こうした中、日本のSoftBankグループ、米Intel、そして東京大学が手を組み、AI向け次世代メモリ開発という壮大なプロジェクトに乗り出した。新会社「SAIMEMORY(サイメモリ)」を設立し、HBMを凌駕する性能と効率性を目指すこの動きは、AIインフラの未来を左右するだけでなく、日本の半導体産業復権への大きな一歩となるのか、業界内外から熱い視線が注がれている。

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進化するAIが直面する課題:HBMと電力消費の壁

AI技術の急速な発展は、私たちの社会や産業に大きな変革をもたらしている。AIモデルの高度化に伴い、それを支えるデータセンターでは、膨大な量のデータを高速で処理する必要に迫られている。この演算能力を担うGPU(Graphics Processing Unit)には、一時的に大量のデータを記憶するための「HBM(High-Bandwidth Memory)」が不可欠となっている。HBMは、その名の通り高帯域幅を実現する革新的なメモリ技術であり、現代のAI処理において中心的な役割を担っていると言えるだろう。

しかし、このHBMにはいくつかの大きな課題が存在する。まず、その製造プロセスは極めて複雑であり、結果として製造コストも高騰する傾向にある。また、HBMチップはデータ処理中に高い熱を発生しやすく、冷却のための追加コストと複雑な設計が必要となる。そして何よりも、AIの進化が止まらない中、HBMの消費電力の増大は、データセンター全体の運用コストと環境負荷を押し上げる要因となっているのが現状だ。AIの高性能化が電力消費量の「爆食」へと繋がりかねないという警鐘は、これまでも度々指摘されてきた。

このような状況の中、世界の主要なHBMチップメーカーは現在、Samsung、SK hynix、Micronの3社に限られている。AIチップに対する飽くなき需要は、HBMの供給不足を招きかねない状況にあり、新たな、より効率的なメモリソリューションの登場が強く望まれていた。

日本の技術力と国際連携が結実:新会社「SAIMEMORY」の誕生

こうした課題に対し、画期的な解決策を提示しようと、日本から新たな動きが始まった。日本のテクノロジー・投資大手であるSoftBankグループが、米国半導体大手のIntel、そして東京大学と共同で、AI向け次世代メモリ開発の新会社「SAIMEMORY(サイメモリー)」を設立したことがテレビ東京の取材で判明したのだ。2025年5月31日に報じられた情報によると、新会社は7月1日から本格的に事業を開始する予定であるという。

新会社SAIMEMORYは、SoftBankが約30億円を投資し、設立当初の株式の67%を保有する筆頭株主となる。経営体制も明確で、SoftBankが財務担当のCFOを、Intelが技術担当のCTOを、そして東京大学の科学者が最高科学責任者(CSO)をそれぞれ担う。CEOには元東芝の役員が就任する予定だ。

社名の「SAIMEMORY」には、「才能」を意味する日本語の「才」と、物理学などで体積等を示す単位系である「SI」の意味が込められていると関係者は語る。これは、日本の持つ技術的才能を結集し、AI時代のデータ容量と電力効率の課題に新たな次元で挑むという、同社の強い意図が込められていると言えるだろう。

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HBMを凌駕する次世代メモリの革新技術

SAIMEMORYが開発を目指す次世代メモリは、現在のHBMチップと比較して、複数の点で画期的な性能向上を目指している。具体的な目標は以下の通りである。

  • 記憶容量: HBM比で2倍以上
  • 消費電力: HBM比で半分(Tom’s Hardware報道では40%減とも)
  • コスト: 大幅な削減

これらの目標を可能にする中核技術は、Intelが米国国防総省の高等研究計画局(DARPA)と共同開発した半導体の積層技術と、東京大学が開発している高速データ転送技術のハイブリッドアプローチにある。

Intelの積層技術は、複数のDRAMチップを効率的に積み重ねることで、従来のHBMよりも大幅な消費電力削減を実現するとされる。データ転送の経路を最適化することで、信号の損失を最小限に抑え、必要な電力を抑えることができるためだ。

一方、東京大学の高速データ転送技術は、メモリとGPU間のデータ経路を広げることで、大量のデータをより高速にやり取りすることを可能にする。これにより、パフォーマンスを向上させつつ、同時にコストの削減も実現するという。まさに「量」と「効率」の両面からAIメモリのボトルネックを解消しようとする試みだ。

日本半導体産業復権への新たな一手

日本の半導体産業は、1980年代には世界のDRAM市場の約70%を占めるなど圧倒的な存在感を示していたが、1990年代以降は韓国や台湾の競合企業の台頭により、多くのメーカーが市場から撤退していった苦い歴史を持つ。現在、日本国内でDRAMを製造する企業は存在せず、旧東芝から分社したKioxiaがNANDフラッシュメモリを生産するのみだ。

こうした背景から、日本政府は半導体とAI分野に2030年までに10兆円以上の公的資金を投じる法整備を行うなど、この分野の再興に並々ならぬ意欲を示している。SAIMEMORYの設立は、まさにこの国家戦略と軌を一にするものと言えるだろう。

SAIMEMORYは当面の研究開発費として約150億円を見込んでいるが、政府からの資金援助も視野に入れている。量産段階においては、当初は台湾の半導体メーカーへの生産委託を検討しているものの、将来的な展望として、日本政府と主要企業8社(トヨタ、Kioxiaなど)が共同で設立した次世代半導体製造会社「Rapidus」との連携も模索されている。

SoftBankの半導体開発責任者は、このプロジェクトについて「計画は順調だ。低消費電力と低価格なメモリのニーズは大きい」と開発への自信を示している。また、Rapidusとの協業の可能性についても、「技術開発次第だが、うまくいくといい」と前向きな姿勢を見せているという。SAIMEMORYが開発する次世代メモリをRapidusが生産するというエコシステムが実現すれば、これは単なる新会社設立に留まらず、日本の半導体エコシステム全体に大きな活力を与える可能性を秘めている。

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AI時代を支える日本の挑戦

AIの進化と普及は、私たちの生活をより豊かにし、社会のあらゆる側面に深い影響を与えることは間違いない。しかし、その裏側で増大し続ける電力消費は、持続可能な社会を実現する上で無視できない課題となっている。SAIMEMORYが目指す「省電力・大容量・低コスト」の次世代メモリは、この電力問題に正面から挑むものだ。

今回のSoftBank、Intel、東京大学の連携は、まさに「産学官連携」そして「国際連携」の理想的な形と言えるだろう。それぞれの強みを持ち寄り、喫緊の課題解決に挑むこの新たな試みは、日本の半導体産業が再び世界の舞台で輝きを取り戻すための重要な一歩となるかもしれない。AIと量子コンピューティングの進展が加速する中、SAIMEMORYが切り拓く次世代メモリの未来に、世界中のテクノロジー関係者、そして一般ユーザーからも大きな注目が集まることは必至だ。


Sources

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