市場調査会社のTrendForceは2026年10月29日、AIサーバー向けの高容量MLCC(積層セラミックコンデンサー)の供給不足が2027年上半期まで続くとの見通しを発表した。AIの用途が学習だけでなく推論やAIエージェントへ広がり、CPUの需要が増加していることに加え、CPUの電源回路やメモリ周辺でも高容量MLCCの需要が膨らんでいるという。村田製作所では、2026年4〜6月期のMLCC単体の受注高が売上高の1.47倍に達し、NVIDIAも8月に次世代AI基盤「Vera Rubin」の量産出荷を開始した。一方、村田が計画するMLCC生産能力の2割超の増強は、2027年度までの2年間をかけて進めるものだ。供給不足が長期化する背景は、「2028年まで生産能力が増えない」と仮定しなくても、需要の急増と能力増強の時期のずれによって説明できる。

AD

AI推論の拡大でCPUが増え、電源回路とメモリ向けMLCCの需要も急増

TrendForceが今回の発表で注目したのは、GPUではなくCPUを起点とする需要の拡大だ。同社によると、AI推論やAIエージェントの処理が増えるにつれてCPUの需要が伸び、CPUに必要な電源モジュールやメモリも増加している。その結果、CPUを搭載するマザーボードだけでなく、メモリモジュールでも高容量MLCCの需要が拡大し、標準的な高容量品の供給を圧迫しているという。TrendForceは7月に日本と韓国のメーカーの受注・出荷比率、8月にはSamsung Electro-Mechanics(SEMCO)の値上げ動向を取り上げていたが、今回は需要の拡大がCPUやメモリ周辺にも及んでいる点を強調している。

CPU需要の拡大は、半導体メーカーの決算からも確認できる。NVIDIAのColette Kress CFOは8月26日の決算説明で、エージェント型AIの普及によってデータセンター向けCPUの需要が加速していると述べ、次世代のVera CPUが本格生産に入ったことを明らかにした。さらに、2028会計年度(おおむね2027年2月〜2028年1月)のCPU売上高が2倍を超えるとの暫定的な見通しも示している。AMDのLisa Su CEOも8月4日の決算発表で、下半期にはEPYCの需要が加速し、Instinctの導入拡大とともにHeliosの立ち上げが始まるとの見方を示した。

メモリ側でMLCCの需要が増える背景には、DDR5で電源回路の構成が変わったことがある。IntelのFPGA向け技術文書によると、DDR5のRDIMM(サーバー向けメモリモジュール)では、従来マザーボード側が担っていた電源管理機能が、各メモリモジュール上のPMIC(電源管理IC)へ移された。このPMICには、4つの降圧スイッチングレギュレーターと3つのLDO(低ドロップアウト型の線形レギュレーター)が組み込まれている。つまり、従来はマザーボード側で生成していた電圧を、メモリモジュールごとに生成する構成になった。電源回路がモジュール側へ移れば、それに必要なコンデンサーなどの部品もモジュール上に実装される。TrendForceがメモリモジュール向け高容量MLCCの需要増加を指摘する背景には、こうした電源回路の構成変更があると考えられる。

ただし、CPUの増加が必ずしもDDR5 RDIMMの需要増加に直結するわけではない。例えば、NVIDIAのVera CPUは88コアのArmベース設計を採用し、最大1.5TBのLPDDR5またはLPDDR5XメモリをSOCAMM形式で搭載するため、DDR5 RDIMMは使用しない。DDR5 RDIMMを通じたMLCC需要の拡大は、主にAMDのEPYCやIntelのXeonを搭載するx86サーバーに当てはまる。NVIDIAのCPU増産はデータセンター向けCPU需要の拡大を裏付けるものだが、Vera CPUのメモリ周辺でMLCCの使用量が具体的にどのように増えるかは、今回のTrendForceの発表からは判断できない。

一方、GPU側でも高容量MLCCの調達が活発化している。TrendForceによると、AMDはMI450プラットフォーム向けに特殊な高容量MLCCの調達を開始した。AMDは8月の決算発表で、MI450シリーズを搭載するラック型システム「Helios」を使い、Anthropicと最大2ギガワット規模のMI450シリーズGPUを展開する提携について説明している。CPU、メモリ、GPUという複数の用途で高容量MLCCの需要が同時に拡大していることが、供給不足を深刻化させる要因となっている。

2026年夏に需要が急増、村田の生産能力増強は2027年度まで継続

村田製作所が7月31日に発表した2026年度第1四半期(4〜6月期)の決算では、売上高が前年同期比20.7%増の5023億円だった一方、受注高は過去最高の6739億円に達した。受注残高は6178億円に積み上がり、データセンター関連の売上高は前年同期比81.1%増の697億円となった。南出雅範副社長は決算説明で、データセンター向けを中心に受注が非常に好調だと述べ、MLCC単体のBBレシオが1.47に達したことを明らかにした。同社は通期のデータセンター関連売上高についても、前年度比109.7%増の3706億円を見込んでいる。

BBレシオとは、売上高に対する受注高の比率を示す指標だ。1を超えていれば出荷・売上計上した金額を上回る注文が入っていることになり、その差額が受注残高の増加につながる。村田の全社ベースでは、受注高6739億円を売上高5023億円で割った1.34となり、受注が売上を約1700億円上回った。これに対し、MLCC単体の1.47は、売上100に対して147の受注が入ったことを意味する。MLCCでは全社平均以上の勢いで受注が積み上がっており、受注残を減らすには出荷量を増やす必要がある。そのためには、生産設備の能力増強が欠かせない。

4〜6月期に顕在化した需要の拡大は、8月には完成品の出荷にも表れた。NVIDIAのKress CFOは8月26日の決算説明で、Vera Rubinの量産出荷を同月上旬に開始したと明らかにした(原文:「We commenced production shipments of Vera Rubin earlier this month」)。同氏はVera Rubinについて、同社史上最速の立ち上がりになるとの見方を示し、2026年7月下旬〜10月下旬に当たる第3四半期には、データセンター売上高の約20%を占めると予想した。決算発表によると、CoreWeave、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure、Nebiusでは、すでにVera Rubinのラックが稼働している。TrendForceはVera Rubinの出荷が2026年10〜12月期から月を追って増加すると予測しており、Kress氏もNVIDIAの供給制約が少なくとも2028会計年度末まで続くとの見通しを示している。

これに対し、MLCCメーカーの生産能力増強には時間がかかる。台湾の経済日報(聯合新聞網)が日本経済新聞のインタビューを引用して伝えたところによると、村田は2027年度までの2年間でMLCCの生産設備に約800億円を追加投資し、生産能力を2割以上増やす計画だ。ただし、この増強率はMLCC全体を対象とするものであり、AIサーバー向け高容量品に限った生産能力の増加率は明らかになっていない。

業界全体でも供給能力の拡大は需要に追いついていない。韓国のETNewsは8月、高級MLCCのリードタイムが5〜10カ月以上に延び、当初2026年10〜12月期に予定されていた新たな生産能力の立ち上げが2027年へずれ込んだと報じた。電子部品販売大手DigiKeyのデータでも、SEMCOの一部高容量MLCCのリードタイムは約40週に達している。

需要の拡大と供給能力増強の動きを時系列で整理すると、次のようになる。NVIDIAの会計四半期と村田の会計年度は、比較しやすいよう暦上の月に置き換えている。

時期(暦) 出来事 主体・出典
2026年4〜6月 村田のMLCC単体のBBレシオが1.47に達する 村田製作所(南出副社長の決算説明)
2026年6月末 BBレシオは村田1.30、SEMCO 1.31、太陽誘電1.25と、コロナ禍以降の最高水準に達する。業界全体は1.04 TrendForce集計(村田の開示とは集計主体・定義が異なる)
2026年8月 Vera Rubinの量産出荷が始まる NVIDIA(Kress CFO)
2026年8月 高級MLCCのリードタイムが5〜10カ月以上に延びる ETNews(TrendForce Newsが引用)
2026年10〜12月 SEMCOがOEM/ODM向けMLCCを値上げ TrendForceの推計(8月27日発表)
2026年11月 2027年1〜3月期分の価格交渉が始まる TrendForce
2027年1〜6月 ODMが高級MLCCの供給不足が最も深刻になると予想する時期 TrendForceの調査
2027年通年 SEMCOが1兆700億ウォンの契約に基づき、AIサーバー向けMLCCを供給 Korea Herald
2028年3月 村田の生産能力2割超増強計画の対象期間(2027年度)が終了 村田(日経インタビューの転載)
2028年3月 村田が生産を終了する一部汎用品などの最終受注期限 Korea Herald(業界筋の情報)

TrendForceが調査したODM(設計・製造受託企業)は、高級MLCCの供給不足が2027年1〜6月に最も深刻になると予想している。Vera Rubinの量産出荷が2026年8月に始まった一方、村田の生産能力2割超増強計画は2027年度末(2028年3月)まで続く。つまり、ODMが予測する供給不足のピークは、村田が生産能力を増強している途中に訪れることになる。

需要側では、その間に必要な供給量を長期契約で確保する動きも進んでいる。Korea Heraldによると、SEMCOは2027年を通じてAIサーバー向けMLCCを供給する総額1兆700億ウォン(約7億7400万ドル)の契約をグローバル顧客と締結した。同社のMLCC契約として過去最大の規模であり、長期供給契約の相手は10社を超えるという。供給不足が見込まれるなか、顧客が将来の必要量を早期に確保しようとしていることがうかがえる。

AD

村田の生産能力増強は「2028年まで実現しない」のか

TrendForceの発表には、需要と供給の時期のずれに加え、村田の生産能力について気になる記述がある。同社は、村田が設備拡張計画を前倒しするものの、新たな生産能力が2028年より前に立ち上がる可能性は低く、当面は供給が大きく改善しないとの見方を示した。その根拠として、村田の幹部が既存の生産能力では市場の要求を十分に満たせないと認めたことを挙げている。この説明だけを読むと、村田では2027年中に生産能力がまったく増えないようにも受け取れる。

しかし、村田側が説明している計画は、既存拠点での能力増強と将来の新工場建設を分けたものだ。南出副社長が日本経済新聞に語ったとされる内容では、2027年度までの2年間に約800億円を設備投資に充て、生産能力を2割以上引き上げる。一方、2028年以降の需要に対応するために検討しているのは、まだ建設を決定していない大型の新工場だ。同じ転載記事によれば、2028年までに必要となる建屋は前倒しで準備を終えており、新工場については国内外の既存拠点で建設を検討しているという。南出氏はAI向けMLCCの需要について、少なくとも2028年まで拡大が続くとの見方を示している。

両者の説明が矛盾するかどうかは、TrendForceがいう「新たな生産能力」の範囲による。これが新設する大型工場の能力を指すのであれば、村田の説明と両立する。既存の建屋へ設備を導入することで2027年度まで段階的に生産能力を増やし、さらに2028年以降の需要に向けて大型工場の新設を検討するという解釈だ。一方、既存建屋への設備増設を含む生産能力全体を指すのであれば、2027年度までに2割以上増やすという村田の計画と食い違う。TrendForceの発表文だけでは、どちらを意味するのか判断できない。

もっとも、2027年上半期まで供給不足が続くという見通しは、どちらの解釈でも成り立つ。 既存設備の増強が2027年度まで段階的に進むのであれば、供給不足が最も深刻になると予想される2027年1〜6月は、まだ能力増強の途中に当たる。仮に新たな能力の立ち上がりがさらに遅れるのであれば、供給制約は一段と長引く。したがって、2028年まで生産能力が増えないと仮定する必要はなく、需要の増加に対して増産が追いつくまでの時間差だけでも、供給不足が続く理由を説明できる。

村田は、限られた生産能力の配分を見直す動きも進めている。Korea Heraldが業界関係者の情報として報じたところによると、村田は9つの製品シリーズに含まれる一部品番について、生産終了を顧客に通知した。対象は民生機器や産業機器向けの汎用MLCCと一部の車載向け製品で、最終受注期限は2028年3月、最終出荷はその1年後となる。村田は製品構成を見直し、ほかの製品に生産能力を振り向けるためだと説明しているという。これによってどの程度の生産能力が確保されるかは不明だが、新設備の稼働を待つ間にも、既存ラインをAI向けなどの需要が強い製品へ振り向けようとしていると考えられる。

なお、村田は2026年度の設備投資計画を50億円増額し、2550億円とした。ただし、これは全社の設備投資額であり、MLCCだけに充てる金額ではない。今後発表される第2四半期決算では、生産能力増強の規模や実施時期について新たな情報が示される可能性がある。

輸入物価24.5%上昇の内訳と、MLCC材料への影響

TrendForceは今回、供給側の負担を増やす要因として、原材料費と物流費の上昇も挙げている。同社によると、日本の輸入物価指数は9月に前年同月比24.5%上昇し、MLCCの電極に使われるニッケル、銅、銀などの調達コストも上がっている。ただし、日本銀行が10月13日に公表した企業物価指数(2026年9月速報)を確認すると、24.5%という数字は輸入物価全品目の円ベースの総平均であり、MLCC材料だけの価格上昇率を示すものではない。

系列(2026年9月速報) 円ベースの前年同月比 契約通貨ベースの前年同月比
輸入物価・総平均 24.5%上昇 17.9%上昇
金属・同製品 32.4%上昇 25.2%上昇

TrendForceが引用した輸入物価の24.5%上昇は、全品目を円に換算した総平均であり、契約通貨ベースでは17.9%の上昇となる。一方、MLCCの電極材料を含む「金属・同製品」は、円ベースで32.4%、契約通貨ベースでも25.2%上昇している。総平均の上昇を大きく押し上げたのはエネルギー関連で、「石油・石炭・天然ガス」は円ベースで43.6%上昇した。「電気・電子機器」も同29.5%上昇している。

円ベースと契約通貨ベースの違いは、為替変動を反映するかどうかにある。契約通貨ベースでは、例えばドル建て取引であればドルでの取引価格の変化を測る。一方、円ベースではその価格を円に換算するため、円安が進めばドル建て価格が変わらなくても円換算の輸入価格は上昇する。したがって、円ベースの輸入物価上昇率には、海外での価格上昇に加えて為替変動の影響も含まれている。

総平均の円ベースと契約通貨ベースの指数変化率から、1.245÷1.179−1を計算すると約5.6%となる。これは前年同月と比較した円換算上の価格上昇効果を概算したもので、為替変動の影響がこの程度含まれていると考えられる(編集部計算。日本銀行が為替の寄与を直接示したものではない)。一方、「金属・同製品」は契約通貨ベースでも25.2%上昇しており、円安の影響を除いても海外での価格が大きく上がっていることが分かる。

ただし、「金属・同製品」は複数の品目をまとめた分類であり、日本銀行の速報からニッケル単独の価格変化を確認することはできない。また、9月の契約通貨ベースの前月比で、この分類の上昇に主に寄与したのは銅鉱、銀地金、モリブデン鉱だった。輸入物価指数はMLCCメーカーが実際に支払う調達価格そのものではなく、9月の数値も速報値であるため、今後改定される可能性がある。

原材料費の上昇は、メーカーの業績見通しにも影響している。村田は2026年度の通期予想を売上高2兆1100億円、営業利益4300億円に上方修正したものの、営業利益の上積みは500億円にとどまった。南出副社長はその理由として、貴金属を含む材料費の高騰と固定費の増加を挙げている。日本銀行の統計と村田の決算説明では対象や集計方法が異なるが、いずれもコスト上昇の圧力が強まっていることを裏付けている。受注が出荷を大きく上回るなかで原材料費も上昇しており、日本のMLCCメーカーには需給とコストの両面から価格引き上げを求める理由が生じている。

AD

11月の価格交渉で日本のMLCC大手も値上げに踏み切るか

MLCCの価格引き上げで先行しているのはSEMCOだ。TrendForceは8月27日、SEMCOが2026年10〜12月期のOEM/ODM向け価格引き上げを主導するとの見通しを示した。推計された値上げ幅は、民生機器向けのX5Rで平均25〜30%、AIサーバー向け高級品のX6Sで平均10〜20%に達する。ただし、実際の価格は顧客との交渉条件によって異なる。同じ時点では、村田製作所、太陽誘電、京セラの日本メーカー3社は、OEM/ODM向け価格を据え置いて市場の動向を見極めているとTrendForceは分析していた。

その後、MLCC市場では用途による需給の差が一段と鮮明になっている。TrendForceによると、主要なノートPCのODMは2026年10〜12月期の受注が前年同期比で平均10〜15%減少すると予想しており、スマートフォンメーカーもエントリーモデルやミドルレンジ製品の出荷を絞っている。こうした需要の弱さを背景に、民生機器向けの低〜中容量MLCCのスポット価格は10月初旬に約5%下落し、その後はいったん下げ止まった。高級MLCCについても価格上昇の勢いは鈍り始めているが、AI向けの供給制約は依然として強い。TrendForceによれば、供給不足は光通信モジュール向けのMLCCにも広がっているという。

TrendForceは、高級MLCCの供給不足が2027年上半期まで続き、価格交渉ではメーカー側が優位な立場を維持すると予測している。2027年1〜3月期分の価格交渉は2026年11月に始まる予定であり、村田製作所などの日本メーカーもSEMCOに続いて値上げに踏み切る可能性が高まっているとした。ただし、民生機器向けの低〜中容量品では需要が弱いため、すべてのMLCCで一律に値上げが進むとは限らない。

供給不足の緩和につながる具体的な増産計画としては、村田が2027年度までの2年間で生産能力を2割以上引き上げる方針を示している。一方、SEMCOが締結した2027年通年の長期供給契約は、生産能力そのものを増やすものではなく、顧客が将来の供給量を先行して確保する動きだ。村田の増産が2027年度にかけて段階的に進む一方、それまでの供給量と価格をめぐる交渉は11月から本格化することになる。

今後の焦点は大きく三つある。第一に、11月の価格交渉で日本メーカーがOEM/ODM向けMLCCの値上げに踏み切るか。第二に、村田の第2四半期決算で受注動向とMLCCの設備投資計画がどのように更新されるか。第三に、NVIDIAの第3四半期決算でVera Rubinがデータセンター売上高の約20%を占めるという見通しが達成されるかだ。これらの動向によって、需要の拡大がどの程度続き、メーカーが供給能力をどこまで引き上げられるかが見えてくる。高容量MLCCの供給不足がいつ緩和するかを左右するのは、需要の伸びに対して、村田などのメーカーがどの時点で十分な生産能力を確保できるかである。